ラブレターから五題
 
 
 
 
 
05 是非、お返事下さい。
 
 
 
 
 
 
「―――さて、これはどう取るべきなんだろうな」
 跡部は一人、判断に迷う代物を前に悩んでいた。
 したためられた文面は礼儀に適い、文字も流麗で読みやすい。差出人当人の人となりを考えれば、適当に破られたレポート用紙かはたまたノートの切れ端か、そんなもので構成されていたとしても、跡部は驚かなかっただろう。しかし、一応はあれである。ラブレターという代物である以上、さすがの手塚も一応気をつかってはきたようだ。そうは言っても、「履歴書かよ、こいつは――」と突っ込みを入れたくなるような、2重の白封筒だったりしたのが。
 まぁそんなわけで、形式上は問題ない。文の書き出しも時候の挨拶から始まり、近況を語り、最終的には用件へと持っていく。いや、ラブレターとは恋文であり、己の想いを告げる為の手紙であるのだから、そこらあたりは色々と間違っている気もしないでもないが、手塚なのでこれもまた有なのだろう。
 跡部は日頃より手紙を貰い慣れている。当然の事ながら、ラブレターが多きを占める。基本は女子からであるが――まぁ一部男が混じっていたりするのは、跡部ならではという所だろうか。テニス部の後輩ばかりでなく、氷帝学園内には跡部の熱狂的シンパが多い。―――時折、他校生からも薔薇の花束付きでその手の物が届いたりもするが、それらは大体の場合門前払いを食らう。大切な会長様におかしな虫を近づけてなるものか!とばかりに、そこらあたりのガードは熾烈を極めている。
 そんな中をかいくぐってきたこの手紙。それはどう見ても事務的用件としか思えぬ素っ気無い外観と、丁寧に書き込まれた封筒裏のリターンアドレスの記名が物を言ったのは確かだろう。青春学園の手塚国光からの封書を、手前勝手に処分などできる筈がない。もし跡部にそれを知られたら、最大級の雷が落ちるどころではないからだ。
 しかしながら、彼等の思惑は大いに外れたというわけで、その封書の中味はといえば、格式ばった物言いの文面で洒落っ気も小気味よさも情熱すらも皆無ではあるものの、跡部に向けたラブレターである事に間違いはなかった。
 
『どうやら俺はお前の事が好きらしい』
 どうやらはねぇだろ。どうやら、はよ。と、跡部としては突っ込みを入れたいところ。
 しかも『らしい』はねぇだろ。自分の感情ぐらい、きっちり白黒つけやがれ!と怒鳴りつけてもやりたいが、そこで白黒つけられて自分に飛び火がくるのは御免被りたい。
 
『何かの間違いとしか思えぬのだが』
 ああ、そうかよ。間違いなら間違いにしとけ。跡部としてはそう諭したいところ。
 まるで跡部に咎があるような口ぶりたぁどういう了見だ?!と、詰め寄ってみたとしても、手塚の事だから「お前が悪い」と素で返しそうな気もする。
 
『日常生活に支障を来たしつつあり、困っている』
 知るかよ。てめーのケツはてめーで拭きやがれ。跡部としてはそう突き放したいところ。
 一体どんな風に支障をきたしているのかは知りたくない気もないでもないが、知ったが最後のような気もするので敢えて無視の方向で行きたい。
 
『今朝、夢にまで出てきた。どうしてくれるんだ』
 どうしてくれると聞きたいのは俺様の方だろ?!跡部としてはそう問い質したいところ。
 勝手に人を夢に出演させるんじゃねぇ、出演料取るぞオラ、と凄んでやりたい気もあるのだが、どんな夢だか知りたくもないので考える端から却下とする。
 
 何というか、かんというか。確かに手塚は跡部の事を夢に見てしまう程に好きだということらしい。
 ああ、そりゃ光栄なこったな、と鼻で笑ってゴミ箱へと一直線というのも一つの手だ。別に手塚本人を毛嫌いしているというわけではない。それこそ唯一無二のライバルとして見定めた相手である。異性に向けるような目で見られるのは初めてではないし、そういった好意をぶつけられるのがおぞましいという程潔癖症なわけではない。
 ただ、である。だがしかし、なのだ。手塚のこの文面を見て、心緩ませる要因など欠片程にも見当たりはするだろうか・・・・?と、誰か冷静な判断を下せる者に尋ねてみたいものである。最も、現状を他者に知られたくはないので、あくまで考えただけであるが。
 最後に日付と名前を記し、手塚の手紙は終わっている。風邪を引かないようにと、跡部の体を気遣う一言も社交辞令とはいえ、手塚が添えるのならば合格点をつけてやるべきだろう。
 文面には、跡部に返事を促すものはなかった。答えを返して欲しいとも、直接会いたいとも、期限どころか何の希望も記されてはいない。それでありながら、返事の強要を感じていた。それが一体何によるものからかと言えば――――
 綺麗に折り込まれ、同封されてきた返信用封筒(やはり2重の白封筒だったりするが)の存在故にだ。しかも御丁寧に返信用の切手も貼られている。
「作為か?天然ボケか?」
 どちらもありえるので判断しかねる。何しろ相手はあの手塚国光だからだ。
「・・・・・読めねぇ・・・・・・」
 片肘をつきながら、跡部は丁寧に書き込まれた手塚当人充てのアドレスを眺めていた。そこから発せられる『 是非、お返事下さい 』とばかりの無言の重圧は跡部にしても無視できぬものである。
「・・・・・・・ひとまず、『行』は潰して『様』だよな・・・・」
 二重線を引き、訂正を施す。それをそのまま返信用封筒として使用する事は、跡部の美意識に大きく反する事となるのだが――切手まで貼り付けられた以上、破り捨てるわけにもいかない。
「・・・・ちっ、手塚め・・・・侮れねぇ・・・・」
 これも一種の手塚ゾーンか?!と、混乱故か、かなり外れた思考に陥りつつある跡部だった。
 
 
 
2006/11/11
 
 
 
 
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