【携帯電話的恋言葉】 10のお題
 
 
 
 
 
 
 ああ、そういや切ったままだった・・・・と、鞄の奥に突っ込んでおいた携帯電話の存在を思い出したのは、シャワーを浴びてさっぱりとして部屋に戻ってきた時だった。
 スポーツ飲料で喉を潤し、一息ついたところで電源を入れる。その途端、狙い済ましたかのようにコール音が鳴り響く。
 液晶画面に表示される番号は記憶にあるものではない。普段ならば無視するところなのだが、この時ばかりはたまたま気が向き、取る気になった。
 
「――――はい」
『・・・・・・・・・・・・』
 
 ちっ。無言電話かよ、と腹立たしい気分で即座に切ろうかと思った時に、その寸前で受話器から声が漏れ聞こえてきた。
 
「・・・・・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・誰だ?』
 
 不審気なその声音は、まるでこちらが不審者とばかりなもので。間違い電話をしてきたのはてめーだろうが!そう怒鳴りつけたい気分もないでもない。だが、戸惑いを含んだ声音は落ち着いたもので、無愛想そうではあるが不躾な類とも思えない。少し低めの声は声変わりをして間もないように聞こえる。自分と同年代か、一つ二つ上といったところだろう。
 
「人に名前を聞く前に、自分が名乗るもんじゃねぇの?」
『得体の知れない相手に名乗るのは無用心だろう』
「おいおい。そりゃこっちの台詞だぜ?間違い電話かけてきておいて、そりゃないんじゃねぇ?」
『そうか、かけた相手と違う相手が出たのはそういう事になるのか』
「・・・・・・・・・・」
 こいつは一体何者だろうと、首を傾げる。普通、知らない相手が出ればかけた番号が間違いだと気づくだろう。まぁ、持ち主が何らかの奇禍に会い、他人の手に携帯が渡ったという事もあるかもしれないが、それはレアケースだ。
「何番にかけたつもりだ?」
『わからない』
「は?」
『メモをしていないんだ。後でかけろと相手に登録された』
「ああ、そういうわけね」
 つまりはその登録した当人が内間違いをしたという事なのだろう。
『今、確認する』
「って、待て」
『問題があるのか?』
「一応聞くが、どうやって確認するつもりだ」
 多分聞くまでもないだろうとは思ったが一応確認する。これまでの会話だけでも判別できるのだが、相手は間違いなく天然だ。
『通話を切って、番号を呼び出す』
「・・・・それで?」
 やっぱりな、と思いつつ先を促せば、相手は予測通り「かけ直す」と言い切った。
 軽い眩暈を覚えながら、「2度手間だろ」と言ってやれば、「聞いたのはお前だろう」と責められて。こいつ、もしかして受話器の向こうで拗ねているかもしれないと思えば、声を立てて笑い出したくなった。
「メモでもあるなら確認しようと思ったんだよ。呼び出すまでもねぇだろ。そっちにゃ、俺様のコールナンバーが登録されてるんだから」
『ああ、そういえば・・・・そうなのか』
「そうなんだよ」
 何処までも生真面目なこの相手との会話が結構楽しい。頭は良さそうなのだが、天然ボケ。周囲には居ないタイプだ。
 こんな偶然も、たまにはいいかもしれねぇな、などと思えた。
 
 
 
 
 
(01.君と始める物語 /電源ON)
 
[ 2007/04/01 ]
 
 
 
 
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