■ dustbin ■
 
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■ 水の音       (DATE:2005/10/29) 
 
 
 
 
 
 跡部は水に似ていると思う。
 清冽で、時に凄烈で。穏やかに流れる河のごとくもあれば全てを飲み込む濁流たる事もある。魂すらいてつかせるような冷ややかさをもつかと思えば、乾きを癒す甘露の滴である時もあって。
 光を反射し、揺らめく深い蒼。
 だがその実は色などついていない。
 
「んだよ?」
「飽きないな、と思って」
「・・・・・・・・・・」
 下から覗き込むようにしてそんな事を言われ、跡部の秀麗な眉が僅かに跳ねた。これが忍足あたりの発言ならば、問答無用で拳が見舞われる所だが相手は滝萩之介。含みがあるのか・・・ないのやら。
 柔らかな表情と甘い口調は大抵の相手を陥落してしまう程なのだが、滝を知る跡部としては見掛けの表情に騙される事はない。滝が数少ない懐深くまで入り込んだ友人である事は間違いないけれど。
「美人は三日で飽きるってよく聞くけど、あれ嘘だよねー。俺、跡部の顔に飽きた事ないしさ」
「忍足の病気が移ったか?」
「失礼な事言うねぇ」
「――悪ぃ」
「年期が違うよ。あいつとはさ。何年の付き合いだと思ってるの?」
「――萩之介、俺で遊ぶな」
「そんなつもりはないけどねー」
「だったら凝視するのを止めろ。集中できねぇ」
「衆目監視に馴れてる癖に?」
「それとこれとは別だ」
 
 跡部の手元には開かれた一冊の本。新たな頁は先程から綴られていない。
 
「潤い、補給してたんだけどなー」
「喉乾いてんのか?」
「うーん、少し?」
「おらよ」
 滝の言葉に跡部は鞄を探るとペットボトルを取り出した。うなるようなサーブを繰り出すその腕を軽くしならせボトルを放る。滝はくるくると回るそれを両手で受け止めた。
「ありがと」
「返さなくていいぜ」
「うん」
 ぷしゅりと音を立てて蓋を開け、滝はこくこくと水を飲み、咽を潤した。
「――ぬる」
「ったりめーだ。鞄に入れてあったんだからな。文句言うなら返せ」
「返さなくていいって言ったじゃないか。せっかくの跡部からのプレゼント、大事にするよ?」
「バーカ」
「本気なんだけどね。あ、これってもしかして誕生日プレゼント?」
「んなわけねぇだろ」
「そう?俺は嬉しいけどね。テニス部の後輩がこんな風に貰ったら、有り難がって押し抱くだろーねー。そういえば知ってた?跡部の捨てたリストバンドとかって競争率高いんだよねー」
「気色悪ぃ事抜かすな」
「ふふ」
 
 その後、向日や日吉が「準備ができた」と呼びに来た為、二人きりの(跡部が一方的に遊ばれたように感じる)会話は終わった。
 
 滝の手の中でちゃぷちゃぷと歩くたびに水の音がなる。目の前を歩く綺麗にぴんと張り詰めた背がこれ程近いのに、とても遠い。
(跡部は、行くんだろうね)
 川の流れを見送るように、 滝は静かに跡部の未来へと思いを馳せた。
 
 
 
 
滝はぴば。