【携帯電話的恋言葉】 10のお題
 
 
 
 
 
 
「―――あ」
 
 やばい・・・・と思う前に手の中の物体はボチャリと音を立てて水中へと落ちていった。
 
「あとべーっ!ごめん〜っ!!」
「・・・・・・・・・」
 
 しょぼくれた犬が耳を垂らして反省している。基本的に自分がジローに甘いと思うのはこういう時だ。大抵の事は怒りを覚える前に霧散してしまう。
 携帯電話の一つぐらい、壊れたからといって大きな問題はない。それ一つが連絡手段というわけではなく、跡部は常に複数の携帯電話を持ち歩いている。
 
「ったく、落ち着きねぇ奴だな」
「壊れちゃった?」
「だろうな。次、同じ事しやがったらタダじゃおかねぇ。わかったな?」
「反省してるC〜」
 
 両手を合わせて謝ってくる姿に苦笑しか沸かない。どうせここできつく言ったところで、また同じ事を繰り返すのは解りきった事だった。
 けれども、そんな風に変わらぬジローという存在に救われている部位も多くあるのだ。
 
「おら。反省する気があるなら、グラウンド20周走ってこい。途中で寝るんじゃねぇぞ」
「え〜っ!!俺、死んじゃうC〜」
「―――行け」
「は〜い」
 
 じろりと睨みつけると、素直に外へと走りに行ったが多分数周だろうと、予測ができる。そこらの植え込みで寝ている様が目に見えるようだった。
 後で樺地に回収に行かせるか・・などと考えながら、水中に没した携帯電話を取り出す。シャツの裾で水気を拭き取り、電源を入れてみるがやはりうんとも寸とも言わない。
 
「ま、困る事は・・・・・・・・・・・・・・・・あったか」
 
 思い出したのは、受話器越しに聞こえる・・・・無愛想な口調。手塚との連絡手段はこれのみだった。
 手段が全くないというわけではない。いかにもでベタな手塚のメールアドレスは覚えている。電話番号も然り、だ。こちらから連絡をして、以前の番号は使えなくなったと伝えれば良い。
「・・・・・・・・なんだがな」
 
 くるくると壊れた携帯電話を手の中で弄びながら、どうしようかと思案する。
 偶然により、関わりを持った相手。その繋がりは細い糸だった。跡部の気紛れで、いつでも切れておかしくない細い糸。それは、手塚にも言える事ではあったが。
 
 友人――――とまで言い切れる間柄ではない。
 分類するならば、自分はアドバイザーといった所か・・と思っている。そして、ある程度学習した手塚なので・・・・そろそろ突き放していい頃でもあった。
 頻繁に、迷惑な程にかかってくるわけではない。むしろ、頻度はそう高くはないだろう。
 
 そろそろ潮時ではないだろうか。距離を取るべきだと――――実の所、思っていた。
 手塚という存在を、疎ましく思っているわけではない。そうではなくて・・・・・・互いの立場が問題なのだ。
 
 最初は偶然かと思った。そう珍しい名でもないし、同じ苗字の奴など幾らでもいるだろうと。それに、常に周囲を拒絶するかのような空気を纏っている青春学園の手塚国光という男が、あの電話の向こうに居る惚けた男と同一人物とは思えなかったという事もある。いくらなんでもそんな偶然はないだろう・・との思いもあった。けれども、何となく気になって・・・・その日の夜に折りよく電話がかかってきた事もあって、つい聞いてしまったのだ。
 
「―――そういや、てめぇ、下の名前何てぇんだ?」
『国光だ。手塚国光という』
「・・・・・・・・そうかよ」
 
 電話とメールだけとはいえ、知り合ってから数ヶ月は立とうというのに、互いに下の名も知らぬ関係だった。
 
『跡部は何というんだ?』
「―――そのうち、教えてやんよ」
 
 何となく言葉を濁してしまい、結局いまだに教えていない。手塚はまだ、気づいていないだろう。同じ名だとしても、気にせず疑問も抱かないかもしれない。会話こそしていないが、何度か顔を合わせた事はある。けれども、手塚の視線の中に自分に対する興味など、全く見て取れなかった。もしかすると、話しかけても気づかないかもしれない。そんな気すらしてくる。
 
 
 
「――――使えないんだから・・・・仕方ねぇな」
 
 ちくりと疼いた胸の奥の感情には気づかなかった事とする。
 
 壊れた携帯電話はそのまま廃棄処分とする事にし――――――
 
 
 
 契約を解約した。
 
 
 
 
(05.過去にさよなら /消去)
 
[ 2007/05/20 ]
 
 
 
 
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