耳を擽る柔らかな言葉 (中編)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「待たせたか?」
「俺様を待たせようなんざ、いい度胸じゃねぇの?」
 不愉快そうに肩眉を潜めている様はやたらと不機嫌そうなのだが、手塚の姿を認めた途端に玩具を見つけた子供のように輝いた瞳がそれを裏切っていた。
 それでも多少時間に遅れたのは事実であるし、その間に跡部が絡まれたのは手塚の責任とも言えよう。 例え跡部の不遜な態度が相手を煽り、事態を殊更険悪にさせているのだとしても。
 非は非として認めるのが手塚の美質である。そして跡部相手の場合はなるべくこちらが引いた方が大抵上手く収まるというのも今までに学習してきた経験談だ。 その経験に習い、手塚は表情ばかりはいつもの鉄火面ながらきちんと謝罪の意を込めて謝った。
「すまない」
「ちっともすまなそうに見えねぇけど」
「そんな事はないが」
「てめぇは素から偉そうだからな」
「――――」
 お前にだけは言われたくないと、手塚が思っても罪にはなるまい。そしてそれに激しく頷いてくれるのが、当人以外の大多数の意見であろう事も。
 跡部の誘いメールの後、仲間達には『用事があるからこの後は付き合えない今日は有り難う礼を言うお前達の気持ちを嬉しく思う――』と畳み掛けるように一挙に言いきった。 常にない多弁な様子の手塚に呆気に取られた彼らが正気に戻る前にさっさと逃げだしたのだ。先手必勝。追及を逃れるには攻めの一手だ。
 思ったよりもあっさりと抜けだせたので待ち合わせ時間には余裕があった。
 指定場所に辿りついてみると、周囲の空間から切り離されたかのように一際目を引く跡部の姿。まるでそこだけスポットライトがあたったかのように周囲と一線を画していた。
 テニスコート内では独自の華やかなオーラを放つ跡部だが、自然体であってもその存在感は稀有で圧倒的だ。 とにかく目立つ奴なので、待ち合わせにこれほど適した人物は居ないと思う。迷いようがないので下手な目印すら必要ない。
 跡部が着こんでいるのは学校帰りだからこれも当然だが、氷帝学園の制服だ。仕立ての良いジャケットの胸元には瀟洒な意向のエンブレム。 チェック柄のスラックスが跡部の伸びやかな足をさらに引き立てすらりと優美な印象を放つ。
 氷帝学園の制服をデザインした者も、この着こなしを見れば拍手喝采、喜びに満ち溢れるだろう。 そんな風についつい観察というより見惚れていると、跡部に近寄っっていく二人組の少女の姿を視界の端に捉えた。
 同級学年の女生徒よりも幾分大人っぽく見える彼女達は恐らく高校生だろう。周囲が皆気にしながらもちらちらと視線を投げ掛けるにとどめていた跡部に、無謀というか己知らずというか‥・・まぁ果敢にも直接攻撃をかましたわけだ。
 これを無謀と言わずして何と言おう。存外に口の悪い不二あたりに言わせれば「自分の格を知らないって最強の強みだね」などとにこやかに言い切るかもしれない。
 跡部がもてるとは聞いている。それは当然だろう。街を歩けばスカウトとナンパが列を為す――というのは都市伝説に近いが全くのデマでもないに違いない。
 
「てめぇが待たせるから、余計な奴等が寄ってきやがった」
「それは本当にすまないと思っている。だが、お前が俺の両親や祖父に対するように相手を立てるようにすれば、無用なトラブルは回避できるのではないか? そういう切替えは実は得意なんだろう?」
「ああ?馬っ鹿じゃねぇの?尊ぶべきは『人』だろ?煮ても焼いても肥料にすらならねぇ『クズ』を同列に扱ってど―すんだよ。大体ゴミは掃いて捨てるもんだろ?」
 跡部の言う事にも一理はあるな、と思わず納得してしまいそうになった手塚だったが、「それはそうかもしれないが、だがしかし」と、そのまま受け入れるにはやはり少々問題があるのではないかと思い直して跡部に苦言しようとした所、「貴様らさっきから人を無視して何ぐだがぐだ抜かしてやがるっ!」とすっかりその存在を忘れ去っていた外野の怒鳴り声がかかった。
 誰が『人』だ。人の会話を邪魔しておいてよく言えたものだな。これではクズ扱いされるのも当然ないか――と瞬間考えてしまった手塚は、跡部の思考を色濃く影響受けてしまっているのかもしれない。
 
 
 
 
 
「ねぇ、遊ぼーよ」
「寄るな」
「誰待ってんのー?カノジョ?」
「てめぇらにゃ関係ねーだろ」
 甘えるような声音で擦り寄っていく少女達に跡部は何処までも素っ気無い。眉間に皺を寄せ、あからさまに不機嫌な表情となっている。跡部を知る者ならば、そんな彼の表情を目にした途端回れ右をするだろう。それほどの危険信号であるというのに、他人の感情を悟るのに鈍いらしい少女達は気にもとめていなかった。
 一人でも人の視線を集めずにはいられない、ある意味悪目立ちな跡部であるというのに、さらにまとわりつく少女達が感高い声で騒いでいる。ますます注目の的となるのは当然の事であった。そしてそういう彼らに寄っていく連中が居るのも、また当然の事なのだろう。
「ねぇねぇ彼女タチ〜そんなガキ放っておいて、俺らと遊ぼーぜぇ?」
「お、こいつの制服。あの氷帝の生徒じゃん?―――ひゅう、えっれぇ美人♪」
 そこそこ整ってはいるが崩れた感じの男二人が跡部とそれにつきまとっている少女達のもとへと寄っていった。ナンパな口調で少女の肩に手をかけ声をかけている。 もう一人の男は牽制の為か跡部の顔を覗きこんだが、その相手が滅多にお目にかかれないような整った容姿とあって、大きく目を見張り、軽く口笛を吹いた。
「おい。男じゃしょーがねぇだろ。それよか氷帝っつったら、あの金持ち学校だったよな。――なあ、俺ら小遣いたんねーんだわ。ちっと貸してくれねぇ?」
 いつの間にやらナンパどころかカツアゲ予備軍まで寄ってきたらしい。 跡部の人を引き寄せる癖にも困ったものだと、溜息を吐きながら、手塚は傍観者の位置から当事者の位置へと移動した。
 そこで前述の会話に戻るわけである。何気なさを装い、今来た態で跡部に声をかけた手塚だったのだが、聡い跡部は手塚がしばらく見ていたのだとすぐに気づいた。 インサイト(眼力)を使った風でもないのに察しが早い。隠し事や騙し事をするには向かない相手である。
 さてここはどう始末をつけて早々にお引取り願おうか、と絡めまれているにしては全く焦りも動揺も感じていない手塚は冷静に対処法を考えていた。
 跡部も手塚も中学生にはとても見えない等身(態度と顔つきも大概だが)だ。スポーツ選手とはいえ格闘系ではないので、みるからにがっしりとした頑健な見てくれというわけではないけれど、二人共に腕っぷしの方もそれなりだ。手塚の方は祖父仕込みの柔道があるし、跡部の方も一通りの護身術は会得しているという。 ただ跡部の場合は喧嘩となると、実践主義のようで経験重視で対応しているようである。それもかなり強いようだ。
 だが、二人とも一見すれば細身で荒事には向かないように見える。特に跡部はその華やかな顔立ちも相まって、腕っぷし重視の奴に侮られる事も少なくないらしい。口だけ達者でよく回る小生意気なお坊っちゃん、と捉えるようである。人を見る目が無いにも程があると思う。
 ともあれ、力づくでも押し通す事はできる。相手が自分達より立派な体格の相手であろうと別に問題はない。 ただ、自分達はスポーツ選手であり、怪我の類が厳禁であるのと同時に一人の行動が多数に影響する事を身に染みてよく理解している。 喧嘩両成敗というものは厄介で、例え相手が悪かろうと巻き込まれただけであろうと、喧嘩沙汰に関わった場合は部全体・・・・下手すると学園全体で責任を取らねばならない場合があった。それを無視して思うがままに行動する事はできない。手塚も跡部も部長だった。生徒会長も経験した。己を殺してでも避けねばならない事があると知っている。
 一番無難なのは隙を見て逃げる(跡部は気にいらないかもしれないが)事である。根本的な解決にはならないが、これ以上の面倒事は引き起こされない。 話し合いで相手を引かせる選択は元より無かった。大体話を聞くような相手ではないだろうし、こんな奴等の説得などするだけ時間の無駄だ。
 そこまで考え、跡部の袖を引いて合図を送ろうとした手塚だったのだが、千客万来とでもいうのか妙に気の抜けた声に名を呼ばれた。
 
「あれぇ?跡部君と・・・・手塚君。奇遇だねぇ」
 にこにこと笑みを浮かべながら近づいてきたのは、山吹中の千石清純。何が楽しいのかいつ見ても微笑みを浮かべている感がある。実際楽しいのかもしれない。 彼にとっては毎日が刺激的で笑いを誘うのだろうか。少し羨ましい限りである。
「てめぇの利用駅はここじゃないだろ」
「オモシロ君に誘われて青学遊びに行く所だったんだ。何か滅多に見れない面白いもの見せてくれるって」
 跡部の言葉に千石がひらひらっと携帯電話を取り出してみせた。意外な繋がりに眉を潜める跡部だが、手塚にとっては事のカラクリは見えたようなものだった。 人好きのする千石であるので、テニスを離れても青学部員達は付き合いがあるようだ。居るだけで場を和ませる千石であるので、手塚を囲んでの集まりに呼んだのだろう。
 が、その計画は手塚がこうして出てきた事でポシャっている筈である。その為親切心をもって千石に伝えてやる事とした。 ――決してここで跡部と居た事を仲間達が知るのを阻止する為ではない。何れはばれるだろうが、それは先である方が良い――などとは少ししか思っていない。ほんの少しだ。
「――それは中止だ」
「手塚?」
「‥・・・・後で話す」
「わかった」
 不思議そうに目で問う跡部に「説明は後で」と視線でその意思を伝える。こういう時も跡部の察しの良さには本当に助かる。 下手に何故とかどうしてとかその場で聞く事はなく、こちらの意思を尊重してくれるからだ。そのかわり、誤魔化しの類が効かないという難点もあるが。
「ちぇー中止かぁ。せっかくここまで来たのに。あ〜そうだ!跡部君、これから遊ぼうよ」
「嫌だ」
「うわっ冷たっ!しかも即答!」
 いい事を思いついた!とばかりに千石が跡部に抱きつこうとしたが、あっさり振り払われその手は空を切る。 その様子は手馴れたもので、彼らの親しさ(跡部は否定するだろうが)が伺い知れるようであった。 少し羨ましいと思ったのは、常に人との間に壁を作ってしまう自分の厄介な性癖故だろうか。
てめぇら俺達を無視するな――っ!!!!
「ああ?!」
 再び発生した怒鳴り声に三人の注意がそれを発した人物へと向く。――完全に忘れていた。まぁそれだけ注意を払う相手ではないという事だ。
「柄の悪いお知り合いだねーさすがは跡部くん?」
「んだと?千石てめぇ、今何抜かしやがった?」
「わーぎぶぎぶ!冗談だって」
くそガキども!無視すんなっつってんだろーが!!!
「あら結構寂しがり屋さん」
「つるまんと何もできねぇ奴等はそんなもんだろ」
「集団寄生という奴か」
「それはちょー―ぉぉっと違うんじゃないかな。ってか意味不明」
「手塚の言葉そのまま真に受ける方が間抜けだぜ」
「あーそっかぁ。さすがは跡部くん」
「何故そこで感心する」
 ぼそりとこぼした手塚の言葉に突然タッグを組んだ千石と跡部の掛け合い的会話が続く。一人でも厄介だが二人組まれると更に厄介だった。 どうも自分の周りにはそういう人物が多い。
てめぇら
「まだ居たのか。ふむ。――千石」
 健気(?)にも俺達の間に割り込もうとした男が怒りに震えた声を放つ。その顔は真っ赤に興奮しており、血圧の高い奴だな、と手塚はある意味感心した。 ようやく男の存在を認識したかのような跡部はまじまじとそいつの顔を眺め――そいつはいきなり跡部の薄い色合いの真っ直ぐな視線を向けられて硬直した――次に呆気に取られたままの少女二人と男の連れをついでに眺め、そして最後に千石の方へと視線を戻した。
「え、なになに?」
「お前、いつだったか『女紹介しろ』と言っていたな?」
「い、言ったカモネー」
「・・・・・・・・・・・」
 突然始まった和やかとも言える会話に何となく聞き役に徹する。どうやら跡部が何かを画策しているようなので口を挟まない方が懸命だと感じたのだ。 何のかんのいってその気になりさえすれば、跡部の事態を収拾する能力は手塚を上回る事すらあるだろう。
「顔が引きつってるな?」
「跡部君の笑顔が眩いんデスー―」
 微妙カクカクした口調で答える千石。その前にはにこやかな微笑を浮かべた跡部の顔がある。見惚れる程に綺麗であるのだが――何処か不穏さを感じる表情だ。
「紹介してやる」
「へぇっ?」
「ここに居る 二人だ。―――嬉しいか?」
「微妙デスー」
 更に笑みを深めて言い切る跡部に実際千石はとても微妙な表情を浮かべた。笑ってはいる。微笑んではいる。なのだが目元も口元も引き攣っており、笑うしかない、といった表情であった。これは諦観の微笑みという奴だろうか?と完全傍観者に徹した手塚は分析していた。
「失礼な奴だな、お前」
「嫌、跡部君程に失礼な奴は居ないんじゃ‥・いやごにょごにょナンデモアリマセヌー」
「そうか(にっこり)」
 千石の反論をますます深みを増した跡部の微笑みが封じる。―――凄い。
 不二の笑みにも力というか威圧感を感じるが、跡部のそれは質を違えてはいるが、やはり大きな力を感じ取れた。 あの笑みがあれば大抵の事象は切り抜けていけるのではなかろうかと、跡部の真髄を見た気持ちになる。 跡部はこれでもか、とばかりに輝かしい笑顔にはそれ程の影響力があるように思えた。
「ここは任せたぞ」
「はい?」
「よし、行くか手塚。思いの他時間を取られた」
「そうだな」
 促す声に即座に頷く。反射的な行動であったが、それは間違いではないと本能的に察している。
「え、ちょっと待ってよ手塚君跡部くん。任せるって何?どゆ事?キヨスミ良くわかんない〜っ」
 慌てて泣き言を発する千石に跡部はそんな事もわからねぇのか?とばかりに冷たい一瞥を与えた。
「返事しただろ?」
「していたな」
「そっそれは言葉の趣旨がわかんなかったからの問い掛けだって!跡部くんはともかく手塚君までそりゃないっしょっ!?」
 縋るような視線を向けられても――困る。手塚としてはここはもう跡部に任せてしまったのだ。基本的に跡部の判断に異を発するつもりはない。
 そしてその跡部といえば、少しだけ態度を和らげ千石へと向き直っていた。
「お前になら任せられると思ったんだが、・・・・・・駄目なのか?」
「――――う」
「頼りにしてるぜ、千石
 甘く、耳元で囁くようにゆっくりと名を呼ぶ跡部。びしりと硬直した千石に、手塚は「――堕ちたな」と判断した。
 時間としてはほんの数秒。その程度の間であっただろう。その間にどれ程の葛藤が千石の内部で発生したかは知る由もない。 が、逡巡の後に覚悟を決めた千石の表情は奇妙な程に晴れ晴れとしていた。
「ぅーぁーー。は〜ぃぃぃ〜ーオマカセクダサイマセー―」
 へらっといつもの余裕の表情を取り戻し、宣誓とばかりに片手を上げる千石に跡部が満足気に笑う。 それは美味な餌を食して満腹となり御機嫌の猫のような表情で、それでいて相手に対して少し甘えるような信頼すら見て取れて、――そんな物を見せられてはもう降参するしかないだろう。しかも跡部はトドメとばかりに上機嫌で礼まで言ったのだ。
「ん。サンキュ」
「―――反則だよ跡部くん」
 がっくりと肩を落とした千石は、それでも「じゃ、またね〜」と手を振って二人を促してくれた。それを受けて跡部はそれはそれは綺麗な微笑みを返した。
 
 
 
「少し可哀想ではないか?」
「ああん?何が?」
「――千石の事だが」
「ぁぁ、あいつね。ま、あいつならうまくやんじゃねーの?俺らよりゃよほど要領いいだろ。ヤバくなったらさっさと逃げんだろーし。第一付いてこられたら煩ぇぜ?」
「それはそうか」
 哀れ千石。その一言で手塚にも見捨てられた。まぁそれを知っても「君達ってそうだよね」とあっさり諦めただろうが。
「ところで今日の要件というのは」
「あー誕生日の買物をな」
「・・・・・・高価なものはいらないぞ」
 跡部の言葉にやはり誕生日絡みか?思い起こしたが、その先に続く言葉は手塚の予測範囲外の事だった。
「買わねぇよ。忍足ごときに勿体ねぇ」
「忍足?」
 何故そこで忍足の名が出てくるのか。疑問である。が、跡部はそんな手塚の疑問を解消する為でもないだろうが、きちんと補足説明を添えてくれた。
「15日が奴の誕生日なんだよ。くそっ毎日毎日煩くてな。無視すっと延々て絡んできそうでよ」
「――そうか。それでなぜ俺に誘いを」
「あ?何故って」
「・・・・・・・・・・・」
 目は口程に物を言う。視線は百言を擁するよりも雄弁に語るという事で、跡部の視線が語らずとも答えていた。 すなわち跡部の視線の向いた先。それは手塚の顔の一部ともなっている眼鏡にあったのだ。
「―――眼鏡繋がりか」
「悪ぃかよ。んか、連想したんだよ」
「いや悪くない。こちらも助かったしな」
「?」
「後で話す。それより買う物は決めているのか?」
「いや」
「忍足の欲しがりそうなものは」
「知るかよ」
 即答。あまりにあっさり答える跡部に毒気が抜かれる。
 いや、必ずしも買うべき物が決まっている必要はないが、ある程度はあたりをつけていないと動きようがないというものではないか? それとも跡部は常からこうなのだろうか。金銭面では恵まれすぎとも言える程に裕福な跡部であるので、高いからとかいった理由で物を買う際頓着する必要もないわけであるし。
 だがそれでもここは一言文句を言っておくべきではないかと思った。ウィンドウショッピングというものはこれでかなり疲れるのだ。 母の買物に何度か付き合った際にその苦行は経験している。迷い迷って即決しないというのは跡部の印象からは程遠いが、あまり引き回されてはかなり疲れるだろう。
「跡部、お前な」
「そうは言うけどよ、てめぇだって仲間の欲しいもんわかんのか?」
「・・・・・・わからないな。全く、こういう時こそ乾でも居ると助かるんだが」
「あのデータマンか。そーいやあいつも眼鏡だったな」
「眼鏡にこだわるな」
 思い出したように告げる言葉に苦笑が浮かぶ。確かに自分もそうだし、忍足もそうだし、乾もまた眼鏡をかけている。
「そーいうわけじゃねぇけど。――で、お前なら何が欲しい?」
「俺が答えてどうする」
「参考にしてやんよ」
「・・・・・・・・・・・・」
 にやっと笑って俺様な口ぶりで言い放つ跡部に手塚は「本人にこそ聞け」とは思ったが口にはしなかった。 その理由が、少しばかり忍足の事を羨ましく思ったからというわけではないと、己の内に浮かんだ疑念を綺麗に黙殺した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
[ 2005.10.08 ]
 
(画像:音信普通 様)