「手塚部長、『誕生日』おめでとうー!!」
「――――」
ぱんぱんぱんと盛大にクラッカーの音が鳴る。
所は部室。テニス部所属。IHを経て引退した三年達も揃っての祝杯である。
ここで祝された当人はといえば、扉を開けて早々に降り懸かってきたクラッカーの破裂音に聴覚を支配され、また内蔵物による洗礼を頭から被り、そしてその後の行動を決めかねていた。「
(元)だ」、と訂正するのも忘れている。
ただし日頃から鍛えあげている表情筋(単に活用しないから強張っている為)表面上は皆の知る冷静沈着な手塚(元)部長そのままであるのだが。
「全く、手塚は驚くって事を知らないから可愛げないよね」
「まあまあ。別にびっくり大会じゃないだろう?」
不二の少し嫌み混じりの言葉を気配り上手な大石がフォローする。
「そういう事だな。さあ手塚、こっちだ」
「主役が来なきゃ始まらないからね〜」
菊丸や乾に背を押され、手塚はテーブル席に押し込まれた。
卓上にはお約束のバースデーケーキ。ロウソク15本の小さな炎がゆらゆらと揺れる。
白いクリームの上にはそっと薄いチョコプレートが添えられ、そこには
「くにみつくんおめでとう」 の描き文字。これはどこに突っ込むべきだろうかと一瞬悩みもしたが、背後に視線を感じて振り返った先にある不二の見慣れた笑みを見て、誰の差し金かはだいだいはわかった。――まあ誰も違和感を覚えていないようだし、これはこれで良いのだろう。
「部長、消して下さい。ローソク、溶けてるっス」
「ああ、すまない」
いつのまにか横に来ていた越前に促されケーキに目を向ける。確かに細いローソクを伝い、ケーキに落ちかけている。
「あ、待てっておチビ!手塚を電気消すまで抑えといて!」
「ーっス」
菊丸の言葉に反応し素早く動いた越前は今にも息を吹き掛けようとしていた手塚の口許を両手を使って押しとどめた。
「・・・・・・・・」
止めるにしてももっと他の方法があるだろう越前、と手塚は内心思ったが、それも抑えこまれた口の中に押しとどめられる。
その時、ふっと電気が消された。深夜ではない時間帯、暗闇とはいかないが太陽の光があまり差し込まぬ部室であるので、僅かに薄暗くなる。
まあ気分の問題なのだろう。
拘束も解かれたので改めてケーキに向き直り、ふうと息を吐きかける。
その息によって、小さな揺らめきはふっとその灯を消した。
瞬間、狙いつけたようにぱんぱんぱんと再び鳴るクラッカー。色とりどりの紙テープに埋もれながら手塚はあとできちんと掃除をするんだろうな、と案じてしまったのは、身に染みついてしまったた小姑的思考によるものか。
「――ここで手塚が部長の役割を思い出して思わず叱ってしまう確率50パーセント」
「そんなに高くはない」
乾の言葉の前に引退した自分の立場を思いだした手塚はぼそっと否定の言葉を口にする。部を取りまとめるのは現部長がやるべきであって手塚は口を出すべきではないのだ。
「さてケーキを切り分けようか。飲み物も用意してある」
「乾先輩、それって」
「バースデイスペシャルドリンクだ」
途端沸き上がるブーイングの嵐。どのあたりがスペシャルなのか誰も尋ねたくもないに違いない。
「というのは嘘で、
普通のオレンジジュースだよ」
その言葉に今度はほっとしたような安堵の空気が流れた。それでも渡された紙カップに注がれた一見すればオレンジジュースにしか見えない液体に向ける皆の目はあからさまに不信気ではあったけれど。――手塚も含めて。
人数分にケーキを取りわけ、まずは主役からと促され、手塚がフォークを突き刺した所で携帯電話が鳴った。
マナーモードにしていた為振動で着信を知る。点灯するランプに通話ではなくメールなので、発信者をまず確認。
跡部景吾
「・・・・・・・・・・・・」
別に悪い事をしているわけではないのに一瞬ちらりと周囲を伺ってしまう。
何気ない素振りで中を開くが文面はかなり端的だ。
【これから空いてねぇ?】
のみ。
こちらが「空いてない」と答えれば「そうか」とだけ返してくるだろう。そんな素っ気なさを感じさせるメールだ。
部室の端より今日は早めに練習をあげてカラオケ大会にしようという声が聞こえる。彼等は間違いなく自分を誘うつもりだろう。
手塚は一瞬だけ考えるとすぐに決断し、ぱちぱちと返信メールを打った。
【空いていなくもない】
回答とも言い切れないようなメール内容を、手塚は跡部へと返信する。すると殆ど間を置く事なく再び跡部からメールが届いた。
【30分後に駅前】
これまた端的な文に用件が全くわからない。まぁ公的な打ち合わせではないので、そんなものなのかもしれない。ふっと思いついて送ってきた、そんな感じだ。もしかすると、自分の誕生日に関わる事かもしれない。
自意識過剰というわけではなく、乾程ではないものの情報通の跡部の事、その程度の手塚のプロフィールは頭に入っている可能性があった。
同時に、ごく個人的な事は全くスルーしている可能性もあったが。どちらであっても跡部らしい、と思えるのが合反した内容であるのに不思議な事だ。
【了解】
それだけ打ち込むと手塚も返信を返した。あまり携帯メールの打ち込みは得意ではないので、この程度で済んで助かってもいた。さてあとはどうやって抜け出すか、と画策する。カラオケの類が苦手だからこれ幸いと跡部の誘いに乗ったわけではなく、跡部からの誘いの方が先であったのだ。(実際仲間達はまだ手塚に誘いをかけてはいない)それを口にするつもりはないが、今の手塚の心境としてはそんなものである。