† 出来損ないのカメレオン † (仁王&跡部)
「赤也は、シングルスしか頭にないみたいだね」
「言いたい事があるなら、はっきり言うてみんしゃい」
「別にね。張り合うのもいいんじゃないかな、とは思うけど。まぁ個人的意見からならば、仁王にはダブルスの方が合うだろうな、という所かな」
温顔とは正にこの事やの、と言い切れる柔和な笑みで厳しい一言を放つ幸村に、仁王は表情を変えずに応じて見せた。
「3枠より4枠。幾分は楽じゃのう」
王者立海には全国レベルの選手が集っている。その中で、生き残り容易な事ではない。幸村・真田・柳。この御三家と張り合うのは、厳しい等というものではない。そして少なくとも仁王には、シングルス・ダブルスといった事への拘りは無かった。いや寧ろダブルスの方が、肌に合っているかもしれない。騙しの技は多数に向ける方がその威力を発揮するというものだった。
「ふふふ。心にもない事を言うね。仁王らしいと言えばそうだけど。・・・・・・氷帝の跡部」
「跡部?」
突然上がった名に聞き覚えが無いわけではない。有名人だ。その実力もさる事ながら、人格というか性格が半端ではない強烈過ぎる個性を放っている。生まれついてのエンターテイナーとはあのような者の事を言うのだろう、と大会における跡部のパフォーマンスを見て思った事は記憶に新しい。
自信たっぷりに、余裕の笑みのままに観客を煽って乗せるプレイヤー。存在するだけで異彩とも言える華やかな覇気を放つ彼は、その容姿も含め一度見たら記憶から消せる事のできるような人物ではなかった。だが、ただ目立つというだけではない。仁王が注目したのは、派手なショー紛いのパフォーマンスを繰り広げながらも、その当人の顔は・・・・いや、その瞳が全く笑っていないという事に気づいたからだ。
冷静な観察者の目じゃの、と幸村以外にはかつて覚えなかった戦慄を仁王はその時背筋に感じた。その冷えた蒼い瞳は、嘘や欺瞞を見透かすようだった。
選抜の合宿から戻ってきた幸村は、向こうで跡部と親しくなったという事か。二人が並んでいる光景は、女どもがえらく騒ぎそうじゃの、と想像できる。性格的には合うようには見えないが、跡部に関しては噂が先行しているのでそうと言い切れるものでもないのかもしれない。
「お前とあいつは、とことん毛嫌いするか、はまるぐらいに気が合うか、どちらかだろうな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
そう言い放ち笑う幸村に、仁王は笑みを浮かべたまま黙して返す。本音を隠すのは、詐欺師の常套だった。
関東大会の決勝が終了し、閉会式が終わると立海メンバーは早々にと引き上げていった。部長である幸村の手術に駆けつける為だ。
忘れ物をした仁王は、仲間達を先に行かせて一人会場へと戻る。そしてさっさと病院へと向かおうとした所で、見過ごすには難し過ぎるだろう人物を見かけた。
仕立ての良さそうな白いシャツにチェックのズボン。胸元にはエンブレム。やたらと大柄な奴を傍らに従え、悠然と出口の方へ歩いている人物の顔は見間違えようがない。氷帝の跡部だ。
一刻も早く、という状況ではない。すでに手術が始まっている以上、今更急いでも仕方が無い事だった。そう判断すると仁王は、にやりと笑みを浮かべてぴんと綺麗に伸びた背に声をかけた。
「小山から降りて来た、猿山の御大将が居るのう」
「―――んだよ。ああ、立海の猿回しか」
「『詐欺師』じゃ」
呼びかけにくるりと振向いた跡部は、秀麗な顔に皮肉気な笑みを浮かべて言い切ってくれた。なまじ小綺麗な顔であるだけに、小面憎い事この上ない。ほぼ初対面であるというのに、頭から喧嘩を売るような口調であるのは流石である。最も仁王の方が先にふっかけたと言えるのかもしれないが。
「物真似自慢の道化猿だろ。呼び掛けまで二番煎じたぁ、芸が甘いな」
仁王の訂正を鼻で笑い飛ばした跡部は、倣岸な態度で腕を組み、そう言い放つ。畳の上で死ねるタイプじゃないのう・・・・と思ったが、跡部の場合は元々畳などとは縁が無いのかもしれないと気づく。後ろから刺されるタイプじゃ・・・・と訂正。当然の事ながら、表面上はそんな事を考えているなど全く素振りもみせない。しかしながら、それは総じて仁王が日頃他人に抱かれている心証であったりしたのだが。
「そこのデカブツ。そいつも同じじゃないかのう?」
「はっ!違ぇな。こいつの技は返しの技だ。樺地。先に帰れ。今ならあいつらに追いつく」
「―――――ス」
跡部の命は絶対である。樺地は首を縦に振ると、疑問の言葉を挟む事もなく、先に帰った仲間達の後を追った。その信頼は改めて確認するまでもなく、とても深い。
「帰らんのか?」
「ふん。幸村の病院へ行くんだろ?日を改めて行くつもりだったが気が変わった。同行してやる」
「・・・・・・それは嬉しかね」
波が引くように引き上げていった立海メンバーと幸村を結びつけるのは簡単な事だ。いやもしかしたら、幸村から直接手術の日程の連絡を受けているのかもしれないが。
「重役出勤だな。親の死に目に会えねぇタイプだろ?」
「両親姉弟全て健在じゃ」
「そりゃ良かったな」
「・・・・・・・・・・・・・」
全く良かったとは思えない口調で・・・・どころか、どうでも良さ気な・・・・そしてさもつまらない事かのように言われても相槌の打ちようがない。それはつまり、自分に対して全く興味を持ってもいないという事の表れのようでもある。恐らくそれは確かな事実で、跡部の視界に入っているのは、幸村と真田ぐらいのものなのだろう。
「氷の帝王は、情深き男じゃね」
「アーン?」
「幸村の病気の事じゃ。ライバルの自滅に、外部の奴なら喜ぶのが当然じゃろ」
「はん。安臭ぇライバル意識だな。真田あたりなら、『痴れ者が!』とでも抜かすんじゃねぇか?まぁ、俺様は友情に厚いもんでな」
会話の間も足が止まる事はない。日本人離れした長い足がさっさと歩く後ろを仁王は早足でついていく。
「―――対手塚戦、見たんじゃが」
「そうかよ。俺様は見てねぇぜ」
てめぇの試合はな、と言い切られ、そうじゃろうな、と思う。自分達の試合が始まる前に、観客席にこの上なく目立つこの人物の姿は見えなかった。落胆を感じているわけではないが、寂し気に、残念そうな表情で恨み事を口にする。
「つれないのう」
「よく言うぜ。しかしチンケなペテンに騙されるなんざ、黄金ペアもまだまだだな」
「自分なら見破れるとでも?」
揺ぎ無くも自信たっぷりな態度に、ついそう尋ねていた。答えは聞くまでもない事であったが。跡部の『眼力』については仁王も聞き及んでいる。この蒼い瞳に見据えられた対戦者は、全てを曝け出されるのだろう。冷静に、冷徹に、見据える視線に曝されて、僅かな綻びすら致命的な亀裂となる。
「造作もねぇな。大根役者の猿芝居如き」
「猿猿煩いのう」
「くっ。騙し上手と言えば狐だが、逆に手玉に取られかけたらしいじゃねぇか。音に聞こえた詐欺師も片無しだな。種のばれたトリックなんざ、猫騙しにも劣る。二度は使えねぇ。さて、次はどうするんだろうな?カメレオンさんよ」
試合観戦はしていなかったようだが、その内容は仲間にでも聞いていたらしい。青学の黄金ペアとの対戦を揶揄られて、仁王の心に何かが沸き起こる。勝つには勝った。だが、それは満足できる内容のものでもなく。指摘されるまでもなく、自分達が追い詰められていた事実を思い出す。
「跡部の試合もそうじゃろ」
「俺が?」
「相手に応じてスタイルを変えとる。相手の嫌がる戦い方じゃね」
「褒めてくれてありがとよ」
やはり嬉しいとは思ってもいないだろう口調で返す跡部だ。感情を荒立てない柳生や柳よりも、厳格な真田よりも、やはり扱い辛い人物じゃ・・との認識を新たにする。
「カメレオン、ねぇ。悪くないのぅ。詐欺師より合うとる」
「改名する気かよ。褒めちゃいねぇけどな。本物の一段落ち。限りなく近いレーザー。偽の文字を貼り付けたイミテーションがてめぇだ」
「合わせる相手によるんじゃ」
「はっ。相手のせいにするつもりか?出来損ないのカメレオン如きに格下扱いとはな。紳士も怒るぜ?」
「・・・・・・・・・厳しかね」
『出来損ないのカメレオン』
冷然と呼び放たれた呼称を振り切る事はできなかった。
仁王を評し、『悪魔をも騙せる男』と幸村が言った。
だが、この跡部景吾という男の前で偽り通せるとは思えない。薄っぺらな仮面など、透かして見抜く蒼の双眸。
悪魔よりも怖か男じゃのう・・・・と、初めて相対した帝王と称される男の覇気に、仁王は呑まれていた。
同時に。
跡部を騙し通す事ができたら、それはとてつもない快感じゃ・・・・とも思えた。
冷えついた蒼の瞳。
戦慄すら覚えるかけひき。
どちらも仁王が大層好むものだった。
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5000hit企画第1段。仁王と跡部。
これで別段2人共悪意は抱いておりません。
この2人で初めに浮かんだ言葉のイメージ。
詐欺師と策士、でした。
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