花言葉と花で 20 のお題
 
 
 
 
 
06  桜草
 
 
 
 携帯電話の受信記録を確認してみなくとも、跡部からの連絡が途絶えてから結構な日数が立ったような気がする。
 もともとは年に数回顔を合わすかどうかという関係だったのだから、元に戻ったといえばそれまでなのかもしれないが、心親しく付き合う仲となったと思っていたから残念にも思う。
 水と油の如く性質など合わないと思っていたのは、手塚の勘違いだった。派手なパフォーマンスを好む扱い辛い手合い、というのは確かに跡部の一面にあるが、それが全てと思っていたのは手塚が単に何も見えていなかったからだ。
 初めての対戦は忘れ得ぬ試合となった。二度目の再戦は叶わなかったが、この先何度でも跡部とは戦う事になるだろう、そんな予感が手塚にはあった。
 テニスを通じてしか関わりがないと思っていた相手は、思いのほか付き合い易い相手だった。こちらの意を汲んで暮れることに長けており、手塚家のどちらかといえば古風な考えを持つ家族にも受けが良い。いつしか家ぐるみで跡部を受け入れるような関係が築かれていた。
 それも、年が明ける頃までであったが。年始の挨拶にやって来た跡部は、「当分、来れねぇと思う」とだけ言った。跡部が忙しい身の上である事はよくわかっていたので、残念に思いながらも「あまり無理をするな」と声をかければ、跡部は不思議そうな顔でこちらを見た後に、「ばーか、誰に言ってやがる」と薄く笑った。
 上質のコートを肩からかけた体が妙に薄く寒そうに見えたのを覚えている。あの時、引き寄せてでも引き止めるべきだったのかもしれない。それ以降、ほんの時折携帯メールが送られてくる事はあるが、直接言葉を交わす事はない。そのメールとて、まるで手塚の習いであるかのように、ひどくそっけなく短いものだった。
 跡部は自分から離れようとしているのだろうか、と思えてこなくもない。高等部にあがり、手塚は当然の事だがテニス部へと入部した。跡部もそうだと聞いている。思い上がりではなく、手塚も跡部も氷帝学園と青春学園を代表する有望な選手だ。その二人が親しくしている光景を部の者達が見れば、眉を潜めるかもしれない。
 ライバルとの間で友好関係が築かれないわけではない。だが、氷帝と青学の間には他校にはない因縁関係が深いと言えた。
「跡部君は元気かしら」
「病気の類とは、聞いていません。元気に、やっている事でしょう」
「そう。それは良い事だけど、寂しいわね」
「・・・・・・・・・・・・」
 寂しい。その言葉は手塚の胸の内にある空虚さを表すのにぴったりの言葉に思えた。
 そうか。自分は跡部に会えなくて寂しかったのか、と今更ながらに自覚した。あの強気な瞳で、小気味良い口調で、圧倒的なオーラで、どこか猫のような気紛れさでもって振り回される事を、自分は好んでいたのだと、自覚した。
 庭先に大地に這う緑に塗れてピンク色の花が咲いている。もしここに跡部がいたら、恐らく頬を緩ませるだろうと思えた。華やかな風貌で豪華な装いも似合う男であるが、自然に芽吹く素朴な草花を好む事を知っている。
 想像の中で、小さな桜のような花を跡部の髪に飾ってみる。自らを俺様と呼ぶような高圧的な態度を常とする跡部であるというのに、その可愛らしい花が不思議と似合うように思えた。最も、実際に行動してみたら盛大に怒られる事は間違いないだろうが。
 ここに、跡部が居ない事を寂しく思う。
 そんな感情を抱く事は、手塚にとって生まれてより初めての事であるかもしれない。
 
 
 
 

「初恋」...桜草  2006.09.19
 
(C) clef  
 
 
<< B A C K