4.樺地が迎えに来ています。声掛けてあげてください。
 
 
 
「樺地が迎えに来ています。声掛けてあげてください」
 
 
 
 扉を開ける寸前、所持している携帯電話のひとつが鳴った。
 テニス部の活動や連絡用、または学内の用事に関わる場合はこちらにかかってくる。跡部は複数の携帯を所持しているので、どれにかかってくるかによって連絡用途が別れてくる。 プライベートと学校生活と、また家族に関わる事と振り分けているからだ。
 今回かかってきたのは、一番使用頻度の高いものだ。テニス部の部員全員(監督も含め)に知らせてある番号である。緊急の連絡はこちらにかけるようにと部員に通達してあるのだ。まぁいつものメンバー以外に他の部員が直接かけて来る事は滅多になかったが。
 跡部としては、相談事の類でも受けるつもりはあったのだがどうやら敷居が高いようで、そういったチャレンジ精神溢れる部員は現れなかった。これが青学あたりならば別なのかもしれないな、と別にスタイルを変えるつもりはないけれど思う事もあった。
 電話をかけて来たのは鳳で、表示を見た時はテニス部の事かと思ったが微妙に違った。(全くの違いでもないが)「おはようございます」と丁寧な挨拶の後に申し訳なさそうに続いたのが、樺地の件である。
 部からは引退した身であるので、今までのように毎日ラケットを持ち歩いているわけではない。樺地を荷物持ちとして指名したわけではないのだが、共に居るうちに自然とそういった役割を受け持つようになった。これも強制ではなく樺地自らが進んでである。
 朝練に出るわけでもなく。よって荷が嵩張るわけでもなく。よって早い時間に出る必要などないのだけれど、習慣的な行動を崩す事もなく跡部の登校時間は以前と変わらない。次期選挙は近いがまだ会長としての役目は終わっていないので、引継ぎ事項も含め現在はそちらの方で結構忙しくこなすべき案件は多い。
 ただし、習慣化しているとはいえ必ずしも毎日同じように行動する必要はない。よって樺地にも「もう迎えに来なくて良い」と昨日も言い渡したばかりである。だが樺地は今日も来ているらしい。護衛のつもりなのか、それともやはり習慣なのか。
 門に近づくと平均的な中学生の身長を遥かに超えた大柄な後輩の姿が見えた。心持ち小さく見えるのは樺地の心情からだろうか。 今朝の行動は跡部の意に反しているわけで、それを気にしないような樺地ではない。
「樺地」
「ウス」
「・・・・・・・・行くぞ」
「――ウス」
 いつもと全く変わらぬのっそりとした様であるけれど、跡部の言葉に喜んでいるのが背中越しにもわかる。顔を見るまでは叱ろうかどうしようか逡巡していたのだが、見てしまえばもう「仕方ねぇな」と思うばかりであった。
 
 



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