ラブレターから五題
 
 
 
 
 
02 P.S そろそろ付き合う?
 
 
 
 
 
 
 自分が恋愛問題に現を抜かすなど、想像にすら考えた事がなかった。
 だが、今現在手塚の頭を占めているのは、それ以外に分類のし様が無い事で。
 しかもその対象が同性ともなると、他人に相談すらできぬ状態であり、何を好んで困難な道へ進もうとするのか己に問いたくなるぐらいだった。
 それでも。脳裏を占めるあの鮮やかな存在の事を忘れる事はできない。
 初めて執着を持った相手の事を、ただの気の迷いと思い切る事はできない。
 それが例え、適いようもない恋だとしても・・・・いや、そもそも恋愛事が全てうまくいくというものではない。片思いのままに消える恋など、それこそ無数にあるというものだ。
 きっかけが何であったのかといえば、一番に思いつくのは関東大会でのあの戦いであるが、それはあくまで自覚するきっかけとなったに過ぎない。自分にはないあの華やかな存在感は、目を離そうとしても離せるものではなかった。
 派手な男だ。面倒そうな奴だ。関わらない方が良いだろう。そう思っていた筈なのに、跡部の試合ともなれば引き寄せられるように観戦していた。概観や印象から想像するスタイルとは異なる堅実なプレイ。どれほどの鍛錬を積み重ねてきたのかは、そのプレイを見ればわかるだろう。
 だから、きっかけはといえば、本当の意味ではテニスなのだろう。手塚が人に興味を持つ理由で最もそれが強いのは当然の事だ。だが、ただのライバルを見る目で跡部を見ていない自分に気づいた時、戸惑いと困惑に愕然とするしかなかった。
 自分の感情が認められない時期は、一人煩悶していた。一時の気の迷いであると、否定しかしなかった。だが、中等部での部活動から引退し、自由な時間が増えるようになってくると、余計な事を考える時間もまた増えてしまい、問題から目を逸らしてばかりもいられなくなった。
 あまりに臆病が過ぎるだろうと、ある時を転機に思い切るようになった。そして、その感情を認めてしまえば、随分と簡単だった事に気づく。最も、それで何かが解決したわけではないのだけれど。
 告白をするつもりはなかった。拒絶が怖かったというわけではない。そもそも拒絶されて当然の事だ。ただ、跡部に不快な思いを抱かせたくなかっただけだ。手塚の事を、求める意味ではないけれど特別と思ってくれる相手に、侮辱されたと思わせたくはなかった。
 そのつもりだったのだが・・・・。
 気を許した友相手のように柔らかな笑みを向けてくる跡部に、肩の力を抜いた無防備な表情を見せる跡部に、口をついて出てしまった言葉。
「―――好きだ」
 はっと気づいた時には遅かった。胸の内に納めていた筈の言葉が、外に出てしまった。跡部の綺麗な蒼の目が、じっとこちらを見透かすように見つめており、その言葉に取消しはきかないのだと覚悟を決めた。
 罵倒されるか、馬鹿にされるか、嫌悪にその秀麗な顔を歪めるか、湧き上がる予想はどれも後ろ向きなものばかりであるけれど、それは当然の事だった。手塚は跡部の信頼を踏みにじったようなものなのだから。
 だが、跡部の反応はといえば、そのどれでもなかった。
 全くといって良い程に表情を変えず、一言「あ、そ」と応じただけで、再び手にもっていた雑誌に視線を戻し、まるで何事もなかったかのようにそちらに集中した。
 拍子抜けしたのは事実だ。もしや意味がわからなかったのかとも思ったが、他者の感情を読み取る事に長けた跡部だ。手塚の言葉の意味がわからなかったという事などあるまい。恐らくは告白慣れしているであろう跡部にとって、それは特別でも何でもない事なのかもしれない。
 その日、いつも通りに跡部は手塚に「んじゃ、またな」と一言を残して帰っていった。
 それから後も、跡部からは何のリアクションもなかった。図らずもしてしまった告白は、無かったものとされたのだろう。ほっとすると同時に落胆が沸くのは仕方ない事だろうか。本当は、手酷くふられて最後通牒を突きつけられる方がましであったのかもしれない。
 
 
 以後、跡部との関係は、以前と等しくライバルよりは多少友人寄りといった関係のままで、何ら変化は現れなかった。
 そうして季節が巡り、肌を突き刺す寒気と共に冬の到来をその身で感じるようになってきた冬休みを間近に控えたある日、氷帝学園を代表して跡部から青春学園テニス部へと申し入れがあった。
 部を引退した三年生達を中心とした合同合宿を開かないかという提案に、青学の顧問である竜崎は回答を手塚に委ねたものの、かなりの乗り気であるのは見て取れた。当然、手塚に否やの気持ちはなく、あれよという間にとんとん拍子でそのプランが進められていった。日数があまりないという事もあるが、跡部の卓抜した企画能力を垣間見たような気がする。
 細やかな注意事項と、合宿プランが手塚の下に届けられた。細部に渡り神経が行き届いており、几帳面な跡部らしい。
 事務的思考に頭を切り替え、部長(引退してはいるが)として書類に目を通していた手塚は、最後の最後の末尾に走り書きのように書かれている文面に目を止めた。
 
そろそろ付き合うか?
 
「・・・・・・・・・・」
 他の誰が見ても意味は不明だろう。手塚に充てたものであるとは、誰も気づかないに違いない。
 だが、手塚はこれが自分に充てたラブレターであると、瞬時に理解した。
 
 
 
2006/8/28
 
 
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