微妙な距離の微妙な7題
 
 
 
 
 
07  嫌いじゃない
 
 
 
「で、君はどう思っているんだい?」
「教えてくれないかな」
「・・・・・・・・・・・・・」
 友好的かつ温和な微笑みを浮かべた2名の人物と正面切った状態で、跡部は秀麗な顔を顰めた。
 突然、見知らぬナンバーからのコールに、通常ならば無視を決める所なのだが、鳴ったのが通常使用していない頻度の低いPHSの方であって。この番号を教えてある相手は数少ない。
 不審に思いつつ通話ボタンを押すと、知り合いといえば知り合いであるわけで、しかしながら直接通話などした事もない相手。青春学園中等部にて天才の名も高い不二周介の「突然、ごめんね」と、柔らかな声が聞こえてきた。何故この番号を―などという、問いは無駄であろうと、その一瞬で悟った。直接か間接かはわからぬが、情報の漏洩言はかの手塚国光でしかあり得ない。勝手に人の番号ばらしてんじゃねーよ、と今度会った時に悪態ひとつをついて終わりにしようと、その程度で済ますつもりではあるけれど。
 不二の用件はといえば、警戒心を抱かずにはいられないものだった。「手塚には内緒で会いたいんだけど」などと言われて「いいぜ」と、即答できるものでもない。かといって、仲間に相談するのも気が引けたので、多少の逡巡はしたのだが結局待ち合わせ場所に行く事にしたのだ。すると、その場には呼び出し者である不二の他に、少しばかり困ったような笑みを浮かべた大石の姿があったのだ。
「すまない。勝手に割り込んでしまって」
「――別に、いーけどよ。用件は一緒なんだろ?」
「さすがだね」
「跡部の察しが良い所は僕も好きだよ。まぁ、大石が一緒の方が跡部も警戒薄くなるかなって計算もあったけどさ」
「ははは。すまない。この正直な所が不二の魅力でもあるんだ」
「・・・・・・・全然謝ってないじゃねーか」
「うん。まぁ跡部には思う所もあるしね」
「――少しは取り繕えよ」
「友情とライバル校の元部長とでは、比重が異なって当然だろう?」
「大石は結構しつこいよ。跡部も覚悟決めたら?」
 虫も殺さないような笑みを浮かべつつも、大石は一歩も引かぬ様子で跡部に詰寄る。その大石をバックアップするが如く、だが本音は面白がっているだけではないかと思う不二の存在も、無視できるものではない。はっきりいえば厄介極まりない二人組みだ。
「大きな世話、って言葉、知ってるか?」
「言葉としてはね」
「うん」
「・・・・・・・・・他人の事情に余計な首突っ込むな、ってんだよ。奴だって同じ事を言うと思うぜ?」
「という事は、やっぱり跡部は気づいているんだ。まぁ、あれだけあからさまな視線と感情をぶつけられて、君が気づかない筈はないとは思っていたけど。案外、鈍い面もあるのかも、と騙されかけたけどね」
「意識しての行動ならば、手塚を弄ぶのは止めて貰いたい」
「本気でうぜぇな、てめーらは。アイツが口に出さない以上、気づかないふりをするのが礼儀ってもんだろ。ついでに、ただの気の迷いって事もありえるんだぜ?時間が解決するかもしれねぇ」
「本気でそう思っているの?」
「そうだとすれば、跡部も考えが甘いな」
「手塚の本気を知らないんだね。ちょっと同情するよ」
「手塚は内に秘める分、いきなり爆発する事があるんだ。まぁ、うまくやってくれると有難い」
「てめーら」
「ん?」
「何だい?」
「・・・・・この俺様を脅すつもりか?」
「いやだな。忠告だよ、忠告」
「3年間で培った手塚の扱い方というか、心得の伝授のつもりだけどね」
「どっちもいらねぇ」
 親切面を前面に押し出して言う二人に、跡部は心底嫌そうな表情を向けた。何故自分は呼び出しに応じてしまったのかと後悔しつつ。
「ま、今日はこれぐらいにしておこうか。収穫がないでもないし」
「―――んだよ」
「君の本音。突っぱねないって事は、脈有りって事だよね?」
「・・・・・・・・・・・・」
 にこにこにこと笑む顔には逃げを許さぬ強制力があった。それに、脅されたわけではないけれど。
 
 
 
「別に―――嫌いじゃねぇ。それだけだ」
 
 窓の外の光景を眺めるかのようにすいと顔を横に逸らした跡部は、慌てるでもなく、焦るでもなく、顔を赤らめるでもなく、恥ずかしがるでもなく、怒った風でもなく、ただ当たり前の事のように、呟いた。
 
 
 

  2006年7月
 
 
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