13 クローバー
階下から呼ぶ声に、机の端に置いた時計を見る。気づけば1時間もの時間が軽く立っていた。
「――跡部」
「ア?」
「食事が出来たようだ。下へ行こう」
「・・・・・・もうそんな時間か。集中しちまったようだな」
「お互い様だ」
パキポキと軽い音を鳴らしながら首を回す跡部に苦笑を返す。二人共にに読書に集中してしまったのだ。
「あー、ちっとキリが悪ぃな」
「食事は冷めないうちに食べた方が良い」
「わかってる。・・・・・・出来立てだろうと、冷えた食事ってもんもあるがな」
「何か言ったか?」
小さな、囁くような呟きであった為、手塚の耳には跡部の言葉は届かなかった。
聞き返してみても、いつもの表情に改めた跡部からは答えを得られそうにない。
「別に」
「そうか」
「それより、何か挟むもの貸してくれねぇ?」
「ああ。これを使うといい。返さなくて良いから持っていけ」
「・・・・・・・・・ありがとよ」
手塚の手から栞を受け取った跡部は、一瞬だけ押し黙り、じっとそれを見つめていた。
「どうかしたか?」
「いや。随分可愛らしい品を持ってやがると思っただけだ」
くっと笑う跡部が、手塚から受け取った栞の表をぴらと揺らしてみせる。和紙を台紙に、小さな緑の葉が挟まれた手製の品だ。
「先日、グラウンド脇の草むしりをしていた時に見つけたんだ。4つ葉のクローバーとは幸運のお守りなのだろう?」
「そう言われているな。いいのかよ、お守りを俺にやって」
「跡部はどちらかというと運が良くなさそうだ」
「・・・・・言ってろよ。ま、有り難く貰っておくぜ」
ちゅっと軽いキスを栞に送る。そんな行為が跡部であると、嫌味にならず、様になる。
「―――ちょっと待ってくれ」
「んだよ。惜しくなったのか?ケチ臭ぇぞ」
「惜しいといえば惜しくなったのかもしれないな。・・・・こちらの方が葉の形が綺麗だ。こっちにすると良い」
「・・・・大差ねぇと思うけどな。ま、いいか」
僅かに首を傾げながらも、跡部は手塚が代わりに差し出した栞の方を受け取った。そして、最初に跡部が手にしていた栞は、手塚の手の中に。
小さな幸福の効果は、早くも現れたようだった。