花言葉と花で 20 のお題
 
 
 
 
 
18  りんどう
 
 
 
 秋も深まったある日、手塚は跡部を山へと誘った。
 鍛えているとはいえ、山登りともなれば勝手が違う。あまり難所の無いどちらかといえばハイキング向きのコースを手塚は選んだ。
 鳥のさざめきにに耳を傾けながら歩く途中、鮮やかな青みがかった釣り鐘型の花が目に止まる。
「――跡部、向こうを」
「んだよ。・・・・竜胆か」
「自然に囲まれている方が、より美しいな」
「一時の清涼感、てな。少し、休憩しようぜ」
「ああ」
 跡部の求めに応じ、その場で小休止を取る事とした。
 ふうと息を吐く跡部は、少しばかり疲労を感じているようだ。体力的なものよりも、精神的疲労が蓄積されているように思えて、息抜きの為に引っ張り出したのだが、体を休ませた方が良かったのだろうか。
「動いてる方がマシだ」
「・・・・・・また読まれたか」
「はん。てめーの考えは読み易い」
「そう言ってくれるのは跡部ぐらいだ。むしろ、喜びを感じるな」
「そりゃ良かったな。礼でも言いやがれ」
「ありがとう」
「・・・・・・・・・・」
 言われた通りの言葉を放つと、跡部はこれ以上ないぐらいの渋面を整った顔に浮かべた。それこそまるで竜胆の根でも齧ったかのような。
 漢方薬の材料としても知られる竜胆の根は、竜の胆が如く苦い事からその名をつけられたとも言う。まぁそれが必要なのは、身近な者で言えば大石ぐらいのものなのだろうが。
「手塚の告白モドキは、頭痛くなんぜ?本気で口説く相手にゃ、もう少し気の効いた事言えよ。何ならレクチャーしてやってもいいが」
「・・・・遠慮しておこう」
 ここで、本気の相手はお前だと言えば、跡部はどんな反応を見せるのだろうかとも思ったが、急いては事を仕損じるというもの。そんな事態にでもなれば、物見高い友人達の追求がかなりのものとなるだろう。彼等の場合、傷口に塩を塗りこむどころか、更に広げて真っ赤に燃えた鉄小手を押し付けかねない。まぁ、その手の輩はごく一部ではあるけれど。それに、母の反応は・・・・それどころではなく怖いというものだ。とにかく油断せずに行かねばなるまい。
「ああ、告白って言やぁ、変な告白されたな」
「何だって?」
「ま、告られんの自体は珍しいこっちゃないが、りんどう片手に「悲しんでいるあなたを愛します」だとよ」
「・・・・どう答えたんだ?」
「視力検査してこい」
「にべもないな」
 すっぱり言い切る跡部に苦笑が沸いた。
 ある意味では趣味の良い、ある意味では趣味の悪い告白だ。跡部に印象づけようとしたのか、それとも本心からのものなのか。後者であるならば、あまり近づけたくない手合いと言えるかもしれない。跡部の幼馴染達に、後で一言忠告しておこう。
「何にしても淋しい愛情だな」
「あぁん?」
「跡部が悲しむ姿を求めているという事になるだろう」
「単に、勘違い女の戯言だろ」
「そうとばかりも言い切れない」
 ふんと鼻を鳴らす跡部に心弱さなど存在しないように見えるだろう。だが、目に見えるものばかりが真実ではない。
「・・・・なるほどね。だったらどうなんだ?俺様が悲しんでいるとしたら、てめーはどうする?」
「どうするだろうな」
「考えてねぇのかよ」
「抱きしめれば払いのけられるだろう?慰めの言葉は跳ね除けられる。見守るだけならでくの棒扱いだ。本気でどう行動すべきなのか悩むんだが」
「はっ、どう行動したって手塚相手に慰められるような俺様じゃねぇな」
「それが一番頭の痛くなるところだ」
 小馬鹿にしたような笑みを浮かべる跡部に、真剣な面持ちで返すと、跡部は虚を突かれたような表情となった。ただのジョークのつもりが返されて戸惑っているような、そんな顔だ。
 真剣に考えこむ手塚と、どう反応すべきか考えあぐねている跡部。そんな二人の傍らで、青紫の竜胆の花が笑うようにゆれていた。
 
 
 

「寂しい愛情」...りんどう  2006.10.18
 
 
 
 
 
<< B A C K