01 雑草は大体食える
労働は尊い。
人の嫌がる行為を率先して行う姿勢は見る者から見れば、高い評価を得られるものだろう。
だがしかし。
そこに微妙な欲が絡んだ場合、一気に低俗化するのは一体何故だろうか。
「その先を言うな聞きたくねぇとにかく黙れ」
「聞いてきたのはてめーの方だろうがっ!」
御馴染みともなった口論光景。氷帝学園にその人有りとして高く知られる帝王跡部と真っ向勝負で口論しているのは、一度は地獄を見た男。長い黒髪をばっさり切って、その心意気と不屈の根性とによって、一度落ちれば二度はないと言われる正レギュラーの座に返り咲いた奇跡の人、宍戸亮だった。
「覚えがねぇな」
へっとばかりに耳に指を突っ込みながら、耳垢を削り出し、ふっと吹きかける息でそれを散らす。現代に具現した生王子(ある意味これはけなしているようにしか聞こえないが)とも言われる優美な外観、高貴な生まれ、上流階級の中でも更に特上の部類に入る育ちである筈なのに、その行動・言動といえば下町育ちの悪ガキか、素行も思考もヤサグレたチンピラかくやというアンバランスさの極みである。
最も、そんな風に跡部が強烈な個性を持つ現在に育った要因として、宍戸の存在があった事はほぼ間違いない事であるけれど。それにしても跡部の柄は悪い。強烈に悪い。しかしながら、『跡部様』のブランドは中等部在籍中にしっかり構築され、氷帝の生徒達は全く違和感を感じていない。むしろその流れるような罵詈雑言罵倒三昧をうっとりと聞き惚れる程であった。
「とにかく聞けっ!アイツが喜々として草むしりをしてる理由はなっ!!」
「聞こえねぇ」
「てめーはガキかっ!」
声を張り上げる宍戸を煩そうに見つつ、跡部は両耳を抑えてそんな事を言った。宍戸が激昂するのも当然の事だ。
「いいかっ!聞けってんだよ!日頃ものぐさな忍足の野郎が率先して草むしりをやってんのはなっ!『雑草は大体食える』ってのが理由だからなんだよっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
耳を抑える手を外され、耳たぶを引張られて無理矢理聞かされた言葉に、大声で怒鳴られたばかりでない不快さを跡部はその秀麗な顔を盛大に顰めるといった表情で表した。
「あの馬鹿、今日の生物の授業で雑草の中で食える草の見分け方を習った後、いやに嬉しそうな顔してたんだよな。その後しばらく姿を見ねぇと思ったら、監督に直談判してコート周りの草むしりの予定をもぎ取ってきやがった」
「・・・・・・・・・・・・」
一度聞いてしまったからには、もう聞こえないで済ませるわけにもいかなくなって。仕方なしに跡部は宍戸の言葉を聞いていた。はげしく不本意そうではあったけれど。
二人の冷めた視線の先で、心を閉ざす事の出来る男の異名を持つ忍足は、笑顔全開笑み満乱といった態で笑み崩れながら、下級生達を指示している。面倒な事には関わらず、楽して生き様がモットーの忍足が、無料奉仕に勤しむ姿など過去にも先にもここでしか見る事ができないだろう。だが、忍足にとっては無料奉仕であっても実りはあるわけだ。食材となる草の収穫という報酬が。
「・・・・・・・・・・叱りつけてやがる」
「大方、ただの雑草と食える草との振り分けが甘かったんだろ」
「・・・・・・・・・・抱きしめてキスでもしかねねぇ様だな」
「大方、目当ての草を山程摘んできた奴が居たんだろ」
「・・・・・・・・・・いやにいい笑顔で太陽に向かって笑っていやがる」
「大方、今日の収穫での晩飯のメニューでも考えていやがるんだろ」
爽やかな笑みを持って額から流れる汗を拭い、土で汚れた頬すら誇らし気な忍足侑士。
――激しく似合わない。
「・・・・・・・・・・なぁ、あいつ一度殺していいか?」
「何度でもやれよ。ただ、何度でも生き返ってきそうだけどな。雑草みてぇな奴じゃね?」
「共喰いかよ」
「おぉ。今晩はそうだろうな。滅多に食えるようなメニューじゃねぇぜ。跡部も食わせて貰ったらどうだ?」
「冗談じゃねぇ。雑草仲間のてめぇが共喰い仲間になりゃいいだろ」
「仲間じゃねえぇよっ!!!・・・・・・・・・・・・・・関りたくねぇ」
「同意」
日頃反発しあう事の多い跡部と宍戸であるが、この時ばかりは息ぴったりと相違なく意見が合わさったのだった。
07 動くとカロリーを消費するので出来るだけ動かない