ラブレターから五題
 
 
 
 
 
04 あの日から、ずっと――
 
 
 
 
 
 
 郵便が届いたと、手渡されたのは片手に軽く乗る小さな郵便物。手紙にしては少々厚みと重さがあった。
 裏面をひっくり返してみると、几帳面な文字で書かれた名はよく知るもので・・・・それでいて、何かが送られてくる覚えの無い相手でもあった。
 手塚国光。跡部がこれと定めたライバルの一人だ。相手の方がそうと取らずとも構わない。あくまで跡部の内での評価であるだけだからだ。
「・・・・一体何を送ってきやがったんだか」
 堅い手触りは厚い紙が中に入っていると知れる。ただし、冊子にしては薄い。何かの資料にしても、サイズが少々薄く思えた。
 まぁ開けてみればわかるとばかりに、跡部はそれを持って自室へと戻る。ペン立てに差し込んだペーパーナイフを取り、すいと封に切れ目をいれた。
 中から出てきたのは、卓上のカレンダー。これが写真が趣味だとかいう不二あたりならば、自ら撮った写真で作った自作のカレンダーという考えもあったが、跡部の知る手塚の趣味にそれはない。だが、手塚の趣味もアウトドアではある。山へ登るとか、釣りに行くとか。その際に写真を撮っていてもおかしい事ではない。例えば釣り上げた大物とかを、記念として写真に収めるのも釣り好きならばよくある事ではあった。
 それにしてもいきなり送ってくる事はねぇよな、と不可思議に思う跡部は、よくよくそのカレンダーを見てさらに疑問を深める事となる。カレンダーに表記された年は、翌年ではなく当年のもので、つまりはこれがカレンダーとしての役目を果たせるのは2ヶ月を切っているというわけで。幸村あたりならば何かの謎かけで、不可解極まりない行動をとる事もあるが、相手が手塚であるので深い意味があるのか、単なる気紛れなのか、はたまた奴特有のボケなのか判断しかねた。
「まぁ、くれるってんなら貰っておくけどよ・・・・」
 何といっても、あの手塚国光が送ってきた代物だ。ただ単に不要物を押し付けたとしても、この先何かのネタにならぬとは限らない。手塚をからかうネタとなり得るのならば、跡部にとっては充分価値があるといえる。
「・・・・・っかし、普通に使ってねぇか?これ」
 長らくしまいこまれていた品というわけでもなく、どうやら手塚――もしくは手塚の家人が使っていたと思わせる卓上カレンダー。よくよく見て見ると、升目の中に大会スケジュールや抽選会、はたまた中間テストや期末テストの予定が書き込まれており、考えるまでもなく手塚本人が使用していた品のようだ。日記程ではないにしても、手塚の過去の動向がこれで知れるというのも奇妙な感じがした。
「――――ふん」
 月を巡っていくうちに、あの時が出てきた。
 関東大会初戦。青春学園対氷定学園の試合があり、手塚と跡部が公式戦において初めて向かい合った日だ。そして――跡部が手塚の肩を潰したその日でもある。
 一日一日が過ぎた日付をチェックされている升目の中、その日を境に何も記されていない。
 この後、手塚は九州へと肩の治療に赴き、そして全国大会に合わせて戻ってきた。青学と氷帝は2度対戦し、氷帝は2度敗れた。
 あの日の後も日は流れている。時は進んでいる。手塚にとって何が止まっているというのか。
「・・・・直接聞いた方が早ぇだろうな」
 まどろっこしい話はなしで、駆け引きもせずに直に聞いた方が早い。手塚というのは跡部の見る所不器用な男だ。こういう面で策略を用いてくるとは思えない。
「よぉ、手塚。俺様だ」
『・・・・・・早かったな』
「不満だってのか?」
『いいや。充分だ』
「そうかよ。で、この御大層な贈り物の真意を聞いていいのか?」
『・・・・・・・・・・・・・・跡部』
「んだよ」
『――――俺は、あの日からずっと―――』
「・・・・・・・・・・・・」
 
 電話をしたのは失敗だったな、と跡部は通話を切ってから己の選択ミスを悟った。
 受話器越しの囁くような低い声。躊躇う言葉の奥に隠された熱い感情。
 直接ぶつけられてしまえば、はぐらかす事もできない。
 
「は、なるほど。ラブレターだったわけね・・・・」
 
 仕方ねぇ奴、と苦笑を浮かべた跡部は、衣装箪笥から上着を取り出すと、袖を通しながら部屋の外へと向かう。さて、どう返事をしたものやら・・・・と、己の答えは未だ見出さぬままに、跡部は手塚家を目指していた。
 
 
 
2006/11/9
 
 
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