■ dustbin ■
 
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■ 暗き波間に       (DATE:2006/02/21) 
 
 
 
 体を揺らす振動。
 緩やかに目覚めていく意識。
 馴染んだ温かみではなく、冷たい床敷きの板の感触に違和感を抱きつつ。
 
 ぱっと瞳を見開いた。
 闇の中で蠢く人影に完全覚醒した身体が飛び起きる。
 
「―――急げっ!」
「ア?」
 
 切羽詰った呼びかけは危難を告げる物であり、その切迫性を疑えるものではない。
 ぽっかりと開いた扉から、冷たい雨風が吹き付けてきた。
 
 潮を含んだ香りに「いつの間に海に?」と、記憶を掘り起こすも、全く身に覚えの無い事だった。
 跡部は基本的に疑問をうやむやにしておく事は好まない。けれどもこの場においては、思考に行動を脅かされるのは命を危険に近寄らせるに他ならない。身に覚えの無い突発的な危機も、そうと判断したからには瞬時に行動を起こすのが正しい。手を突いた床に置かれたリュックを引っつかみ、跡部は外へと飛び出した。
 視界を遮る叩きつけるような風雨。縦揺れとも横揺れとも判断のつけようのない荒れた海の上、足元まで雨だか海水だかに浸された船は、今にも沈みそうな程もろく感じた。そんな考えを肯定するかのように「沈むぞ!急げっ!」と命じる声に従い、跡部は波間に揺れる頼りないゴムボートの上に飛び乗った。
 
 その後の事は詳しく説明しろと言われても難しい。
 こちらを飲み込まんとする程の高波に揉まれながら、何度も叩きつける波を浴びせられながら、ボートに必死でしがみ付いた。
 視線の先でゆっくりと波間に消えていく、自分が乗っていた船らしき影が沈んでいく様を視界の端に捉えながら。
 
 海の上で聞こえてきたのは罵る声や、神に祈る声や、怒鳴りつけるような声。
 そしてそのどれもが恐怖と混乱に満ちていた。
 永遠とも思えるような嵐の夜が過ぎ、太陽がその身を現しだした頃、同じ境遇である哀れな被災者の姿も判別できるようになった。
 それぞれが、信じられないような面持ちで互いを見る。
 初めて見る顔ではない。むしろよく知りえている顔だ。
 何度か戦いを繰り広げたライバル達である。嵐の中で漏れ聞こえてきた声にもしやとは思ったが、それが正しいと知れても跡部には、いや他の誰にもこの不可解な現象の説明はつかなかった。
 
 幾層かのボートが海の上に浮かんでいる。
 その中に座り込んでいるのは―――
 
 テニスの大会で幾たびも顔をあわせてきたライバル達の姿であった。
 そして――跡部の隣で方向を見据えるように水平線に視線をこらしているのは――手塚国光。
 
 
 目覚めた時に聞こえたあの声はこいつだったと、今更ながらに確信した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Wパロ。 「7SEEDS」