■ dustbin ■
 
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■ 三つの願い       (DATE:2006/01/31) 
 
 
 
 雑踏の中を一人歩く。
 跡部が年の頃は未だ中学生の身であると、外観からは判断も付き難い為か、夜の帳の中においては、ましてや人の行きかう繁華街においては、一々擦れ違う者に格別な注意を払ったりはしない為か、見咎める者は居なかった。
「――跡部?」
 涼やかな呼び声に振向くと、見知った顔がそこにあった。
穏やかな風貌の中に油断ならざる本質を隠す、青春学園切っての食わせ者、不二周助の姿だ。跡部以上にこの場にそぐわない。
「夜遊びか?お堅い部長に叱られんぜ」
「違うよ。この先で姉さんが占いをやっててさ、陣中見舞いって所かな」
「ふぅん」
 気の無い風に相槌を打つ。青学の乾や立海の柳程ではないが、氷帝学園においても他校のめぼしいプレイヤーの情報は集めている。その中には多少の家族情報も含まれていて、不二の姉が占い師というのは変わり種の情報という事もあって、跡部の耳にも入っていた。が、それだからといって、興味を持つかはまた別の事である。
「そうだ。折角だから、跡部もどう?姉さんの占い、結構当たるんだよ。本当なら予約が必要な所だけど、僕が頼めば占ってくれるよ」
「―――――」
 煩ぇな。興味ねぇよ。――といつもの跡部であれば突っぱねる所だろう。だがこの時の跡部は、ついと視線を一瞬眇めただけで、不二に引かれるままに無言で付いていった。
「周助?そちらの方は?」
「やぁ、姉さん。そこで会った知り合い」
「――綺麗な子ね。悪魔ですら、見惚れちゃいそうなぐらい」
「跡部。跡部景吾って言うんだ」
「――――」
 どうも、とも何とも口にせず、跡部は軽く頭を下げて挨拶の代わりとした。馴染みの悪態も付かず、跡部としては大人しい態度である。
「それで?占って欲しいのかしら?」
「特には」
 素っ気なく返す跡部に、不二の姉は「そう」と静かに笑む。占い師という商売上、様々な人物と顔を会わせているのだろう。跡部の冷めた態度を前にしても、不快感すら感じていないようである。
「占いには興味が無い――そんな顔ね。なら、こういう物はどうかしら?」
 含むように笑んだ不二の姉が取り出したのは、気の弱い者ならば戦慄を覚えずにはいられない代物。薄明かりの下において、どす黒く干からびた手首の先は、禍々しくありながら、何故だか視線を引きつける。
「『栄光の手』って知っているかしら」
「呪具の一つだったか?」
「物知りね。そのものではないけれど、近しい効能を持つわ。限定付きだけど。聞きたい?」
「話したいんだろ?」
「そうね。話を聞いて貴方がどんな顔をするか興味はあるわね。これは、願いを叶えてくれるの。どのような願いでも、よ。力・頭脳・財力・容姿・・・・ありとあらゆる望みを」
「限定付きなんだろ」
「ええ。願いは三つだけ。それでも、大金を積んででもと人は望むでしょうね」
「そうかもな。そうして望む奴に与えりゃいいだろ」
「貴方に望みはないの?」
「無いとも言い切れないが、ま、一つで十分だな」
「無欲なのね」
「跡部は望めば何でも手に入る立場だよ」
「それでも人というものは欲深いものだわ。それで?あなたの望むそのひとつの願いは何?」
 じっと見つめてくる視線を跡部は億劫そうに見返した。どこまで茶番に付き合わせるのか、といった表情で。
「願い、ね。――俺様の願いは・・そのガラクタともども消滅しやがれ、だ」
「な?!」
 驚愕に見開いた瞳のまま、赤いルージュを引いた口が戦慄きながら、凍り付いていた。
 それは、僅かな間でしかなかっただろう。瞬きをするぐらいの、ほんの一瞬。
 サラリ、と溶け崩れる二人を跡部は表情も変えずに見据えていた。
 足元に名残が砂の山のように築かれても。
 それらが風にさらわれ消え失せた後も。
「はっ、本物かよ」
 嘲りも露に笑む跡部に後悔の様相は欠片も見受けられない。惜しい、と思う心すら抱いていないようだ。
「二つ、余っちまったじゃねーか。多過ぎなんじゃねぇの?」
 消え去る前に見つめてきたのは問う瞳。
 何故。
 そう問うていた。
「何故か?てめーらにゃ、人間の匂いがしなかったぜ。悪魔は心を読むのに長けていると聞くが、噂もあてにならねぇな」
 人の心ってのはそう単純じゃねぇ。
 跡部は他人事のように言い放つ。
 そのまま、振り向く事なく歩き去った。
 
 
 
 
 それから少し後。
 帰りがけ、跡部の袖を忍足が引く事があった。
「よぉ当たる占い師が居るんやて」
「ふん」
「興味あらへん?」
「てめー一人で行きゃいいだろ」
 どうでも良いとばかりに言い捨てる跡部に、忍足はやれやれといった態で肩を竦める。
「跡部は占って欲しい事ないん?」
「占い、ね。―――明日の天気でも、聞いとけよ」
「天気予報とちゃうやろ」
 跡部の返答に忍足は苦笑を浮かべるばかりであった。
 
 
 
「格好良い跡部同盟」様2周年祝のこっそり祝い産物。