【携帯電話的恋言葉】 10のお題
 
 
 
 
 
 
 秋が過ぎ、冬が過ぎ、春の訪れ。
 月日はゆるゆると流れていく。
 そして、最後の夏が・・・・・・・・・・・・間近に迫っていた。
 
 
 
 あれから何度、手塚と顔を合わせただろうか。何度言葉を交わしただろうか。
 手塚は常に変わらない。素っ気無く、無愛想。腹が立つ程にマイペースな男だ。
 こちらの挑発には乗らない。興味も示さない。いつもストイックに、己の進むべき道しか見つめていない。それはつまり、手塚の求めるラインに辿りついている者が居ないという事なのだろう。
 やはりな、と思いつつも胸に沸く苛立ち。手塚にとって、所詮は取るに足りない存在であったと思い知らされるばかりで。
 全く気づく素振りもない手塚の態度に、構えていた分安堵したり・・・・・・落胆したり。結局振り回されているのはこちらの方なのだ。
 
 
「跡部君てさぁ、手塚君に執着してるよねぇ」
 笑いながらそんな指摘をしてきた奴を、射殺さんばかりに睨みつけてやったが、それで堪えるような可愛げがあるわけもなくて。怖い怖いと脅える真似で、却ってそうではないのだと態度でわかる。
 
 
「ええ加減、諦めたらどうなんや?」
 呆れた風に肩を竦め、靡かぬ相手に迫った所で所詮は無駄だと諭してくるお節介人。相手が悪いと、構うだけ無駄やと、余計な口を挟んでくる奴だが、それでも多分本心の部位ではこちらを確かに気遣っているのだろう。
 
 
「砂地に水をぶちまけてるだけじゃないのか?」
 そんな無駄な事に時間を使うより、もっと有意義な事をすればいい・・・・・・と、完全に本気の目で切り捨ててくるのは、現状において不自由な生活を余儀なくされている奴で。もともとが何故だか辛口を通り越す程に評価が低い為、思わずこちらがフォローを入れたくなる程に、あいつの事をボロクソに扱き下ろしてくれる。
 
 
 あぁ、そうだな。
 否定しても仕方がない。認めるしかないだろう。
 拘っているのは自分の方だ。囚われているのは自分の方なのだ。
 あの細い繋がりが、途切れる事を恐れて自ら断ち切ったのだ。
 
 楽しかった。
 浮かれていた。
 だが――――
 
 試合会場で向けられた見知らぬ者を、まるで風景の一部でも見るかのような視線に冷水を浴びせられた。近しいと思った関係など、ただの幻影であると思い知らされただけの事ではあるが。そう。ただそれだけの事が―――――驚く程に衝撃を抱く事だった。
 負けず嫌いが仇というのか。見切りをつけるのが早いだけなのか。どうせ終わるのならば自ら引導を渡してしまえば良い―――自覚は無かったが、今振り返ってみれば、あの時の心境はそんなものだったのだろう。
 ジローに対しても、実のところ怒りよりも感謝を抱いていたのかもしれない。踏ん切りをつけるきっかけをくれた事に。
 
「―――ったくよ。何つー女々しさだ」
 
 くっと自嘲が口元に浮かぶ。
 まるで初恋に脅える少女のようではないか。
 この、跡部景吾たる者が。
 
 あれから一度も、手塚から電話がかかってきた事はない。
 あれから一度も、手塚からメールが届いた事はない。
 
 必要最低限の会話のみ、仕方なさそうに交わすだけで。
 煽るように挑発しても、溜息のみが得られる反応で。
 
 好い加減、忘れてしまえば良い。あの時間は、あの日々は、無かったものなのだと。
 この先の関係も、結局変わる事はないのだ。いや、テニスに関してのみは・・・・・・多少は変化するだろうが。今年こそは戦える。そして、勝つ。
 
 
「・・・・・・・・ま、それだけの事だよな」
 
 パチリと音を立てて液晶画面を閉じる。すぐに返信が必要なメールは無かった。充電器にセットし、今日はもう寝るかと決めたところで隅に置かれた小さな箱が目に入る。
 何となく、何となくで放りこみ、それから一度も開いていない。日常的に、その存在すら忘れている事も少なくない。
 
 壊れた携帯電話など――――何の役にも立たない代物だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
(09.忘れたくないから /保護)
 
[ 2007/07/07 ]
 
 
 
 
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