「―――微妙な所だよな」
「・・・・・・何がだ?」
軽い問いかけに反応する手塚の口調も幾分明るい。
青春学園の校門前で待ち合わせ、二人肩を並べて歩いている途中、ここしばらくの鬱屈が払拭された明るい表情の跡部に手塚の方も心浮き立つ感じがしている為だ。
何かを悩んでいたらしい跡部は、年が明けてから、手塚と距離を取るようになっていた。思うように連絡も取れぬ状況に歯がゆさも感じたが、過剰な束縛は返って逆効果となるところであるので、手塚はじっと待った。勿論、折につけ、近況を確認するようにはしていたけれど。
離れたのは跡部の方からだった。そして再び歩み寄ってきたのも跡部の方からだった。その点、手塚は受身に過ぎたかもしれないが、今現在の二人の関係上からいえば主導権は跡部にある。ただし、本気で離れようとするならば、それこそ本気で引き戻す気ではあったが。
結論から言えば、跡部は自己完結したようだった。以前と同様、暇があれば(跡部の日常からいくとその暇を作るのも容易な事ではないようだが)手塚に誘いをかけてくるし、手塚家に遊びにも来る。当然ながら母は喜んだ。このまま穏やかに日が過ぎていってくれれば良いが、と望む。跡部を取り巻く環境が難しいものであったとしても、この関係を崩したくはないのだ。できれば今一歩進ませたい所ではあるが。
だがいましばらくは、この曖昧な友情関係を続けるのも良いのかもしれない。再び隣に立つようになった跡部の姿を見やれば、そう思えた。
「――まぁな。挑戦状と取るか、ラブレターと取るか、単なる悪戯と取るか」
「手紙、か」
ぴらと指に挟まれたのは、何のしゃれっ気もない白い封筒だった。跡部が男女を問わず大層もてる事は知っているので、またラブレターの類かと、少しばかりひっかかるが、苦情申し立てできるような関係ではないので黙るしかない。
「手紙かどうかは開いてみなきゃわかんねぇな。ま、剃刀の類は入っちゃいねぇだろうけどよ」
「随分古臭い嫌がらせだな」
「古典的手段が一番有効だったりするからな。ふ、んな顔すんなよ。てめーん所の後輩からだ」
「後輩、だと」
「ああ。1年坊・・・・じゃねぇ、今は2年か」
「まさか越前の事か?」
「正解だ。てめーを待ってる時に寄ってきた」
「・・・・・・・・・・・・」
越前が一体跡部にどのような手紙を送ったのか気になる。だが、他人宛の手紙を見せて欲しいというわけにもいかない。
「気になんのか?」
「なると言ったら?」
「・・・・別にどうもしねぇけどな」
言葉通り、手塚の反応を気にする事なく跡部は白い封筒の封を切った。
「・・・・手紙じゃねぇな。・・・・花かよ」
かさかさと振る封筒から、跡部の白い手の平に零れ落ちたのは小さく可憐な青い花。手塚ならずとも、よく見知った花だ。
「ふ、ん。ガキの癖に洒落た真似、みせんじゃねぇか」
「・・・・・あいつにしては殊勝なものだ」
跡部が茎を摘んで振る青い花は忘れ名草だ。
フォーゲットミーノット 〜私を忘れないで下さい
その意は広く知られている。
「忘れられるようなタマだと思ってやがんのか?」
「――そうは言うが、関わりの消えたあいつからすれば不安もあるのだろう。――だが」
「アーン?」
「・・・・ラブレターという事はあるまい。挑戦状として取っておけ」
「決め付けかよ」
「当然だ。ライバルを増やすつもりなどないからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
虚を突かれたような跡部の顔に、やはり早まったか・・と思わないでもなかったが、後手に廻って出遅れては意味がない。越前には悪いがこの勝負負けるわけにはいかない、と手塚は腹を決めた。
「・・・・・・どうでもいいが・・・・てめぇ、大人げねぇ」
跡部の言葉に手塚は「当然だ」と言い切る。物分りの良い大人になどなるつもりはない。求めるものが得られるのならば、子供の我がままを通してみるのもひとつの手だ。そう主張する手塚に、跡部は呆れたような表情を浮かべた。