赤貧7題
 
 
 
 
 
02 おごってくれる人は現地調達
 
 
 
 
 
 
 今日も今日とて即日対応。初回は同情掻き集め、皆々様には温かく救護(養護)され、二回目ならば、まぁうっかりさん――とばかりに多少の呆れと、やはり友情がそれなりに重きを置くわけで。
 3度目ともなればまたかいな!とばかりに何故だかうつる似非関西口調。それでもお育ちのよろしい氷帝学園の生徒の事、全く救いの手がないと言う事もなくて。
 しかしながら4度5度と重なる内に、さらには6、7、8、9―――すでに数を数えるのが馬鹿らしくなってもくれば、大概相手にするのも時間の無駄だと切り捨てるのが大半と、史上に稀なる奇怪珍妙な生き物を見るかの好奇な視線と共に、その光景は氷帝学園7不思議のひとつ・・・・もとい名物光景となるのであった。
 
「あかん。財布忘れてしもた〜。なぁ岳っくん、ちょお分けてくれへん?」
「糞々ゆーしっ!勝手に人の弁当に手ぇ延ばすんじゃねぇっ!」
「岳っくん冷たいわ〜相棒やんか」
「そんなんとっくに解消済みだろっ!!」
「ダメだよ向日。食事中にそういう言動はよくないから気をつけてね。忍足も向日はこれからが大事な成長期なんだから、栄養をしっかり取らないと駄目なんだよ?」
「それやったら滝?」
「あははー。他人と箸をつつきあうなんて品が悪いよね」
 にっこりばっさり切り捨てる滝の微笑みは眩しく容赦ない。
「・・・・ジロー、って食い終わっとるやん」
「ジローの奴は開始3分早食い即寝だからな」
「宍戸、うまそうやな、それ」
「やんねーよっ!お袋が精魂こめた体力増強メニューなんだぜ。てめーみたいな似非臭ぇ関西人にやってたまっか」
「関西人関係ないやろ。ぴよ?」
「―――」
 ジロリと睨みつけるきつい視線は間抜けな呼び方をしたせいか、それとも取り付く島もない拒絶か。まあ日吉の性癖からいって間違いなく後者であろうが。
「あの、忍足先輩・・これ・・・・」
「鳳はえぇ子やな〜」
 そっと先輩方に見えないように弁当の蓋に載せた取り分け分を差し出そうとしていた鳳だが後輩の心、先輩知らず。忍足の言葉を聞き咎めた宍戸が持ち前のダッシュ力で駆け寄り、忍足の手に渡る寸前で取り上げた。
「馬鹿長太郎っ!甘やかすんじゃねぇっ!こいつは付け上がんだからなっ!」
「し、宍戸さん」
「殺生や〜」
 哀れ、ようやく今日の昼飯にありつくけた忍足は寸前でそれを取り上げられた。半泣きも道理であるが、まぁ間違いなく同情を買う為の嘘泣きだ。
 ここまでくると残るは最大級の難関しかない。忍足にとっては万里の長城が如く高く聳え立つ壁だ。
 残るは2名。氷帝学園を統べる帝王様とおつきの従者。実際の所はこのメンバー内ならば最も気遣いこまやかで心優しい樺地であるので個人攻撃すれば絶対に陥落する。
 だがしかし。
 跡部と樺地。二人はセット。スプラッシュスターとまでいくとどっちが白でどっちが黒かといらぬ論争を呼ぶのでさておいて。
 とにかく樺地の横には必ずといっていい程に忍足にとっては史上最大の難敵、跡部が控えているわけである。
 ちなみに現在の所連戦連敗。まさに氷の帝王が如く跡部は忍足を切り捨ててきた。
 しかしながらこのままでは本日昼抜きエネルギー補給なしにて午後の体育の授業を迎えねばならない。ここは一世一代の勝負所。落とせぬ一戦であるのだ。
「ふふふ、跡部ぇ。勝負つけなあかん時が来たようやなぁ」
「・・・・・・・・・」
 シャキーンと忍足が懐から取り出したるは使いこなすのにもちょっとした技倆と鍛練が必要そうな、長めのmy箸。箸に眼鏡のロゴ入りなのが御愛嬌――といった所か。
 んなもん持ってくるなら弁当持ってこいうっかり忘れたんじゃねーのかてめぇ、という御約束の突っ込みは敢えてスルーする氷帝テニス部レギュラー陣の強固なる結束ぶりは他に例を見ない。
「行くでぇぇっ!」
「・・・・・・・・・・・・・」
 一人熱くなる忍足を余所に黙々と食事を続ける跡部は忍足の存在そのものを無視しているといって良い。
 目にも止まらぬ光速技にて繰り出される忍足の箸攻勢。しかしながら敵さるもの何しろ跡部だ。無造作に、やはり忍足の存在など道端に転がる使用済の丸めたティッシュよりも存在せぬかのように無視し続けながら、忍足の果敢な攻撃を全て防ぎきった。
 一度たりとも忍足に視線を向ける事もなく、延びてきた箸を己の箸で払う、はじく、挟む、はね飛ばす。それでいて、口元に食物を運ぶ動きはあくまで優雅に澱みない。はっきり言って行儀のおよろしくない攻防の筈である。しかしながら、跡部は一人その状態においても王侯貴族さながらの高貴さと上品さを保ち続けるのだった。
「・・・・・・うぅ、どこまで情け容赦ないねん・・・・」
 はじき飛ばされた箸と共に土の上に転がる忍足。ほぼ同時のタイミングで跡部は弁当の蓋を綴じた。完食である。
 悔しさに突っ伏したまま土を掴む忍足の頭上には赤く燃えたつ夕陽が見えたとか何とか。
 まあそれはさておき。このやかましくも傍迷惑な光景はこの日のように屋外で集まり囲んで食事を取る場合に限らない。高級感溢れるラウンジであっても、はたまた一応良心的なお値段ながら、メニューも質も学生食堂としては上質に過ぎる、そして一般生徒の目が多くあるその場においても、はたまた試合会場や学校行事により閉鎖された空間から外に出てすでに慣れたる氷帝生徒、教師他関係者一同以外の目がある場においてすらも――所構わず時構わずなわけである。
 失笑冷笑嘲笑爆笑呆笑乾笑温笑その他もろもろの反応を得る度に皆が思う事はただ一つ。
 
 
 忍足、てめぇ何故氷帝に来たっ?!
 
 
 この一言に限るのだった。
 
 
 
2007/01/10
 
 
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