【携帯電話的恋言葉】 10のお題
 
 
 
 
 
 
 数回コールの後に流れ出る音声。無機質なその声音を聞くのは何度目だろうか。
 せめて、本人の声でメッセージが吹き込まれていたのなら、これほどまでに落胆はしなかっただろうが。
 都合が悪いのだろうと、己に言い聞かせるのも3度までで。繰り返し聞かされる留守録案内に、もしや避けられているのだろうかとすら思ってしまう。
 自分よりも余程社交的で、言葉遣いは乱暴ながらも面倒見の良さは隠しようのないもので、恐らくは後輩に慕われ、仲間に信頼され、上級生達の信も厚い。跡部はそんな人物なのだろうと、手塚は思っていた。
 物珍しさが過ぎてしまえば、面倒に思えてきたのかもしれない。どこで失態してしまったのか、思い起こす事はできないけれど、知らず相手を怒らせてしまう事が今までにもあった。それで得た手酷い失敗の記憶もいまだ新しい。
 心許せる友人であると、思えてきた跡部。だがやはりそれは独りよがりだったのかもしれない。たかだか3日の音信不通。けれどもその3日間はとても長く感じられた。
 
 翌日、気鬱な気分のままに携帯電話を手の中で弄んでいると、手塚の様子を心配したらしい大石が寄ってきた。
 
「手塚、気がかりな事があるのかい?」
「・・・・・・・・そう見えるか?」
「そうだね」
 
 問いかけに問いかけで返すと、否定はなく肯定が返ってきた。見るからに様子が変だという事なのだろう。
 足らぬ言葉から、誤解されることも多かった。仲違いまではいかぬまでも、人に距離を取られる事は少なくなくて、それでもそんな事に心を痛める事など今までなかったというのに。
 たった一人に振り回されている。しかも、顔を合わせた事もない相手だ。会話こそ、受話器ごしに何度か交わし、メールも何往復かを繰り返し、手塚の携帯電話の履歴の一番多くを占めている相手ではあるけれど、お互いを取り巻く環境について詳しく話した事はどちらもない。
 学校での様子、部の様子、一般的な事は会話してきたけれど、そういえばテニスをやっている事すら話していない事に今更気づく。
 自分にとってテニスこそが至上のものではあるけれど、相手の興味もそうであるとはいえない。会話の端々から感じられる頭の回転の良さからいって、跡部は文科系の人種かもしれない。線の細い人物か、厳つい容姿の人物か、それすらも知らぬ現状ではあるが、何となくどこに居ても人目を引かずにはいられないような、美麗な人物ではないかと思えた。
 
「―――連絡が取れない状況というのは、避けられているのだろうか」
「それってどれぐらいの日数なんだい?」
「3日程か」
「微妙かな。何か相手を怒らせてしまうような心当たりは?」
「生憎だがない」
「そうか。もう数日、待ってみたらどうかな。ずっと通話中なのかい?」
「いや。留守番電話サービスになっている」
「だったら、相手が忙しい可能性の方が大きいんじゃないかな。連絡して欲しくないなら、着信拒否するだろうしね」
「着信拒否?そんな事が出来るのか?」
「設定次第だけどね。そうされていないのならば、待ってみれば良いと思うよ」
「・・・・・・・・・そうか」
 
 大石の言葉にほっと息をつく。
 そうして考えてみれば、無機質に思えた留守番電話サービスの声すら心優しく思えてくるから不思議なものだ。
 
 それから4日。跡部の声を聞く事はかなわなかった。
 ようやく電話が繋がり、酷く懐かしく聞こえる声を耳にした時には、胸が高鳴る程の喜びを感じた。
 まるで恋焦がれた相手に会えたかのようだと、後から思えば自分の反応がおかしくて仕方がなかったものだ。
 事情を聞けば海外に出ていたということだった。「何度か連絡くれたみたいだな」と、すまなそうに聞いてくる跡部に、「――数回だ」と答えはしたものの、それが照れ隠しでしかない事はお互いわかっている。そこでからかうような真似をしてくれなかった跡部に、深く感謝した。
 ただし、「次は出立前に連絡を貰えないだろうか」などと、恨み言のようなものが口をついてしまったのは、待たされ過ぎたせいなのだろうか。
「――わかったよ」と答える跡部の声が、満更でもないような風に聞こえたのも、そう願う心の現われだったのだろうか。
 数日間の空白は、何かの心の変化を生み出しつつあるようだった。
 
 
 
 
(04.聞けなかった声 /留守番電話サービス)
 
[ 2007/05/01 ]
 
 
 
 
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