【携帯電話的恋言葉】 10のお題
 
 
 
 
 
 
 授業の合間の休み時間、ふと思いついて携帯電話を覗きこむ。
 未だ操作に慣れているといった状態ではないので、この短い時間の間にメールを作成する事はかなわない。それに、あまり他人に見せたい光景でもない。真剣な表情で針の穴に糸でも通すかのように慎重に打つその様は・・・・できれば見ないで欲しい姿だからだ。
 受信BOXには部内の連絡メールに紛れて、実は一番それが多いメールが存在する。
 Re:と頭につくタイトルは、こちらが出したメールに対してそのまま返信されたものだ。一度、「手抜きではないか?」と、文句という程ではないが意見を言った事があるのだが、「ばーか、拗ねてんのか?」と軽く返されてしまった。そんなつもりは全くなかったのだが・・・・そう聞こえてしまったのだろうか。
 確かに自分は一文字一文字きちんと打っているのに・・・・という気持ちがなかったわけでもない。だが、「楽をする事も覚えるもんだぜ?」と言われてしまえば納得する他はない。
 手を抜くのが正しいのかというわけではなく、肩の力を抜けと跡部は言いたかったのだろう。自分が堅苦しい性格をしているという事は、今更誰に指摘されるでもなくわかっている事であるので、こうして教えられて自分が変化していく事を多少気恥ずかしくはあるが、嬉しく思う。
 近頃はあたりが柔らかくなったと言われる事も少なくなく、本当に偶然であったが跡部と出会えた事は僥倖だった。つくづくそう思う。
 
「楽しそうだね」
「大石」
 振向くと、穏やかな笑みを浮かべた大石の姿があった。
「楽しそうか?」
「手塚、笑っていたよ」
「・・・・・・そうなのか」
 全く自覚はなかったので、頬をぱしりと叩く。あまり表情変化のない・・よく言えばポーカフェイス、悪く言えばただ表情に乏しいだけなのだが、傍目にわかる程に楽しそうな顔をしていたのかと思うと、顔に血が上りそうになった。
「手塚も照れるんだな」
「・・・・別に照れてはいない」
「はは、ゴメン、ゴメン。ガールフレンドからのメールでも見てたのかい?」
「そんな相手はいない」
「手塚はもてるのにな。さっきも手塚宛ての手紙を預かったんだけど」
 そう言って懐から3通程の手紙を差し出してきた大石に、あからさまに嫌そうな表情をになってしまう。
「そこまで嫌な顔する事ないと思うんだけどな」
「・・・・テニス以外に向ける時間などない。第一、大石を経由して手紙を寄越してくるという行為事体が信じられないんだが」
「手塚には妙に威圧感があるからね。直接渡すのは怖いんじゃないかな?」
「怖い相手と付き合いたいというのか」
「いや、まぁそれは・・・・いろいろ複雑なんだよ。女の子達もさ。だけど羨ましいよ、俺としては」
「俺としては大石の方が羨ましい」
「―――手塚って何気に失礼だよね」
 正直な思いを口にしたところ、口を挟んできた人物の声にしまったと思う。こういう話題で寄ってこない筈はなかったというのに、全く迂闊だ。
「いや、不二。俺は気にしてないから」
「そう言って甘やかしているとデリカシー不足のままだよ。それで、手塚はどうしてそれ隠すの?」
「・・・・・・・・・・」
 見えないようにそっと携帯電話を閉じてしまい込もうとしたのだが、目聡い不二はしっかり見ていて見過ごしてはくれなかった。本当に油断がならない。
「いやだな。覗いてみようとか、ネタにしようかなんて思ってないよ?」
「・・・・・・・・・・」
 嘘をつけ、と言いたいのだが言えない。一を言えばニどころか、十にも二十にもなって返してくる相手だ。こんな所で恐ろしいカウンター返しを食らいたくはなかった。
 
 
 
 
「―――とにかく、恐ろしい奴なんだ」
『・・・・・・くく。そりゃ、てめぇが不器用なだけだろ。もっと上手く交わせるようになれよ』
 昼間にあった事を報告すると、受話器越しに堪えたような笑い声と共に、諭すような口調で忠告された。ただからかうのではなく、心配してくれているのがわかるので、反発心など浮かばないし、少しばかり癒された気分になる。
「努力は、している」
『努力ねぇ。ま、ズタボロになるぐれぇ滅多打ちを食らい続けた方が早いと思うぜ?耐性がつくからな。脳内シュミレーションを幾らやっても無駄だ。実践に敵うものはねぇ』
「なるほど。確かに、跡部に教わった事は多い。・・・・・・気は向かないが・・・・明日からは覚悟を決めて立ち向かう事にしよう」
『せいぜい頑張れよ。慰めるぐらいはしてやんぜ』
「本当か?」
『あぁ?嘘言ってどうするってんだ。愚痴でも何でも聞いてやるよ』
 少し呆れた風ではあったが、その声には信頼に値する気遣いが感じられる。弱音を吐くという事をしたことは殆どないが・・ただ愚痴を聞いて貰うだけの事が、どれだけ楽になる事なのか初めて知った。
「よろしく頼む」
『はいよ。じゃぁ、おやすみ』
「――――」
 ぷつっと切れた通話。もうあの耳障りの良い声は聞こえてこない。
 不思議に寂しく思いながら、携帯電話を脇に寄せた。
 
 
 
 
(03.続いた会話が嬉しくて /Re(返信)の数)
 
[ 2007/04/21 ]
 
 
 
 
<< B A C K