7.前の席でジローが寝ていますよ。
授業開始のチャイムが鳴る。
整然と教卓の方を向くクラスメイトの様子が空気を通じて感じられた。
そんな中で例外的な奴が居る。跡部の目の前の席に座る、睡眠過多気味のクラスメイト兼、チームメイト兼、幼馴染み。
最前列の教卓前。机に突っ伏したひよひよとした頭。実に平和な光景と言える。ある意味視界良好とは言えるが、それが溜息を誘わぬ理由とはならない。
「前の席でジローが寝ていますよ」
「・・・・・・・・・・」
ひそひそこそっと御注進、とばかりに耳元に囁いてきた相手をじろりと睨む。あまり――どかろかできればどころかかなりな所囁かれたくない男の筆頭であるのがこの忍足だ。
あの無駄に色気を込めた低音ヴォイスは女ならば腰下けにもなろうものだが、男の跡部にとっては背筋をむず痒くさせるだけではっきり言うならば気色い。
「見りゃわかんだよ、あぁ?」
片眉を潜めて不機嫌色を表せば肩を竦めて一歩引いた。そこで「朝から冷たいわ〜」と余計な一言を忘れないあたりがつくづく忍足だ。
授業に意識を戻すのだが、いま一つ意識半分逸らされて、集中できない退屈な講義。これなら自分が教壇に立った方がまだマシな授業ができるのではないか?などとも密かに思う。最も教師になるつもりなどないけれど。
まだ一日の始まりだというのに内からこみ上げてくる眠気。『春眠暁を覚えず』とはよく言ったものだが、秋の気候もまたやたらと眠気を誘う。いっそ誘われるままにこっちも居眠りを――とも思わなくもないが、現役生徒会長がそれでは周囲に示しがつかない。思う様に惰眠を貪るジローが羨ましく思えた。まさかこんな事を羨んでいようとは、涼やかな表情できりと教壇を見つめる跡部の外観からは、誰も予測だにしないに違いあるまい。
奔放に、自由に行動しているように見えて、これでいて跡部には柵や制約が多い。自由に行動できる幅は実は結構狭められている。
―――こうして気侭に行動できる奴を見ると――本質的な意味では自分は酷く不自由なのだと、気づかされる。