■ 授業参観 (DATE:2005/10/14)
授業も中盤に差し掛かる頃、ガラリと扉が勢い良く開く。
荒い息を吐き、額を濡らす汗をぐいと拭いながら、乱れたその様すら芸術的なその人物は、お茶の間を沸かす有名人の一人である。
ざわりと空気がさざめいた。その人物が入ってきた瞬間、教室の空気が様変わりしたのだった。
王者の風格を身に纏い、まっすぐな目をして前を見る青年に母親達の溜息が漏れる。恐らく彼女達はこれら数日の間、自分の伴侶を見るたびに別の意味で溜息をつくだろう。
スポーツ選手として名を馳せる跡部景吾はその類稀な容姿と独特の性格(キャラクター)により、好悪が分かれるが概ね絶大な人気を有していると言える。一部の熱狂的なファンなどはパパラッチさながらであると聞く。その毒舌と洗練された物腰と、またどんな場でも物怖じしない堂々たる様はスクリーンを通すと更に圧倒的であり、テニス界を引退した後は芸能界が手薬煉引いて待っていると評判であった。が、生まれと育ちもスーパー級の跡部であるので、実の所は政界の方も色気を見せている。
そして跡部家そのものが景吾を未だ跡取りとして定めてもいる。そんな彼は今はまだ油がノリに乗った現役選手であるので、将来の選択など周囲に匂わせる事はなかった。
「景吾。授業の邪魔になったぞ」
「すまねぇ。間に合わねぇかと思って慌てちまった」
「それ程急いで来る事もなかろう」
「ああ?大事な子供の参観日、来ねぇわけないだろ?」
「しかしお前は今日は公式試合があった筈だが」
「そーだよ。てめぇと違ってクジ運悪いったらねぇ」
「まさか棄権してきたのか?」
「んな無様な真似、するわけねぇだろ。ちゃんと勝利を収めてきたぜ。3−0のストレート勝ちだ。至上稀に見る拙速勝負だな」
「さすがだな」
「はっ!俺様の敵じゃねぇって事さ」
「それで会場からそのまま来たのか?」
「そーだよ。シャワー浴びてる間もねぇ。服だけ着替えてバイクでかっとんできた」
「自分の身をもう少し大事にしろ。こんな所で怪我でもされたら子供達がどれ程悲しむか」
「俺様は事故なんざおかさねぇよ。そーいうものだ」
「ふむ。そういうものか」
「えーと。その、・・・・手塚君のお父さん・・?」
「「何だ?」」
父と呼ばれて二人の声がはもる。―――母と呼ばれても、同様ではあるのだが・・・・この場合は一応互いに幾ばくかの逡巡が見える。
「――ご家庭内の会話はもう少しお静かに・・・・」
「了解した。申し訳ない」
「はっすまねぇな!大人しくしてやるぜ!」
「・・・・・・・・」
二者ニ様の回答を受け、担任は黒板に向かい深い深い溜息を吐いた。勿論、この後通常ならば三者面談である所双子であるが故に四者面談かと少し不安を感じていた所に迫力満点天下無敵のもう一人物が加わって五者面談となるであろう事にこの上ない不安を抱くのだった。
某所様のお題より。