† 小台風 †  (リョーマ&跡部)
 
 
 
 
 
 
 氷帝学園のテニス部部室では、招かざる客・・・・所謂珍客なるものを迎えていた。
 目深に被った帽子の影から鋭く不敵な眼光をちらつかせる小柄な少年、ブレザー・チェックのズボンといったいかにもなお坊っちゃん的制服の群れの中、墨染めの学ラン姿は悪目立ちしている。
 青春学園のテニス部部員、越前リョーマの姿がそこにはあった。
 
「何で来た?」
「電車とバス」
「んな事を聞いてんじゃねぇ。何しに来たのか聞いてんだよ」
 ぼそっと答えたリョーマに声こそ荒立てないものの、跡部が苛立たし気に再度問い放つ。だが、リョーマの方はといえばそんな跡部の様子に臆する事なくあっさり返してきた。
「プレゼント、あげにきたんだけど」
 その台詞に視線がゆるりとある人物へと移動していく。穏やかな笑みをたたえた長身の少年、鳳にであった。ただし、皆一様に不可思議そうな表情でであったが。
 何しろリョーマと鳳とでは接点がまるでない。青学と氷帝とでは浅からぬ因縁がある。が、ダブルスのプレイヤーである鳳と、シングルスプレイヤーである越前とでは関わる接点が殆ど無かった。もしかすると会話すら交わした事がないのではとも思える。
「・・・・何でその人?」
「何って、プレゼントなんだろ?今日は長太郎の誕生日だぜ」
「へぇ。アンタも面倒な日に生まれてたんだね」
「アンタもって何だよ」
 不審そうな岳人の言葉に答えたのは、当人ではなく跡部の方だった。
「そのガキ、イヴ生まれなんだよ。聖夜の落とし子だな」
「へぇ。そうなんだ」
「何で跡部が知っとるん?」
「まぁちょっとな」
 最もな忍足の疑問に跡部はひょいと肩を竦める。別に隠す程の事ではないが、わざわざ説明するような事でもない、そんな表情で。
「その人に、お祝い貰ったんだよね」
「跡部が?」
「そうなんですか?」
「おい」
 好奇の視線が集まったのを嫌そうに手で振ると、跡部はリョーマを軽く睨んだ。
「いーじゃん。美味しかったよ。特製パンケーキ」
「―――ちっ」
「跡部。越前にケーキ作ったの?ずるいC〜」
「ばーか。ジロー、てめーにも作ってやっただろうが。あんまりそいつが哀れっぽかったから、気紛れ起こしただけだ」
「まぁ、美味しかったし、嬉しかったからそれでもいいけど。それで御礼、って思ったんだけど・・・・アンタの誕生日とっくに過ぎてるし、だから今日プレゼントしようと思って」
「今日だと?」
「そう」
「意味わかってんのか?」
「バレンタインでーでしょ。朝から学校騒がしかったから、嫌でもわかるよ」
「ふん。悪いが受取れねぇな。受取拒否させて貰う。俺はこの日はプレゼントの類は受け付けねぇ事にしている。例外はない」
「ちょぉ待ち、跡部。遠路はるばる来てくれたんやで?貰ってやらな可哀想だろ?」
 リョーマに同情的な忍足の言い分であるが、それが親切心から発せられた言葉でないのは、その表情を見れば明らかだった。
「だったらてめーが貰ってやれ」
「俺、男からは受付とらんし、意味ないやろ。あ、跡部からやったら別やな。両手広げて大歓迎や」
「誰がやるか、ばーか。気色悪い事抜かしてんじゃねぇ」
「別に貰ってもいーんじゃねーのか?外にばれなきゃいいんだろ?」
「そういう問題じゃねぇ」
「可愛ええ年下の男の子の想いを無駄にするもんやないで?」
「――ス」
 どの面下げて・・・というか。リョーマは忍足の尻馬に乗るようにして頷いた。
「・・・・・・ちっ。わかった。貰えばいいんだろ、貰えばよ。ったく、貰った後はどうしようと自由だからな」
「跡部、目の前で横流し宣言はどうかと思うよ」
 控え目に注意をする滝を跡部はふんと鼻で笑って流した。
「甘い物はんなに好きじゃねぇんだよ。幸いジローの奴の好物だからな。断りそこねたチョコは大体ジローへ流してる」
「それで越前はええんか?」
「別に。渡すって目的は果たせるし」
 怒るか拗ねるかそれとも呆れるか・・・・と、リョーマの反応を伺っていた面々は、あっさり流すリョーマの態度に肩透かしを食らう。まぁ、プレゼントといっても、この日がたまたまバレンタインデーというだけで、それが良い機会であったというだけで、大した意味が無いから良いのか、と納得しないでもなかったが。
 鞄から小さな包みを取り出したリョーマは、気負いもなく跡部にそれを渡す。跡部の方も一応その時ばかりは「ありがとよ」と礼を言った。すぐさまジローに与えるという事もない。もしかすると先程のも口だけで、ちゃんと自分で食べるかもしれない。口では悪態を吐く跡部であるが、人の好意を無にしたりはしないのだ。
 さてこれで用は済んだ、とばかりにさっさと出口に足を向けたリョーマは、外に出る寸前にくるりと首だけで振り返る。
「――跡部さん」
「んだよ」
「来月、三倍返しっスね。よろしく」
 跡部の返事を待つ事もなく、にっと挑戦的な笑みを残し、季節外れの小台風が去って行く。取り残されるは氷帝学園テニス部面々。
「あら、確信犯やな。つくづく大物やで」
「・・・・・・・・・ちっ」
 忌々しそうに舌打ちをつく跡部の手には、可愛くラッピングされたプレゼントが、その存在を静かに主張していた。
 
 

 
 
VT企画第1段。リョーマ&跡部。
 
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リョーマ誕小話の続編です。


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