■ 国光君の恋人 (DATE:2005/10/21)
がしゃんっ!と何かを転がすような音に、また近所の猫でも入りこんだかと秀麗な眉を潜めたのは、青春学園中等部第3学年元テニス部部長手塚国光だ。
季節は秋の深まりを感じ、冬の到来を肌に触れる空気の冷たさに感じる頃合である。
「――てぇなっ!離せよっ!」
「?」
先程音のした方向から人の声が聞こえる。不審者でも入り込んだか?と警戒する一方で、何処か聞き覚えのある声と口調に手塚はガラリと窓を開けた。
「――っ!?」
瞬間飛び込んできた物体に思わず身を引く。煽られて転ぶような無様な真似はしない。手塚の優れた胴体視力は飛び込んできた物体が一般的には『猫』と呼ばれる生き物で、その口許に何かをくわえている所まで見て取った。
普通に考えれば小鳥か鼠か、または虫の類いである。確認しようと目をこらした手塚は、視覚が認識したものに対し脳が冷静に判断した事と体が反射的に動いた事の矛盾点を味わう事となった。
猫が咥えていたのは小さな人形のようで、ちょっと見にもとても精巧な造りのように見える。
小さな手足が暴れて動いて――動く?新種のアイボのようなものだろうか?(しばし逡巡)――いて、その外観は大変良く見知ったライバルの姿形によく似ていて・・・・・・と、ここまで思考が到達した時点で手塚は猫の頭をはたいていた。
もちろん動物虐待の気など微塵も欠片も鼻息で吹き飛びような鼻毛程にも持ち得ていない手塚であるのでその威力は十分に加減されたものであった。が、猫の方にしてみれば突然の暴行にびっくり仰天し、咥えていた人形を落とし、弾かれたように開いた窓から飛びだした。
「――ぁ」
「てて」
「・・・・・・」
逃げた猫に手を延ばし、それが無駄な事だと知り、次いで手塚は猫の落とし物の方へと目を向ける。動いたと思った人形は間違いではなく、放り落とされた衝撃か億劫そうに身動ぎしている。
その見目形はやはりよく見知った、とてもよく見知った人物の姿形に酷似しており、そんな馬鹿な事があるわけがない、とどこまでも現実主義な手塚の優秀な頭脳はそう判断したのだが・・・・取った行動はといえば微妙震える声で呼び掛けるという事だった。
「―――跡部?」
「よぉ、手塚ぁ」
「お、お前?」
「ったく猫のヤロウ、好き勝手移動しやがって、こっちの言う事聞きやしねぇ。どこだぁ?ここは?――てぇ、手塚の奴がいるんだから手塚の家って事かよ。っかし面白みのねぇ部屋だな。さすがは手塚ってか?クソ真面目を絵に描いたようだぜ。ん?さっきから黙りこんでんなぁ。何とか言ったらどうなんだ?あーん?」
何ともかんとも。
うんともすんとも。
言えるわけがなかろう!!と頭を抱えこみたい心境の手塚であった。
何しろ目の前に居るのは疑いようにないほどにかの人物に酷似していて、その口を挟む事のできない立て板に水式の声を外に出した独白語りも顕在でこれはもうどう見ても、どうあっても、ひとつ前の季節に今後長らく語り継がれる事となる屈指の名勝負を繰り広げた氷帝テニス部元部長跡部景吾に他ならないわけである。
そしてさらにはミニチュア版。
スモールサイズ。
これはもうマニア垂涎のフィギアではあるまいか、などと余計な事を考える手塚の脳は逃避しかけていたのかもしれない。
とにかく床に転がっている人形は手塚の知る跡部にとてもよく似ている。跡部そのままとも言って良い。
・・・・規格外だが。ありえない事だが。これは白昼夢か恐らく何かの間違いだ、と軽いパニック中の手塚の前で、いついかなる場においても帝王然とした余裕を崩さぬ跡部は一糸まとわぬあられもない姿で白い裸身を惜しみなく晒し、手塚を見上げている。
そんな跡部を見て手塚に少しだけ冷静さが戻った。(外観上は全く変化がないが)
「――跡部」
「んだよ?」
「・・・・・・風邪をひくぞ」
「てめっ!開口一番それかよ!そう思うなら何かよこしゃいいだろ?」
「それもそうだな。すまない」
言われて初めてその事に気づいた手塚は跡部の要望に答えるべく、せめて体に引っ掛けるものをとなるべく柔らかそうな生地のハンカチを取り出した。
Wパロ.「南君の恋人」