誰だろうと5回程悩む
 
 
 
 
 
01 さっき助けてくれた人
 
 
 
 
 
 
 生徒会室へと入ろうとして、足が止まる。
 両手にあるのは積載量オーバーである資料の山。
 ここに来るまでの間も、見えたのはかすかに足元のみである。
 幸いにして、「跡部景吾」の名は伊達ではなく、この俺様無敵の生徒会長に逆らう者など氷帝学園内には存在しない。
 背を見ただけでも、いや存在感だけでも跡部だとわかるのが氷帝生だ。当然の事ながら、廊下の中央を荷物の重みなど無きが如くの速度で闊歩する姿に、他の生徒達は(教師も含め)ざっと海を割るが如く端に寄って道を空けた。
 人望・信望が無きわけではない。むしろ、学園内で最も尊敬を集め、憧憬の念を抱かれているのが跡部だ。それならば何故誰も跡部に補助の手を差し伸べないのかと言えば、その迫力に呑まれているからである。顔が見えずとも、全身から発せられるオーラは不機嫌極まりないものであって、誰しも自ら怒声の雷など浴びたくないというもの。
 君子危うきに近寄らずとでもいうか。触らぬ神に祟りなしとでもいうか。藪をつついて蛇を出したくないとでもいうべきか。
 結果、勢いにまかせてずんずん歩く跡部はと言えば、生徒達に見守られた状態で視界を遮られたまま、生徒会室への花道を突き進んだというわけだ。跡部の比類なきバランス感覚と、勘の良さが無ければ事故でも起きかねなかった状況であるが。
 当人の方は、周囲の恐れなど気にも止めていないわけで。もし声でもかけられれば、それこそ相手が凍りつくような冷たい視線とドスの効いた低い声で応じた事だろう。だから、生徒達が跡部に声をかけなかったのはある意味正解だ。
 だがされどしかし――である。
 ここに来るまでの間は問題がなかったわけだが(跡部にとっては)、扉の前に立った途端問題が起きた。
 何の事はない、扉が開けられないのだ。両手が塞がっているが故に。
「―――ち、面倒臭ぇな」
 行儀が良いとはお世辞にも言えない事であるが、モデルのようにすらりと伸びた足が扉にかかろうとした所、すいと扉が引かれた。
「・・・・・・・・・・・」
 開いたのならばそれで良いと、跡部は足を納めて中へと入る。そのまま、中央に備え付けられた机の上にどさりと荷物を落とす。
「おい、助かった―――」
 ぜ、ありがとよ、と言おうとした礼の言葉は続かない。開かれた扉の向こうには、ただ無人の廊下があるだけだった。
「―――誰だったんだ?」
 この後、跡部は自分を先程助けてくれた人物が誰であったのか、5回程悩んだ。
 
 
 
2006年6月
 
 
 
 
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