その日。跡部がパーソナリティを勤めるラジオ番組に出演する予定である手塚国光は、重々しい表情にてシナリオを握り締めていた。
「どうしたよ、手塚」
「跡部か。この罰ゲームのくだりなのだが」
「アァ?最初から負ける算段かよ」
「そんなつもりはない。だが、常に先を見据え万全の態勢で望む事は必要だろう。跡部に遅れをとるつもりはないが、勝負事には万が一という事もある」
「・・・・無駄に自信に溢れてんよな、てめぇ。大体、『中学生』の知識だぜ?てめーに勝ち目があるわけねーだろうがっ!この勝負、貰ったぜ。はーっはっはっはっはっ!!」
腰に手を当て高らかに勝利を宣言する跡部に手塚が不快そうに「・・・・俺も中学三年生だ」と返すが、これが跡部相手でなくとも生憎と手塚のその台詞を全面的に肯定してくれる者は・・・・・・少ないかもしれない。
「―――とにかく、だ。お前も番組を預かる者ならば、修練しておくべきではないか?」
「はん。俺様に無駄な練習なんか必要ねぇよ。ド○ド○だろ?教科書にも載ってんだろーが」
「氷帝の教科書にも載っているのか?!」
「・・・・んだよ。その驚きようはよ」
「―――いや。あの榊先生がどのように生徒達に歌わせるのかと想像の範疇外なんだ」
「ま、気持ちはわからなくもねぇな。高級グランドピアノの華麗なる旋律で重々しく奏でてんぜ」
「・・・・・・・一度聴いてみたいものだ。しかし、それならば跡部もこの曲は知っているというわけか。ならば合わせてみないか?」
「何を好んでてめーとはもんなきゃいけねーんだよ」
「自信がないのか?」
「・・・・・・ち。安い挑発だな。いいぜ、聴かせてやる。俺様の美声に酔いな!」
そうして出番を控えた二人は、聴く者の耳をくすぐる華麗なる低音ヴォイスによるド○ド○を歌い始めた。
「・・・・・・・そこは半音下げるべきではないか?」
「ばーか。この牛を乗せる部位は少し上げた方がいいんだよ」
「いや。この売られてゆく子牛の悲哀を歌った物悲しくも切ない歌詞は重ねるように低く低く下げていくべきだ」
「子牛、ねぇ。知ってっか?この歌の由来にゃ、子牛どころじゃねぇ重苦しい裏の話があんだぜ」
「どういう事だ?」
「この歌を作ったと言われるのはな、ユダヤ人と言われている」
「ホロコーストか」
「ああ」
「ならば、なおさら軽い気持ちでなど歌えはしない。――跡部。共にこの歌にこめられた悲しき旋律を奏でようじゃないか」
「・・・・・・・・んでそういう話になんだよ」
真剣な表情で訴える手塚に半歩どころか一歩も二歩も引く跡部であったが、結局は手塚の勢いに押された。手塚と跡部の見事に息のあった二人により、低い低い歌声で哀しきド○ド○の旋律は、深夜のラジオから奏でられる事となったのであった。
(END)