誰だろうと5回程悩む
 
 
 
 
 
02 毎日差し入れをくれる人
 
 
 
 
 
 
 朝も早くからハードな練習。
 大会が近くなれば、昼休みの時間すらもトレーニングに召集される。
 当然、授業が終われば真っ先に部室へと向かわなければいけないわけで。学生の本分は学業というけれど、この氷帝学園において、更にはテニス部のレギュラー陣においては、テニスが一日の中心として動いている。
 それというのも何よりも。中心人物たる部長さまが他の誰より熱心であるわけで。部員は皆それに習うわけである。
 一般部員は少しでもレギュラー、準レギュラーへと近づく為に。
 準レギュラー達は、いつ何どきでもレギュラーへと取って代われるように。
 レギュラー達は、自らの地位を脅かす者など寄せ付けぬ為に。
 日々、鍛錬に勤しむわけである。――まぁ、ごく一部において例外は存在するけれど。
 シャワーを浴びた部員達がぞろぞろと部室へと戻ってくると、部長である跡部が部誌を記入していた。全てを終わらせて監督へと報告するまで、跡部は着替えようとはしないので、ジャージのままである。
 黙々と、端麗な時で筆を滑らせる跡部の脇で歓声混じりの声が上がる。
「俺!たらこっ!!梅干はいらねーからなっ!」
「岳人、一度手に取ったもんは食わなあかんやろ?」
「侑士にやるぜ」
「中身確認する為に、割っとるやんか・・・」
「いーじゃん。俺ら、ダブルスなんだし!」
「・・・・・どないな理屈やねん・・・・」
 マナー違反だろうと、叱る忍足の言葉など何処吹く風の様で、向日はほかほかと湯気を立てる握り飯に被りつく。向日と忍足は同学年であるのだが、どうも忍足の方が保護者のように見えてしまう。嬉しそうに握り飯をぱくつく相棒の姿に、忍足は嘆息すると、仕方ないとばかりに押し付けられた握り飯を口にした。忍足の好みからいえば、焼きシャケあたりの方が良いのだが、ここで戻すわけにはいかないと思うあたり、貧乏性というのか、損な体質というのか。
「ったくよ、どれだっていいじゃねぇか。腹減ってるんだしよ」
 ぶつくさ言いながらも、宍戸は手元にあった握り飯を取ってほお張っている。そんな宍戸に「だったら、次に梅干出たら宍戸にやるぜ!」などと向日が言うので「っざけんな!!」と怒鳴る宍戸との間で喧嘩に発展しそうになった。
 しかしながら、ダン!と、机を叩く音に、掴みあいとなりかけた二人の動きが止まる。音を発したのは、当然というか、部長である跡部だ。底冷えのする視線をもって、二人のチームメイトを睨みつけている。
「―――わ、悪ぃ、跡部」
「わ、悪かったよ・・・・」
 さすがに自分達が悪いと自覚している二人であるので、神妙な態度で跡部に詫びを入れる。それを待って忍足が温かな飲み物を注いだカップを跡部に差し出した。
「怒らんといてや。ちょぉ、二人とも調子にのってもうただけやし」
「・・・・・・・・・・・」
「お、おう。もう、騒がねぇ」
「う、うん」
 せやろ?と視線を向けられ、宍戸と向日の二人が頷く。せっかくの忍足の取り成しを無駄にできるものではない。
「ふん。食ったら早く帰れ。邪魔でしょうがねぇ」
「あーわかったよ。しっかし、この差し入れ、誰からなんだ?」
「毎日だもんな!女テニの奴かな?陸上とか、バスケ部とか。いや、料理部とかの文化部の方が可能性高いか。もしかすっと、3年の女子かもな。ま、どうせ『跡部様』ファンだろーけどさっ」
「ここに女子生徒は入れねぇよ」
「跡部のファンやったら、女子に限らんやんか」
「・・・・・・・・・・」
「えー男かよー」
「いいじゃねぇか。腹が満たせりゃ」
「だけど、男が作ったのと女が作ったのじゃ、ありがたみってもんが違うだろ?」
「そら、わからんでもないけどな。なぁ、跡部は誰の差し入れか知っとるん?」
「―――――俺が部室に来た時にはもう置いてあるな」
「って知らねぇのか?なぁ、まずいんじゃねぇ?」
「ここに置いていくんやし、テニス部絡みやろ?一年部員とちゃうん?」
「ま、そんな所だろうな」
 納得できる結論に頷き合う3人を、跡部は怒りを収めた静かな瞳で見つめるのだった。
 
 来た時にはあった――とは言った。しかしながら、知らない、とは言っていない。
 その握り飯の作成者が、一応は3人の推測通りの人物で、入学当初から跡部とは違う意味で注目を集めてきた奴だと知った時の彼等の反応はいかなるものであろうか――などと、考えつつ跡部は部誌の記入作業へと戻った。まぁ何れは教えてやろう、などと思いながら。
 
 
 
2006年6月
 
 
<< B A C K