■ dustbin ■
 
CLOSE / BACK
■ scheme       (DATE:2006/02/23) 
 
 
 
 どう調整してもスケジュールの都合が付かず、期待はしないながらも手塚に水を向けてみると、渋々ながらも了承してくれたので、叔母のエスコート役を任せた。
 古い鉄道を買い取った親族の一人が、車両を走らせ貸切状態による車内パーティをやるという事で、跡部に話が廻ってきたのだ。付き合いというものをそれなりにこなさねばならぬ育ちであるのと、エスコート役を頼んできた叔母には過去に世話となったという観点からも、断るにも断れない状態であったので、手塚の助けは実際有り難くあった。
 貸切状態という事もあって、例に漏れず馬鹿騒ぎとなるであろう事は想像に難くなく、また、供される食事が豪勢なものには間違いないが、手塚の好みからは大きくかけ離れているであろうし、帰ってくる頃には盛大に機嫌を下降させているであろう事もまた、予測の範囲内。
 予定より用事を手早く片付ける事ができたので、車内で殆ど食事もできないかもしれない。そんな手塚の為に好物のうな茶でも用意してやるか、と準備していた所、飛び込んできたニュース。
 列車は目的地に着く事はなく――中途で何台もの救急車両に囲まれる事となったようだ。
 すでに4名もの死者が確認されたとある。テロップで流れる名に手塚の名が無い事に安心を抱きながら(他者の不幸を望むわけではないけれど、跡部は聖人君子などではないのでやはり優先順位というものがある)、現場に駆けつけようとした所、電話が鳴った。
 しっかり元気そうな手塚の声に安心したとは億尾にも出さず、「面倒に巻き込まれているんじゃねーよ」と悪態をつきつつも、現在居る場所を確認し「すぐに迎えに行く」と伝えて電話を切った。
 住居の裏手に止めてある中古のクーパーに乗り込み(跡部の趣味ではないのだが、手塚との盛大とも地道とも取れる長い長い論争の上に獲得されたのがその車だ。
 自らの趣味はともかく小回りが効くのは事実であるのでそれなりに重宝している)手塚を向かえに行った先は、車両内でのパーティ料理を受け持っていた仕出屋だった。
 不幸な事故で無駄になった料理を抱え、店の方へ戻る際に同行したらしい。彼等の落ち度ではないけれど、パーティが凄惨な修羅場に変化したのは、中で供された高級キャビアによるもので、その中には多量の毒が混入していたらしい。誰が犯人かとはまだ知れぬ状態ながら、その影響が彼等に少なからぬダメージを与えるであろう事は、今の状況では致し方ない事であった。
 疲労の色も滲む手塚を連れ出して車に乗り込ませ、運転席には跡部がついた。
 どうやら店の中でも食事に困っていたようで、そんな事も予測していた跡部は、出掛けに急いで作った握り飯と熱い茶の入った魔法瓶を手塚に渡す。
「助かる」
「ったく、俺様が居なけりゃ飢え死にしてそうだな」
「そんな事はないが・・・・跡部の作る食事はどれも美味いから、放り出されたら困るかもしれないな」
「餌付けしているつもりもねーけど」
「そうか」
 少し気の緩んだ態で食べだした手塚を横目に見ながら、経緯をかいつまんで聞く。手塚の言葉足りぬ点は跡部の質問によって補足され、事件のあらましを掴んだ跡部は「なるほどね、」と納得顔で頷いた。
「相変わらず、察しが良いようだな。ところでどこへ向かっているんだ?」
「病院。入院患者の居る所」
「何故だ?」
「そこに犯人が居るだろうから、だな。ま、すでに退院しちまってるかもしれねーけど」
「どういう事だ?」
「簡単なこった。全く被害にあわなければ、後で疑いの目が向く。それを回避する為には自らも毒を盛られたという状況とするのが一番だ。基本的に被害者に疑いの目は向かねぇ」
「しかし、危険だろう」
「毒を盛った当人ならば、どの程度ならば無事に済むか一番わかってるだろ。ほんの少しだけ、毒入りキャビアをつまみ、現場においては盛大に苦しがってみせて、病院に担ぎ込まれて治療を受ける。もし検査で殆どどころか全く毒が検出されなかったとしても、ダイエット中で少ししかつままなかったとか、何とでも言い訳は立つ」
「―――そういう、事か。あの中に犯人が・・・・」
「絶対じゃねぇけどな。うまく入り込んだテロリストかもしれないし、もしかすると死んだ誰かによる大量無理心中かもしれない。だが、俺がこの事件を解決しようとした場合、一番に調べるのは病院だ」
「確かに、その話には納得できる。すまない。面倒に巻き込んだ」
「ばーか。もともとは俺の関わりだろ」
 神妙に頭を下げる手塚に、跡部はくくと笑い声を立てた。
 
 
 
 
 
Wパロ。 「消えた鱈」