1.跡部さん、目覚ましが鳴っていますよ。
 
 
 
「――跡部さん、目覚ましが鳴っていますよ」
 
 
 
 穏やかに語りかけるような声の後、ぴぴぴぴぴ、と電子が鳴り響く。小さく軽やかな音が数秒続くがベッドから伸びた手がそれを静止させた。
「―――――」
 むくりと身を起こしたのは、氷帝学園にその人ありと知られた跡部景吾だ。寝起きの為か目つきがやたらと鋭く険しい。ベッドの上で身を起こしたままに身動き一つすらしない。
 虚空を眺めその先の何かを睨みつけているようでこの様を新参者のメイドが目にでもしたら、怯え慄き涙目をもって、『辞めさせて下さい』などと訴えるかもしれない。それほど、凶悪な目付きであった。
「景吾様」
「――起きている」
 軽く扉を叩くノック音に小さく溜め息を吐くと、全てを呪うかのような危険な表情をかき消す。そうはいってもやはりまだ、不機嫌面のままであったが。
「失礼します。――おや」
「んだよ」
「本日は御無事で」
「人を衝動的破壊者みたいに抜かすんじゃねぇ」
「申し訳ございません。日頃が日頃と、近来の記憶が不思議と脳裏に揺り起こされまして」
「‥・・・・・・・・」
「やはり御友人からの頂き物は特別なのですね」
「関係ないな。――明日は壊すかもしれねぇし?」
「それは嘆かれるでしょうね。景吾様に差し上げた方はきっと」
「言わなきゃわかんねぇよ」
 ちっと吐き捨てるように言うが、語尾の弱さは否めない。この場合立場が弱いのは跡部の方だ。
 それが例え雇い人と雇われ人の関係間柄であろうとなかろうと非がある方が弱いのは当然である。
「そうでございますね。この私めが沈黙を守れば、事は何ら問題もなく平和に収まりますか」
「‥・・・・・・・・」
 にこりと笑う執事に跡部はな口を歪ませ、視線を逸らすかのようにベッドサイドを見るのだった。
 
 
 
 
 
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