微妙な距離の微妙な7題
 
 
 
 
 
04  素直になれない
 
 
 
 しばらくの間、跡部との連絡が途絶えた。
 基本的に、跡部との関係は跡部が動く事によって発生する。
 手塚は常に受動態だ。
 電話を貰う。
 メールを貰う。
 訪問を受ける。
 跡部の家に行く場合も、自発的ではない。「来るか?」と問われて「ああ」と答える。ふと思い立って訪ねるという事はなかった。こちらから連絡をして「行ってもいいだろうか」と尋ねる事もなかった。それは、他の誰に対してもそうであるのだけれど。手塚が自ら動いて、誰かの家に行くという事は殆どない。
 だから、跡部からの連絡が途絶えると、完全といっていい程に音信不通状態となる。
 気になるのならば、番号を呼び出して電話をかければ良い。
 相手の繁忙さを気にするのならば、相手の状況に合わせられるメールを送れば良い。
 ただそれだけの事であるのに。それだけの行動を手塚は起こす事ができないのだった。気にならないというわけではないというのに。いやむしろ、日に何度もどうしたのだろうか、と思い浮かべる程であるというのに。
 そんな風に悶々と、傍目には常と変わらぬ状態をもって過ごしていたある日、久々に跡部からの連絡が入った。3週間ぶりぐらいだろうか。親しくなる以前は、その程度の期間、噂の種にも聞かぬ状態が当然であったというのに、ほぼ連日の如く、短いながらも電話やメールのやりとりをしていたせいで、そんな風に思うようになってしまった。
 逸る気持ちを抑え、何気ない素振りで液晶画面を確認する。画面を見るまでもなく、着信音でそれとわかってはいるが、跡部の名が表示されているのを見ると、何故だかほっとした。  休み時間の喧騒の中、一人意識を切り離された状態で受信メールの内容を見る。近況でも知らせてきたのだろうか・・それとも次の休みに会おうとでもいう事だろうか・・そんな風に考えながら、メールを開いたのだが―――そこには予測したような内容は無かった。ただ一言、「元気か?」とあるだけで。
「・・・・・・・・・・・」
 知らず、重い溜息が漏れたのは、気負った分のみの肩透かしなせいか。別に何かを期待していたわけではない。あのまま、連絡が途絶えたとしても、手塚と跡部の間柄であるならば、全くおかしな事ではない。そう思う一方で、随分と素っ気無い事だな、と恨めしくも思う自分が居る。
 もともと、手塚はメールに関しても長文を用いない。大抵、問われた事に対する答えを打つのみだ。だからこの時も、「ああ」と打つだけで、タイトルを打ち変える事もなく送信した。聞かれたから答える。ただそれだけなのだ。
 送信ボタンを押してしまえば、後は何もできない。こちらが気になる事は、以前としてそのままだ。体調を崩しているのか、何か問題に巻き込まれてはいないか、それともただ単に手塚と過ごす事が飽きただけなのか。
 一言だけの問いに返した一言。これで再び返信がくる筈もなく、手塚の携帯電話はそれきり沈黙したままだった。跡部に余裕があるのならば、最初のメール内容はもう少し長いものだったろう。たった一言のメールにも、あれだけの期間を合間に置く程度に跡部は多忙であるのだ――そう思わなければ、何か暗い闇に足元から呑み込まれてしまうような気がした。
 
「―――手塚?」
「何だ?」
「随分、落胆しているみたいだけど、御家族に何か不幸でもあったの?」
「何も、ない」
「ならば良いけれど。大事な人から連絡でもあったの?」
「いや。別に。しばらく、連絡が途絶えていた奴からメールを受けただけだ」
「そう。良かったね」
「・・・・・・・・・・・・・・そうだな」
 
 穏やかに微笑む不二を前に、手塚はむっつりと重苦しい表情をもって頷いた。
 
 
 

  2006年6月
 
 
 
 
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