13.滝がカップケーキをくれました。どうやら調理実習だったようです。
 
 
 
 
「ちょっと、いいかな?」
「答える前に入ってくりゃ、世話ねぇぜ」
 柔和な笑みを浮かべて寄ってくる幼馴染に跡部が形ばかりの悪態をついた。別に非歓迎というわけではない。それも一つのコミュニケーションなだけだ。
「あは。そうとも言うね」
「ま、いーけどよ」
「はい。差し入れ」
「――――――」
 すいと差し出された紙袋に跡部は怪訝気な視線を向けた。手を出すまでもなく漂う甘い香りにそれが菓子の類と知れる。すぐに反応できなかったのは、この手の差し入れを跡部が受取らないと知っている筈の滝であるのに、と跡部が戸惑いを感じていたからだ。
「預かり物じゃないよ。さっき実習で作ったんだ」
「そーかよ」
 俺が作ったんだから怪しい品じゃないよ?との言外の響きを汲み取った跡部は無造作に手を延ばして受取った。誰とも知らぬ奴からの手作りの品は得体が知れず口にできたものではないが、長年の付き合いである滝の手によるものならば断る理由は特にない。まぁ跡部が甘い物がそう得意ではないというのはそれなりの理由になるかもしれないが。
 穏やかに笑む滝の顔をちらりと眺め、跡部は長い足を延ばして前の席をどかりと蹴った。今なお安眠中のもう一人の幼馴染を叩き起こす為である。
「あれ〜?もう〜放課後〜?」
「まだだ」
「じゃぁまだ寝るC〜」
「起きろ」
「ん〜」
「・・・・・・ほら、ジロー。口を開けろよ」
「んんん?」
 寝ぼけ眼の前には慈愛に満ちた柔らかな跡部の笑み。きらきらと輝き効果すら解き放ち、いっそ神々しくすらあった。
 長い付き合いでも滅多に拝まないそんな笑みをふいに向けられたジローは、眠気も吹っ飛んだのかぽかんと口を開けていた。そこへ跡部の白く優美な指が小さな欠片を放り込む。
「―――ふぁ?・・・・・・・・あ、ケーキ?」
「どうよ」
「ん〜?美味C〜よ?ちょーっと焦げ気味だけど」
「ふーん」
 ジローの回答を聞くと、跡部は己の手の中のカップケーキを再度眺め(既に形状は半割りである)無造作に己の口に突っ込む。中々男らしい所作である。そして跡部は全く表情を変える事なく咀嚼し、こくりと飲み込んだ。そこへ丁度、忍足が教室へと戻ってきた。
「あー腹減ったわ・・・・お?ジロちゃん菓子食っとったん?わけてぇな」
「もう無いC〜」
「残しといてくれてもええやん・・・・」
 忍足は切なそうな表情でジローに訴えるが無い袖は振れぬというものだ。
「何食うたん?」
「ケーキだよ〜。滝がカップケーキをくれました。どうやら調理実習だったようです
「何やねん。その棒読み報告は。なぁ滝、ホンマに残っとらんの?」
「御免。跡部に上げる分しかなかったんだ」
「へぇ。跡部食うたんや。珍しいやん。どやった?」
「―――ま、食えんじゃねーの?」
「君ねぇ。目の前で毒見させるってどうかと思うけど」
「ジローの方が俺より胃が丈夫だ。俺様の胃腸は繊細だからな」
「心臓の方は間違いなく君の方が丈夫だと思うけどね」
「あたり前だ」
 滝が思わず微苦笑を浮かべる。知らぬ者には褒めたようには聞こえないかもしれないが、先程のは跡部にしては最大級の賛辞である。それを嬉しく思ってしまうあたり、自分も大抵終わってるよね、などと滝が一人思っていると、それを見透かすようにふふんと笑う跡部の顔が目の前にはあった。
 全く敵わない―――と思わされるのは滝に限らず跡部を取り巻く氷帝テニス部部員達に共通する想いであろう。
 



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