01 あなたがすきです。
その手紙が目に付いたのは、ほんの偶然。
色取り取りのファンシーな封筒の中で、落ち着いた水浅葱の色合いがふと目を引いただけだった。
表を返して宛名を確認し、――なるほどなと思う心と意外に思う心。差出人の性質からいって、中高生の女子が好むような明るい色合いの封筒を使用する筈もない。しかし、無骨で融通の利かない面があり、わび寂びの心根がわかるような奴とも思えない。むしろ手塚ならば、業務用の茶封筒でも使いそうだが・・・・などと、本人が聞いたら気を悪くしそうな事を跡部は考えていた。
大体、何故手紙なのだろうという疑問もある。頻繁に連絡を取り合っているというわけではなく、それこそまだ一度か二度程しか受けた事はないが、携帯のメールアドレスを知らせてある。何か手紙でなければ問題のある内容なのだろうか、と跡部は少しばかり気を引き締めて、封筒に鋏を入れた。
中から出てきたのは、ただ一枚の便箋で。
跡部、元気か
ただその一文のみだった。
「・・・・・・ま、元気じゃねぇの?」
ぴらりと薄い封筒で、ウチワの代わりに風を仰ぎ、聞く相手のない返答を独り言でこぼす。一体これはどういう意図をもって送られてきた手紙なのか、全くわからない。
何か含みがあるのかもしれない。けれども、青学の要注意人物不二や、自校の曲者忍足あたりならばともかく、手塚の場合そんな細工をするだろうかという疑問もわいた。むしろ直球勝負で用件のみというのが基本な気がする。
「ってぇと、本気でただのご機嫌伺いか?」
それもおかしな話ではあるが、跡部は一応そういう事で納得しておこうと思った。
そして、返信をするか否かでまた悩む。不要な気もするが、一応貰ったからには返しておくか・・と、跡部は引き出しに収められた便箋を取り出した。相手が一文のみである以上、こちらも気を使う必要はあるまいと判断し、「――元気だ」と一言のみを記して封筒に収める。この後、氷帝学園に出むく用事があるので中途で投函するか・・と決め、それ以降はこの件に関して考える事もなかった。
そして翌日。
またもや、同じような封筒を届けられた手紙の中に見つける。連続して届いた以上、跡部の返事を踏まえて出したという事ではなさそうだが・・・・一体何のつもりやらと、半ば呆れながら昨日と同じように跡部は鋏を入れた。
夏だな
「・・・・・ああ、夏だ」
昨日同様、またもや端的としか言えない文面に、これは直接問いただすべきなのかと思いもしたが、まぁ良いか・・と思い直し、やはり昨日同様、返事をしたためた。
そしてまた翌日。
やはり再び届いた手紙。今度は、『 大会を思い出す。 』と書かれていた。
もしかすると、人寂しいのかもしれない。手塚は跡部と違う。仲間達に信頼され、後輩達に慕われるという面では同じだが、常に仲間に囲まれ、当人の意思に関係なく遊びに引っ張り出されるような事は手塚にはないだろう。仲間達が残りの夏休みを満喫しているだろう今、何となく取り残された気分でも感じているのかもしれない。
そのまた翌日。
今度は何が届くのだろうか、と少し楽しみとすらなってきた跡部は、機嫌良く手塚の手紙を受け取った。その日は、少し固めの内容で、『 学園祭の草案は出来たか? 』と書かれていた。
そして翌日。
随分長く続いてきた習慣のように、跡部は手紙を読んでいた。
その日の文面は、手塚だからこそある意味笑いを誘われる言葉で、『 西瓜が美味かった。 』と書かれていた。
また翌日。
午前中は多忙を極めた為、遅めの昼食を片付けている時に手塚の手紙の事を思い出した。食後の紅茶を飲みながら、届いているかを使用人に尋ねると、やはり見慣れた封筒は来ていた。鋏が見当たらなかったので、ぴりと手で切れ目を入れて中身を取り出す。やはり入っていたのは素っ気無い一文を記した手紙が一枚。今日は『 昨日、向日葵が咲いた。 』と書かれていた。だったら写真でも同封しろよ、と跡部は思わないでもない。
翌日。
珍しくも積極的な誘い文句。『 出かけないか? 』
「・・・・日付ぐらい指定しろっつの」、と何処かつめの甘い相手に苦笑を浮かべながら、跡部は「その内な」と、否とも応とも取れぬ返事を返した。
そして―――また翌日。
一体どこまで続くのだろうと、すでに娯楽の域にも達してきた手塚の手紙の内容は、『 少し会えないだろうか。 』というものだった。昨日の文面に比べると控えめで、それでいてある意味では積極的な強制力を持つ。さてどうしたものだろうか・・と思考をめぐらした跡部は、これらの手紙の共通性に気づいた。
あ-跡部、元気か。
な-夏だな。
た-大会を思い出す。
が-学園祭の草案は出来たか?
す-西瓜が美味かった。
き-昨日、向日葵が咲いた。
で-出かけないか?
す-少し会えないだろうか。
「―――くっ・・・・あははははっ!」
こみ上げる笑いが止まらない。日頃の跡部を知る者が目にすれば、驚嘆に目を見開くであろう。それほど、跡部は屈託ない笑みで笑い続けた。
「・・・・あいつ、馬鹿じゃねぇ・・・・?」
止めようにも止まらない笑いを拳で抑える。直接会いにいって驚かせた方が面白いか?と、意地悪気な事を考えつつも、朴念仁とばかり思っていた相手の意外な積極性を健闘する為に、跡部は携帯電話を取り出した。いつになく、晴れやかな笑みを浮かべつつ。