花言葉と花で 20 のお題
 
 
 
 
 
01  アイリス
 
 
 
 玄関先で靴を履き、外へと足を踏み出しかけた折に背中に声がかかった。
「跡部、ちょっと待ってくれ」
「あん?」
 気の置けない友人関係を築きつつある手塚との間では、互いの家を行き来する程度の親交が結ばれている。
 今日この時は、跡部が手塚宅を訪れていたわけで、今はその帰りがけ。
「別に忘れ物なんかしてねーぜ?」
「いや。渡したいものがあるんだ」
「ふうん?」
 部屋に居る時に渡しゃいいのに、と思いながらも跡部は素直に待つ。
 程なくして手塚はその顰めつらしい面立ちに似合わぬ華やかとも言える手荷物を持って戻ってきた。
「アイリス、かよ」
「さすがだな。一目見ただけで種類がわかるのか」
「うちにゃ、植物園紛いの庭園と温室があるからな」
「そうか。では、このような物は邪魔になってしまうだろうか」
「んなこたねぇぜ?」
 少しばかり意気消沈した風に見える手塚に、跡部はすぐに否定の言葉を発した。
 手塚と花。これほど似合わぬ単語もないような気もするが、こうして並べてみればその清楚な花と手塚の静謐なる風情がよく似合っているようにも見える。
「これは、俺が育てたんだ」
「へ、ぇ。まさかてめーに、んな趣味があろうとはな。ま、悪かねぇけど」
「本当は春に咲かせる筈が、育成がうまくいかなくてな」
「―――今は秋だぜ?」
「ああ。これは1年に2度咲く」
「レブルーマーか。そりゃ珍しいな。しかし何故アイリスなんだ?もっと育て易い品種があるだろうよ」
 手塚の手からそっと受け取りながら、跡部は疑問を発した。
「昨年の夏、死に絶えたような地表を見て、育ててみたくなったんだ」
「そりゃ地上部だけだろ。夏と冬、この季節を受けて花芽分化していくと聞いた」
「本当に詳しいな」
「庭師のおっさんが、話好きなんだよ。最もうちじゃ、二季咲き品種は育ててねぇがな」
「貰ってくれるか?」
「有り難く、受けといてやるぜ」
 遠慮がちな手塚に、鷹揚に構える跡部。受け取り手と受け渡し手の正しい関係とはいえないが、二人の間ならばそれもまた有だった。
 口調の割にはそっと、花を傷つけないように大事に抱える跡部の頭上から、手塚が扉を抑える。その扉をくぐり抜ける直前、すっと口を寄せた手塚が跡部の耳に「この花は、『パーフェクト・カップル』と言うんだ」囁きを落とした。
 不意打ちを受け、「アーン?」と切り返す間もないままにトンと背を押され、外に押し出された跡部の前にはパタンと閉じられた手塚家の扉。それを開いて発言者を詰問する気には・・・・到底なれない跡部である。
 狐に包まれたような気分のままに帰路についた跡部は、アイリスの花言葉を思い出し「――冗談、だよな・・?」と、首を傾げるが、腕の中の大輪の花だけはどこまでも現実のものだった。
 
 
 

「あなたを愛す」...アイリス  2006.09.14
 
 
 
 
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