† BLUE CANDY † (ジロー&跡部)
バレンタインデーなどというざわめきから程遠いとされる宍戸(もてないというわけではなく、硬派の系統であるが故に)が、練習後のロッカールームにて、校内でもてる人物である筆頭の跡部に問いかけた。
「なぁ、お前今年もジローにチョコレートやんの?」
「てめーにゃ関係ねーだろ」
「・・・・・・そりゃ、そうだけどよ・・・・」
すげない言葉を受けて、宍戸が口を尖らせる。会話をすれば喧嘩腰となるのがお決まりの癖に、性懲りもせずに話しかけるのは宍戸の方からだ。最も、仲が悪いと言っているのは当人達のみで、親しい周囲から見ればそれは単なるコミュニケーションに他ならない。気の置けない幼馴染同士における、じゃれあい的小競り合いでしかないからだ。
「跡部、そない切り捨てるように言わんでもええやん。宍戸も正直に言い?羨ましいんやろ?」
「ばっ!んなわけねーだろっ!」
「へぇ。宍戸、てめーは俺様からのチョコレートが欲しかったのか?」
「んな事、ひとっことも言ってねーだろうがっ!ざっけんな!馬鹿跡部っ!」
「アァ?馬鹿はテメーの方だろうが。宍戸よぉ」
噛み付く宍戸を小面難いまでの完璧な笑みを浮かべて嘲笑う跡部は、宍戸でなくとも小憎らしいというか腹の立つ俺様だ。最もそんな所が――イイ・・・・っ!と焦がれるシンパが氷帝学園内には多数存在していたりする。
・・・・・・男女を問わずというあたりは微妙だが。
「それより、跡部。さっきの気になるんやけど」
「アァ?」
「自分、毎年ジローにチョコレート上げとるん?」
その華やかな外見から、軟派に見られがちな跡部であるが、宍戸同様硬派寄りである事を知らぬ忍足ではない。バレンタインデーのように、菓子会社の策に乗せられた浮かれたイベントを好まぬ跡部であると思っている。最も、海外においてはもっと神聖な意味もあったりするので、日本のお祭り馬鹿騒ぎではなくそちら方面での意味合いを重んじている可能性もあるのだけれど。
「・・・・・・・・約束だからな」
宍戸に対するのと同様、「答える義理はねーよ」と突っぱねられると思っていた忍足は、跡部からちゃんと答えが返って来た事を意外に思った。似非臭いと御当地(学園内・・というより主にテニス部限定)にて評判の丸眼鏡の奥で瞳を見開いたが、丁度レンズが視界を遮る形となってその様子は外には見えなかったようだった。
「約束?」
「幼稚舎の頃からだぜ」
「ジローと跡部は幼馴染やったか。ん?宍戸もそうやろ?」
「だから何だよ」
思い出したように問う忍足に、宍戸の表情がむっとしたようになる。元々、満面の笑みからは程遠い、どちらかといえば不満そうな表情を浮かべる事の多い宍戸であるが、この時は殊更に不満そうだった。忍足の言が面白くない内容であったのだろう。
「自分は貰わんの?」
「けっ!跡部からなんざ、貰いたくねーよっ!毒でも入ってんじゃね?」
「はっ!元よりてめーにやるつもりんなんざねぇ。どうせ味なんざわかんねぇだろ。無駄だ、無駄」
「んだとぉ?跡部っ!てめぇっ!やんのか?オラ!」
「俺様に喧嘩を売るなら、もう少し背を伸ばしてから来るんだな。背伸びで締め上げてる姿は滑稽だぜ?」
「跡部っ!てめーっ!!」
いつもの事ではあるのだが、いつも以上に宍戸が激昂していた。跡部の煽り方も常より容赦が無い。宍戸でなくともこれは爆発するだろうと、日頃は冷めた瞳で傍観者に徹する忍足ですら、思わず二人の間に割って入り、殴り合いの喧嘩に発展するのを止めていた。
「ん〜騒がC〜」
今の今迄部室の隅で惰眠を貪っていた癖に、眠たそうに目元を擦りながらジローが恨めしそうに起き上がってきた。
「るせぇっ!そもそもの原因はてめーだろうがっ!大体ぐーすか寝てやがった癖に、文句言うんじゃねーよっ!」
「亮ちゃんの怒鳴り声で起きちゃったよ。あー跡部ーっ!テニス、やろっ!」
ふぁと欠伸をしながら宍戸の文句を受け流したジローは、ふっと首を振った先に跡部の姿を捉え、いきなり機敏に飛び起きて跡部へと駆け寄った。
「・・・・・・・別にいいが・・・・その前に顔洗ってこい。目やに、ついてんぞ」
「ん〜わかった〜」
跡部の指がジローの目元を辿り、こびり付いた目やにを拭った。まるで保護者のようであるが、氷帝部員達にとっては見慣れた光景である。跡部の言葉を受けて、ジローはぱたぱたと水道のある方へと駆けていった。その背を皆ただ見送るだけだったが、鳳が脇に置かれたジローの鞄に気づき「あ、ジロー先輩タオル持っていってないです!」と慌ててそれを掴み、ジローの後を追って行く。先程の一触即発な空気は消えうせ、変わりに妙にほのぼのとした空気が漂った。
「相変わらずジローには甘いんやなぁ。樺地にも特別やけど・・・・」
「悪ぃかよ」
「ちょぉ羨ましい、ちゅー所やな」
「はぁ?」
忍足の言葉に跡部の眉が上がる。思い切り不審気な表情だ。
「せやから、跡部の・・・・部長サンのチョコレートやで?跡部の事やからお手製なんやろ?氷帝テニス部部員にとって、生唾もんやん」
「・・・・・・・・・・・・・・その範疇にてめーは含まれねぇな」
「何でや!俺かて欲しいで?」
誰にやってもてめーにだけはやらねーよ、と鼻で笑う跡部に忍足がよよと泣き崩れる。それは何やら芝居がかっており、寛一お宮の世界にも見えた。
「何や跡部は俺にだけ特別に冷たいんとちゃう?」
「うるせぇ。胡散臭いてめーが悪い」
「俺なん?俺が悪いん?」
逆切れというわけではないが、跡部の切り替えしは忍足にさらに冷たいものだった。
「まぁ胡散臭い似非眼鏡の忍足の事はどうでも良いけど」
一連の騒動を我関せずといった態で、離れて静かに着替えていた滝はすでに練習着から制服姿へとなっていた。さり気無く忍足への毒を孕んだ発言に、「酷っ!」と泣きが入るが、当然の事ながら取り合う者は居ない。打たれ強いという事は、時に哀しい事なのかもしれない。
「跡部がジローにチョコレートを上げるようになった経緯は一度聞いてみたいと思ってたんだよね。ジローってあれでなかなか口割らないしさ」
「・・・・・・・・・別に隠す程の事じゃねぇよ」
「じゃぁ教えて?」
覗き込むようにして顔を寄せ、にっこりと笑む滝から一瞬顎を引いた跡部だったが、ふぅと一息吐くと仕方ないとばかりに口を開いた。
「・・・・・・・・・ジローと初めて出会った時、俺の目を見て、『マジマジ!すっげー!青だぜっ!空みてーっ!!』とか跳ね回って騒いだんだよな」
「あまり変わらないね」
「まぁな。それで、くっついて離れねーんだよ。怒鳴りつけようが全くな。仕方ねーから理由を聞くと、『なーなーその目、うまそうだよなっ!すっげー甘い?』とか抜かしやがって」
「あはは。もしかして本気で舐めたりとかね」
滝の言葉は軽口の類だったのだが、跡部は少しばかり複雑そうな表情を浮かべ・・・・つまりは否定をしなかった。
「・・・・・・・・本気で食われそうな気がしたんだよ、あの時は。仕方ねぇから、気を逸らす為にチョコレートをやったんだが・・・・それ以来、何か癖になっちまってよ、習慣的に毎年やる羽目になった」
「それって成り行き?」
「端的に言えばそうだな」
「ふぅん。なら、その成り行きに俺達も含めてよ」
「萩之介?」
「忍足じゃないけど、跡部からのチョコレートなんてものすごく特別な気がするんだよね。氷帝テニス部一同、かつてないぐらいやる気が出ると思うよ?」
「たかだかチョコ一つでかよ」
「たかだかじゃないね。跡部のチョコだから特別なんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
滝の言葉に他数名も頷く。それを目の端に止めた跡部は、ますます胡散臭そうな表情を浮かべた。純然たる好意の表れであるのだが、生憎と当人にだけは伝わらないらしい。
「ああ、今からで間に合わないのなら、ホワイトデーに飴でも良いよ。その場合は青い飴が良いな。跡部の目の色と同じ青い飴がいいね」
「・・・・・・・・・・・・・・チョコレートを用意してやる」
目の色と同じという言葉が嫌だったのか、跡部は思わずそんな風に答えていた。
その年のテニス部部員達は、部長お手製のチョコレートという宝物にありつけたわけなのだが・・・・その功労者は滝であるのは間違いないのだが・・・・影の功労者的にはジローの存在もあったのかもしれない。それ以後、部員達からジローへとポッキーの差し入れが増えた事が、それを物語っている。
VT企画第5段。ジロー&跡部。
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