† 最後のひと † (リョーマ&跡部)
神出鬼没と感心すべきなのか。
不法侵入者として非難すべきなのか。
まぁ、一方だけならば後者の可能性もあるが、付き添いが年代物の堅物であるのだから、一応正規の手段を経て来たのだろう。それでも、何故ここに居るのかという謎は残るけれども。
「―――そこで我が物顔で椅子に座ってる不審者は何者だ?」
「跡部か。遅かったな」
「・・・・・・・・・・」
答えになってないだろ、てめぇ。――と、胸倉を掴み上げたくなるのは、一応テニスの腕前だけはトップクラスで、跡部が最大のライバルとして認識している男、手塚国光だ。
「待ちくたびれたっス」
「・・・・・・・・・・」
だからてめぇら何モンだ!と、怒鳴りつけたい衝動を何とかやり過ごす。こいつの生意気な口調は今更だし、そこが気に入っている面でもある。青学一年越前リョーマが礼儀正しくかしこまった態度を取る方が寒過ぎるというものだ。
だがしかし。
ここは氷帝学園。そしてテニス部部室である。
そこに何故この二人が居るのだ・・・・・・・?
「用向きは何だ?練習試合の類ならば竜崎先生が引率して来る筈だよな。もしかして調子を崩されているのか?いやだが代理にしてもてめーら二人というのはおかしいな。手塚は引退した身だろ?そこのチビは交渉には全く向いてねぇしな。ああ、青学の2年にした所で、桃城も海堂も対して変わらねぇか」
「うちの部員を軽んじる発言は止めて貰おうか」
「ま、事実だけどね」
「・・・・・・・・・」
どっちだよ!と、正逆の発言をする二人にここは突っ込むべきなのだろうか。だが、苦虫を噛み潰したような顔からして、手塚ですら越前の発言を否定できないのは確かなようだ。最も、俺にした所で後輩達を手放しで褒める事などしないが。辛い点付けで丁度良いのだ。そうそう及第点を取れるような優等生など面白味も無い。
「それで?俺様の問いに答えるつもりはあるのか?」
「質問があるなら、きちんとそう尋ねてくれ。答え辛いだろう」
「まだまだっスね」
「・・・・・・・・・・・・」
だから何者だよこいつらは・・・・・・・・?と頭痛を覚える。これ程会話が通じない相手というのは、なかなか存在しないのではないだろうか。しかしながら、このまま相手のペースに合わせていると、いつまでたっても話が進まない。
「最初に聞いただろうが。てめーら二人の目出度い頭でも理解できるようにもう一度聞いてやる。『用向きは何だ?』」
「それならそうと最初に聞けば良い」
「まだるっこしいっスよね」
「・・・・・・・・・・・・そーかよ」
「しかし聞くまでも無い事ではないか。わざわざ氷帝に来たのなら、跡部、お前に会いに来たに決まっているだろう」
「――――っス」
「ああそう。・・・・・・・・・・・・・それで?『わざわざ』『俺様に会いに』来た用件は何だ?」
「それは、越前が・・・・」
「越前が?」
言いかけて戸惑う様に横を見る手塚に確信する。こいつは内容聞かずに付き添って来たのかよ・・・・と。あまりの外しっぷりにくらりと眩暈がした。だが、肝心の越前の方はといえば、相変わらずの挑戦的な目つきを向けてくる。ま、こういう目は嫌いじゃねーけどな。
「おい。用件を言え。俺もそう暇じゃない。長々と付き合うつもりはねぇぜ?」
「・・・・・・・・・・・・・作文」
「は?」
じろりと威圧感を込めて見据えると、越前にしては歯切れの悪い口調でぼそぼそと返してきた。
「・・・・・・・・・・・・・」
意味がわからずじっと凝視すると睨むように返される。・・・・・・・・・・・何なんだか。好い加減付き合っている自分が随分なお人好しに思えてきた。
「跡部。そう睨むな。越前が脅えている」
「手塚。忠告してやる。お前の眼鏡は度が合ってないようだ。眼科に行って検診しなおして来い」
越前の面構えを何処をどう見れば脅えているというのか。部長の目でならわかるなどという戯言に耳を傾けるつもりはない。
「こわーい」
越前よ、てめぇも芸人化してきたな。だが、その大根ぶりでは立派な芸人にはなれねーぞ、と付き合い的に合いの手を入れるのすら虚しく思えてくる。
「・・・・・それで?『作文』が何だって?宿題でも出たのか?」
「何だ。わかってんじゃん」
「さすがだな。それもインサイトか?」
「んなわけねーだろうがっ!手塚っ!!てめーはただの付き添いなんだろ?だったら黙ってろ!!」
「短気を起こすな」
「そうさせてんのは誰だ?あぁ?とにかく一通り越前に話をさせるまでは口を挟むな。日頃は必要以下にだんまりを決めこむ癖に、んでこういう時ばかり余計な事を・・・・」
「跡部さんが相手だからじゃない?友達なんでしょ?」
「・・・・・・・・・そういう嘘寒い台詞を吐くんじゃねぇ。それより、作文と俺様に会いにきた事に通じる関連性を話せ。そしてさっさと帰れ」
「そんなに邪険にする事ないじゃん。可愛い後輩相手にさ」
「可愛い後輩ならば山程抱えている。他校の小生意気なガキまで相手にしてられっか。――んだよ。何恨めしそうな面してやがる?」
「跡部さんが冷たいから」
拗ねてやがる。全くどうしろと言うんだ?そして黙っていろと言ったのは守っているが、傍らで非難するかのような視線を向けてくる手塚の馬鹿もどうすりゃいいんだ?
「・・・・・・・そりゃ悪かったな。俺様は無駄話は嫌いなんだよ。んな顔すんな。甘えんなら相手が違うだろうが」
「違わないから此処に来たんだけど」
「関係あんのか?」
「うん」
「だったら、先、続けろ」
「ん。作文の授業で宿題が出たんだよね。で、『最後の時に一緒に居たい人』ってテーマでさ」
「――――ほぉ」
また面倒な題材だな、と僅かばかりの同情を抱く。越前は帰国子女らしいので、余計に厳しかろう。最も同じように帰国子女である跡部は、作文だろうが何だろうが苦手と思った事はないが。
「だからここ(氷帝)に来たんだけど」
「――――なるほど」
言葉足らずの説明足らず。こいつの文章を読ませられる事となる教師が少しばかり不憫にも思えた。
つまり今の会話を整理すると。
越前に作文の宿題が出た。そのテーマが『最後の時に一緒に居たい人』であるらしい。そして越前は跡部に会いに氷帝へとやって来た。そこから導き出される答えといえば―――
「俺がその相手だと?」
「そーいう事」
やっとわかったの?とばかりの視線に苦笑が沸く。わかるわけねぇだろ、との言葉は通じないのだろうな、と思いながら。
「そりゃ有り難うよ。しかし、何で俺だ?お前、確か桃城とか仲良かったろ?」
「桃先輩は好きだけど。最後に一緒に、って思い浮かべていったらアンタの顔が残ったんだよね。――多分」
「多分?」
「アンタとの試合が一番面白かったから」
「ふ、ん?」
越前の目がしっかりと跡部に向けられる。嘘偽りなど全く混じっていない真っ直ぐな視線。嬉しくないわけがない。あの越前から、最大級の賛辞を向けられたのだから。
心楽しくなり、くっと笑い出しそうになった跡部なのだが、その時になってもう一人の存在の事を思い出した。言いつけ通り沈黙を守っていた手塚国光の事を。
そろそろいいか、と許可を出そうと手塚に目を向けた所で跡部は見てはならない物を見た気になった。
あの手塚が。
無愛想朴念仁情緒不足の感情欠落人間の手塚が。
じっとりと恨みがましそうな視線を跡部に向けている。この目には見覚えがあった。ついほんの先ほど、越前が見せたではないか。
「――――手塚ぁ」
「・・・・・・・・何だ」
「何、拗ねてやがる?」
「拗ねてなどいない」
「どの面下げてそれを言う。鏡見てみろ」
「鏡など持っていない」
「向こうのトレーニングルームにあるぜ」
「必要ない」
いつも以上に素っ気無い口ぶりだった。どうやら越前が手塚ではなく跡部を選んだ事にショックを受けているのだろう。何のかんの言って、手塚が越前の事を期待だけでなく可愛がっているのは知っていた。当人にそれが伝わっているかどうかは別物だが。
全く。何故自分はこんな拗ね坊二人の相手をしなければならないのだろうな・・・・?と、己の現在の状況がどうにも不可思議な跡部なのだった。と同時に、自分がもしそのテーマを振り当てられたとしたら、一体誰を選ぶのだろうか・・・・?と、穏やかな筈の放課後のひと時を無駄にしてくれた二人組を交互に見比べながら、ちらりと考えた。
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5000hit企画第3段。リョーマと跡部。
前2作と異なり、コミカル色が強く。ま、この三人なので。
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