05 (滝&忍足/忍足→跡部)
忍足侑士という男は、口さえ開かなければ、かなり見目良い部類に入る。
いや、そのよく廻る口を開いたとても、軽妙な口調と如才ない応対、そして時折見せる底知れぬ様や関西人特有の独特のイントネーションも、お育ちの良い氷帝学園の生徒達からすれば、ミステリアスであったり、物珍しくあったりする。
実年齢より上に見える大人びた風貌やら、とにかく個人の印象としてはそう悪くない・・・・どころかかなり人気のある生徒だ。テニス部でレギュラーを張り、成績も常に上位をキープしており、その癖ひょうひょうとした態度を崩さない忍足の存在は、氷帝学園歴代随一の名物男、跡部にこそ及ばぬものの、かなりの有名人であり、密かなシンパも少なくないのだった。
ただし・・・・・・ごくごく親しい仲となり、いわゆる身内のようなカテゴリに含まれる者からすれば、1度や2度は富士の樹海に捨て去りてぇ・・・・と思わせる存在でもある。
成績低迷者こそ少ないものの、頭脳派に分類される部類は少ないのが氷帝学園テニス部。自然、データ整理などの作業の分担役は決まってくる。その多くは部長の跡部自ら・・・・一体どのように時間を捻り出しているのか謎ではあるが・・・・片付ける事が多いのだが、さすがに手の回らぬ時は、知性派で知られ、機械周りの作業にも強い忍足や滝あたりが、跡部の代わりに作業するのが常だった。
「忍足〜片付いた?」
「・・・・ん、ああ・・・・」
気のない返事に滝はやれやれと、椅子から立ち上がった。
随分前から積み上げられたノートや冊子、写真その他何やらの書類に塗れている忍足は、どうやら珍しく手こずっているらしい。あまり混沌とした様は得意としない滝であるので、そこらあたりは忍足に任せ、自分は一週間分溜まってしまったデータの入力作業に専念していたのだが・・・・こちらの目処が付いた今でも、向こうはまだまだ終わりの見えぬ状態らしい。
仕方ないかな、と自らの分担を片付けはしたものの、見捨てるわけにもいかず忍足の手伝いでもしようかと伸ばした腕は、乱雑に広げられた様々な資料に触れる直前でぴたりと止まった。
「――――忍足?」
「んぁー?」
「・・・・これって、何?」
「見てわからへん?」
「わかるから聞いてるんだよね。どこをどう見ても跡部しか居ないし」
「なかなかええショットやろ?」
「・・・・・・・・まぁ、芸術的と言えなくもないけどね」
へらりと相好を崩されて、これで校内いい男ランキングの上位だなんて、誰も認められないに違いない、と滝は内心忍足を扱き下ろす。
資料の山の中に紛れた写真は、なかなかによく撮れている。被写体が魅力的なのもあるが、計算しつくされたアングル、絶妙過ぎるタイミング、見事なまでに鮮明その写真達は・・・・到底隠し撮りの品とは思えない。だが、跡部本人がこのような着替え中の半裸シーンとか、シャワー後の水も滴る扇情的とすら言える姿態とか、誰に向けたのやらな無防備な微笑みとか、力の抜けた警戒心など全くない無垢な表情で眠る様とか、写真に取らせる筈などない。ましてや忍足相手ともなれば、まったくもって可能性などないと言ってすら良い筈だった。
「・・・・・・それで、このノートは・・・・・・何?」
「何ちゅうかな・・・・もう、どうしよう想いが止まらない、あいつへの愛を込めたポエムとラブレターが大学ノート12冊分に!ちょぉこれ見てくれ!」
「いや見たくないよ。心の底からね・・・・・・」
ばんと突きつけられたノートの束が12冊。その1冊1冊が、前頁みっちりと隙間無く胡散臭いポエムやら怖気が立つような気色悪い愛の言葉とやらで埋め尽くされているなど・・・・想像するのも恐ろしい。鳥肌どころかいっそ意識を喪いそうになる。同情どころか危険性を感じずにはいられない。ともあれ、今日から跡部には交代性でガードを付けた方がいいかもね、と頼りになる後輩一人では荷が重いかも、と思えてきた。
何やら説明し出した・・・・・愛のポエムらしきものを朗読し出したわけだが・・・・・・はっきりいって聞きたくないので右から左どころか、はなからスルーしつつ、滝は机の上に広げられたあまり関わりたくない品を検分する。
どう見てもゴミ箱から拾い出したとしか思えないレシートやら、書き損じて捨てた物なのか、見覚えのある跡部の筆跡。
他にも何やらいろいろもろもろ。どこをどう見て転んでも、犯罪収穫品のオンパレード。
「――――忍足」
「何や?」
「ちょっと、寝ててね」
滝は思い切り良くも容赦ない勢いと、遠慮の欠片もない渾身の力を持って、忍足の後頭部に衝撃を与えて昏倒させた。
「・・・・・・・・証拠品ゲット」
盗撮・盗聴・ゴミ漁りの物的証拠ゲット。
早足で警察署へと向う他、選択の余地はないだろう。
2007.06.02
「どうしよう想いが止まらない、彼女への愛を込めたポエムとラブレターが大学ノート12冊分に!ちょっとこれ見てくれ!」
(盗撮・盗聴・ゴミ漁りの物的証拠ゲット。俺は早足で警察署へと向かった)
5回言おう、ストーカー・ダメ・ゼッタイ!
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