■ dustbin ■
 
CLOSE / BACK
■ オンシーズン       (DATE:2006/03/16) 
 
 
 
「――ええ季節やなぁ・・」
「・・・・・・・・・・・・」
 部室内から外を眺め、どこかうっとりとした様子で呟く忍足に向ける跡部の視線は冷たかった。付き合ってられっか、という所らしい。
「おら、とっとと着替えやがれ」
「あいたぁ。蹴らんでもええやんか。ホンマ乱暴な王様やで」
「うるせぇ。トロクサしてなきゃな、俺様も優しくしてやってんだろ」
「・・・・・・・・された覚えあらへんけど」
「そりゃ、てめーが常に愚図愚図してっからだ」
「アイタタタタタ・・・・」
 げしげしと、窓に寄りかかったままの忍足の背を跡部が容赦なく蹴りつけうる――というより殆ど踏んでいるに等しいが――そんなある意味むごたらしいとも取れる光景だが、氷帝学園テニス部レギュラー陣にとってはいつもの事なので、止める者も居なければ同情を向ける者も居ない。
「でも、確かにいい季節だよね。桜が丁度身頃だし」
「なぁ、明日の練習午前で上がりだろ?午後から花見にいこーぜっ!」
「花見ぃ?んなダセー事すんのか?」
「宍戸さん、きっと綺麗ですよ。たまには息抜きしませんか?」
「かばじー、おべんとう作ってー」
「・・・・・・・・ウス」
「おい、てめぇら勝手に・・」
「跡部も行くやろ?部長さんやし」
「部長が何に関係あんだよ」
「騒ぎ起こさんよう、監督せなあかんし?」
「てめーがやれ」
「まぁまぁ。ね、俺、和菓子作っていくから、跡部は何か飲み物用意してよ。もちろんノンアルコールで」
「樺地のお手製弁当と滝の菓子やろ。あと、俺が適当に見繕ったるわ」
「―――俺は行くなんて言ってねぇだろーがっ!」
 あっという間に役割分担の話となっていく仲間達をよそに、日頃鍛えた部長としての威厳と声量をもって怒鳴りつける跡部であるが、生憎とこのメンバーに効く筈もなく。そして仲間達を自由にさせておく事を跡部が気にせずにいられるわけもなく。結局、跡部も参加するであろう事は間違いない事だった。
 
 そして明けて翌日。
 部の練習を切り上げた彼等は、近場ではあるが見事な桜が咲き誇る川べりへと移動する。それぞれが菓子やら飲み物やら持参し、皆楽しそうだった。
 土手にシートを引き、思い思いの位置へと座り、食料を並べていけばもう小さな宴会は始まる。そんな中、よく持ってきたな・・と誰もが呆れた荷を、忍足が大きなバッグから取り出した。簡易コンロである。
「まだちょぉ肌寒いしなぁ。宴会ちゅうたら鍋やろ?」
 ―と、嬉しげに取出したのは、切り分けられた野菜の袋と魚の缶詰。
「おい侑士、何だよ、それ・・・」
「『カレイの縁側』や。鍋に入れるとうまいんやで」
 いそいそと缶詰を鍋に開け、コラーゲンもたっぷりや・・と笑む忍足を跡部は何とも言えぬ表情で見つめていた。
「あとなーええもん、見つけたんや。な、見たことないやろ?レアもんのカレーやで!」
 ばばん!と、いやに『いい笑顔』で忍足が掲げたのはやはり缶詰で。それはパッケージからいって確かにカレーであると誰もが認識できるのだけれど。でかでかと書かれた商品名標を見た者は、皆揃って大いなるブーイングかつ悲鳴を上げた。
「―――忍足!てめぇっ!大概にしやがれ!」
「あいたぁぁ〜なんで殴んねん・・・」
「ったりめーだろーがっ!んだよ、これは。『サバカレー』に『ゴーヤカレー』の缶詰だぁ?食い物か?これはっ?!」
「缶詰やで。食い物に決まっとるやん」
「っざけんなっ!てめー一人で食いやがれっ!!」
 
 うららかな気候の春の日。
 桜香る清冽な空気の中で。
 
 今日も今日とて氷帝学園テニス部部長、跡部景吾の怒鳴り声が響き渡った。
 
 
(END)