花言葉と花で 20 のお題
 
 
 
 
 
19  マリーゴールド
 
 
 
 家に帰ると母と跡部が仲睦まじく戯れていた。
 ――微笑ましいと思うべきか、将来を見越して喜ぶべきなのか、それとも玩具にされている跡部を救出すべく尽力すべきなのか。
 まぁ、微妙な所。
 ここで助け手を出す方が跡部の心証は格段に上がるだろう。
 まぁ、それはわかっているのだが――見ていて楽しい光景なので、今ひとつその気になれない。
 
「ほら、景ちゃんにはよく似合うわ」
「・・・・・・・・いや、そうは思わないのですが」
「そんなことないわよ。うふふ、花嫁さんみたい。マリーゴールドの花はね、【夏の花嫁】の意味もあるのよ」 「・・・・・・・・そうですか」
 何とか笑みを浮かべて答える跡部だが、その笑みは微妙にひきつっている。それも当然なるかな。
 柔らかそうな金茶の髪には、オレンジ色の――黄金色とでも称すべきか、花が飾りつけられていた。一体何をどうすれば、あの跡部景吾がこのような事態に陥るのか実に興味深いところである。手塚には母の手腕を見習うどころか、足元にも到底達する事はできないだろう。
 母の言葉通り、跡部の端麗な顔立ちにマリーゴールドの明るい色合いはよく似合っていた。けして女性的とは言えぬ風貌であるというのに、不思議によく似合う。友人の大石あたりに言わせると、手塚の目が曇りまくっているという事なのだが、母(父や祖父もそれに応じる)の言を聞く限りでは、過ちとは到底思えない。
「国光も嬉しいでしょう?」
「そうですね」
「って、何が「そうですね」だ!んなところで突っ立ってないで助けろよっ!」
「この家では、母に逆らう者は居ない。跡部がどうしてもというならば努力はするが、成果は期待しないで貰えると有りがたい」
「あら、まるで私が暴君みたいな言い方をするのね?」
「そんな事はありません」
「・・・・・・も、いい」
 母と息子の間に挟まれた跡部は、がっくりとうなだれて降参の意を示した。どうやら手塚に見切りをつけてしまったようだ。
「この花にはね、他にも良い効果があるの」
「何でしょう?」
「防虫効果。虫除けよ」
「それは素晴らしい効能ですね。跡部、いつもつけていてはどうか?」
「・・・・・・・・・何が言いたいんだ・・・・・・」
 手塚と彩菜の言葉に何やら感じるものがあったのか、跡部が警戒心を表している。生めよ育てよのラブコールは少しずつ育ってきているのだろうか。インサイトなどという能力を得意とする割には、自らに向けられる感情に無頓着な跡部であるので、従来その手の事が得意ではない手塚としてはいろいろと苦労のし通しである。
「大体、マリーゴールドの防虫効果は根っこの部位でしょう。いい加減とりますよ」
「あら駄目よ」
「・・・・駄目?」
「だって似合っているもの」
「・・・・・・・・・」
 母はやはり最強だった。たった一言で跡部の言葉も動きも封じている。感心を通りこして尊敬を抱くところだ。
「とにかく・・・・俺は男ですので、こういったものを頭に飾り立てて外を歩くわけにはいきません。・・・・花は、頂いていきますけれど」
「それは、駄目」
「彩菜さん?」
「この花は贈り物としては相応くないのよね。国光もそうだと思うけれど、私も困るわね」
「キリストの受難、ですか」
「そうね。悲しいお別れなんて、する気はないもの」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 微笑を浮かべる母を、跡部はじっと見つめた。やがて小さく息を吐くと、にこりと微笑みを浮かべてとんでもない事を言い切る。
「―――ならば、手塚に引導を渡す時にはトラック一杯分のマリーゴールドでも送りつけることにしますよ」
「それは壮観よねぇ。景ちゃんたら、国光と別れるのはトラック一杯の悲しみという事?」
「え?あ、いや、そういう、わけでは・・・・」
 言葉に詰まる跡部は、墓穴を掘ったのだろうか。少なくとも普段隠している本音を、少しだけ垣間見せてくれたような気がする。 
 ただし、それが実現されては困るので、そうならぬよう、油断せずに行こう・・・・と手塚は心に思い定めた。
 
 
 

「別れの悲しみ」...マリーゴールド  2006.10.19
 
 
 
 
 
 
 
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