17.帰宅しました。
 
 
 
 
 
「ただいま帰宅しました
「お帰りなさい。景吾さん。今日は遅かったのですね」
 丁度玄関ホールに居た母に挨拶をする。叱責の言葉はない。元々、部の用事やら生徒会の用事やらと帰宅時間はまちまちだ。部を引退してからも、学校帰りにトレーニングジムへと足を伸ばす事も少なくない。
 それでも今日は少し帰宅の足が遅かったかもしれない。何のかんの言って、仲間達と集う事は久々であり、跡部もついつい長居してしまったからだ。
「友人達と話していたら、少々遅くなってしまいました」
「テニス部の?」
「はい」
「今日の景吾さんが華やいで見えるわけですね」
「・・・・・そうでしょうか」
「ええ。とても、楽しそう」
「そう、ですか」
 母の言に薄く笑む。否定はしない。心軽く感じているのは確かな事実であったから。
 自室へ戻る途中、使用人にいつもより少し多めにと食事の支度を頼んだ。軽くポテトをつまんだだけであるので、かなり空腹を感じている。ここの所、食欲が今ひとつであったのだが、それも解消されたようだ。
 脱いだシャツを椅子にかけ、部屋着に袖を通している所でそんな事実に気づき苦笑が沸いた。
 運動が不足していたわけではない。毎日トレーニングを欠かしていないし、成長期は栄養を貪欲に欲するものだ。それでも。何処か食事に味気なさを感じていたのもまた一つの事実。その理由を考えるなど今更なのか。知らずにこもっていた気鬱が打ち払われた理由など、一つしかありえないのだから。
「ま、置物の類は勘弁して欲しい所だがな」
 悪ノリしまくった仲間達の言葉を思い出すと、その点では頭痛が襲ってくる。冗談にしか聞こえない内容も、あの面子の場合冗談で済まされないからだ。だからといって、一度口にした以上、跡部はちゃんと応援にかけつけるつもりである。が、その場で本当にその代物を目にしたとすれば――――怒声をもって蹴り倒す事は間違いないだろうなと思う。
 その光景はさぞかし周囲の笑いを誘う事だろう。高等部においても、現在主力の中学テニス界の奴等が頭角を現すであろう事を跡部は疑っていない。勿論新顔も出てくるだろうし、消えていく奴も居るだろう事はわかっているが。それでも、一人、二人と思い浮かべていくライバル達の顔は、再びその場にあるであろうと思う。そうであって欲しいという、希望も確かにあるけれど。
「・・・・・・・・・・・・」
 身だしなみを整えて、食堂へと向かう前にふと思い直して跡部は携帯を手に取った。
 幾つかのアドレスを呼び出して、宛先へと連ねる。送る相手は、ライバル校の元部長達。
 つくづくメールというものは便利だと思う。面と向かって問うのは気恥ずかしいけれど、こうして簡易な文面にすると気軽に送れなくもない。この内返信してくるのは極一部であろうが――もしかすると一通も戻って来ないかもしれないが、それはそれで別に良いとも思う――彼等がどのように感じているのか、ちょっと聞いてみたい気分であっただけだから。
 ぴっと音を立てる送信ボタンを押した後、跡部は携帯電話をベッドの方へと放ると、今度こそ食事をする為に部屋を出た。
 
 
 



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