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手が届かない10のお題 01.蜃気楼 ネット越しに見える鮮やかな影 逆光を背負い、見目形の判別の付かない姿であるというのに それでもなお眩い光彩を放つかのような鮮烈な存在 ぽたり、ぽたりと汗が伝う じっとりと滲み出た汗が肌を伝う 雫となって地面に吸い込まれていく 汗で滲む視界の先にゆらゆらと立つ姿 拳でぐいと汗を拭いさると、まるで蜃気楼が如くその姿は消えていく いや、そもそも存在などしなかった 蜃気楼が如く、この場に存在などしない 今この居る筈がない 手を伸ばせども、届きはしないのだ 02.白昼夢 息を吐く 数回繰り返すうちに、荒い息が治まっていく 無理は禁物だと理解してはいる 実戦から遠ざかった感覚を少しでも取り戻すべく 急かされるように体が動く ふと、何かが触れた感覚 肘の上に、肩の上に、白い手が滑るように動いた 力が込められているわけではない 慰撫するかのように撫でていく ゆっくりと視線を動かす 日本人離れした優美な姿が微笑んでいる 「―――跡部」 囁くような呟きに、その姿はかき消える 手を伸ばした先にあるのは己の腕のみ 感触すら確かに残っている気がするというのに けれどもそれは、現のものではなく、白日の夢 小さく息を吐き、休息を取る為に座り込んだ 03.輪廻 夢を見た 差し出した手が届かぬ夢を 延ばされた手が力をなく落ちていく様を 浮かぶ微笑に叫ぶ声すら忘れた 触れ合えぬ手が永遠の別れであると理解するしかなかった 全てを受け入れた静かな表情 受け入れる事など・・・・できるものか 目覚めた瞬間体は冷えきり、全ての血が凍ったかのようで 「―――縁起でもない」 己に吐き捨てる 体は冷えきっているのに喉はカラカラだった あまり調子の良くないエアコンがぶぅんと音を立てる そのまま寝入ってしまったのか 冷えきっているのは自分だけではなく、部屋そのもの 夢は願望の現れと聞いた事がある 冗談ではない 誰が望みなどするものか いやにリアルに現実感のあり過ぎた夢 それは過去の追体験であったのかもしれない 繋がる輪は断ち切られる事なく再び合間見えたのだろうか いや それは救いかもしれないが、同じ過ちなど繰返しはしない 一人取り残されるなど真っ平だ 無理矢理にでも追いかける 離しはしない 届かぬ手でも、掴み取る 04.霞 「氷帝!氷帝!!」 叫ぶ声に飲みまれていく 圧倒的な集団に霞がかった影 単体であり集合体 個々として切り離して見ることのできぬ存在 氷帝学園の跡部景吾 氷帝といえば跡部 跡部といえば氷帝 それはほぼ同意語だった 手を延ばしても掴み取れるとは思えぬ存在 いやそもそも延ばそうという気すらなかったが 興味など持ちえぬ人物の筈だった だが何故だかいつも視界の隅でその姿を追っていた いや存在そのものが悪目立ちする跡部の事だ 意識せずとも視界に写ってしまう ただそれだけの事だろう 「対極で両極。それでいて近しい君とあの子 いつか、すごい試合をする事になりそうだ」 そんな予言めいた言葉がひっかかっていただけだろう だから 本気で向き合わなければ、手が届く筈もなかったのだ 05.自我 掴めると思ったんだ 確かな何かを きっかけは自分の言葉ではなかった だが言葉はゆっくりと自分の中に溶け落ちていった だからこれは自分の意思だ 自分の言葉だ それでもどこまでも全てが完全に自分のものであるかというと そうは言い切れないものがある 経験の差というか確かに煽られた面をもったからだ だから、お前と戦い合い、ここをねじ伏せる事ができれば―――と すまない 勝手な物言いだ 俺はまた、間違ったのだろうか 激痛に肩を抑え蹲る俺の前に立つお前 ここまで非情に追い詰めてきた相手だとは到底思えなかった 誰よりも生き生きと眩しい程の光彩を放つお前の笑みが消えていた 間違えたのだと、その時悟った 06.逃げ水 ゆらゆらと揺れる 掴もうとしても掴まえられない この狂おうような乾きを癒すのはお前だけだ お前という存在を浴びるように飲み込んだ時 カラカラに乾いた神経までが潤うだろう 見えているのに掴まえられない 手を延ばしても掴めない ゆらゆらと逃げて行く 熱射に追われるように歩を進める 眩暈すら引き起こす猛暑の中で光る水たまり 近づけばその分だけ逃げていく まるでお前のようだ 07.ノイズ 紛れる音 耳障りな雑音の中で埋もれていった真実 心ない噂が多すぎて それが事実だと思い込んでいた 取るに取らぬ存在であると、意識の端にもかからなかった お前の試合を初めて間近に見た時に受けた衝撃 その時全ての雑音が消えた 周囲を取り囲むように喚きたてる氷帝コールも聞こえなくなった コートに立っていたのはお前だけだった 縦横無尽に駆け、放つ 世の中にこれ程楽しいものはないとでもいうかのような笑み 惹き付けられぬ筈がない 知らず掴んでいたフェンス 指摘されるまで自分の行動に気づかなかった 伸ばした手を阻む柵 お前の視線の先に立ちたいと、思ったんだ 08.夢現な幻 朝目覚めるたびにここは何処だろうと思う 見慣れぬ部屋の天井 だが、条件反射のように眼鏡を掴みかけてみれば 見回した部屋はすでに馴染んだ仮住まいで 夢の中と現実とが不思議な程に曖昧となる 目覚める前までは確かにお前が居た筈なのに 触れればその感触すら確かな物と思えた筈なのに ほんの一瞬でそれは現から消え去った 目を閉じ、ゆっくりと開く ほんの一瞬だけ、お前が見えたような気がした 09.犠牲 お前は責任に潰されたと思うだろうか 冷静な判断を欠いたが為の不様な様だと 過信が引き起こした代償であり、犠牲 引き時を見極めきれなかった愚か者なのは確かだな 意地で将来を犠牲にするのかと、幾人かに叱責もされた あの時お前は、どんな思いで持ってこの手を掲げたのか 勝ちを得たのはお前 全てを引き絞って戦いあった この先誰がどのようにあの試合を評価しようとも 自分達がわかっていればそれで良い 違うだろうか 馬鹿な奴だと呆れる一方でお前は真剣に対峙してくれた お前にはこの肩の限界が見えていたな だがお前は加減無しで向き合ってくれた 感謝している 本当だ 掲げた手が下ろされ、離れていくあの時 引き止めて、掴みたかった 上がらぬ肩が、あれほどもどかしかった事はない 10.境界線 何度か連絡を取ろうとした この地に来る前にも、着いた後にも 液晶画面にその名を呼び出す けれどもコールはできなかった 手紙を出そうかとも思った けれども一行たりとも書き出す文字が浮かんでこない 直接の言葉を交わす事も叶わず 文字をしたため意思を伝える事も叶わず 一体自分は何をしているのかと思う 友として何かの言葉が欲しいのか ライバルとして発奮する挑発を受けたいのか どれも違うように思えた 何か別の境界線を踏み出そうとしている それが何かは思いつかないのだが 声を聞いたら通話を断ち切ってしまうだろう 書面で残すには文としてあまりにまとまりがない 一度は書き上げた 恐ろしく長い文面と厚みになってしまったが 持ち歩きはしたもののポストに手を延ばす事はできなかった だからこうして送る事にした 見た先でけしてくれて構わない 今、こうせずにはいられないんだ お前には迷惑な事かもしれないが いつか顔を合わせた時に謝罪させてくれ
パタンと音を立てて携帯を閉じる。ここ数日、毎日計ったように決まった時間となると届くメール。
送信者の几帳面さを表すようでもあるが、その内容といえば曖昧にて意味不明。いやそれだけ混乱の中に居るという事だろうか。 それも仕方のない事かもしれない。割り切れるものではないだろう。昇華しきるものではないだろう。感情は理屈ではないのだから。 着信メールが10通目と重なった時、跡部は他者に話を持ち掛ける事にした。 「――よぉ」 「僕もそう暇じゃないんだけどね」 迷惑そうな口調ながら、まとう空気は柔らかい。軽い皮肉は挨拶の一環で、言葉程に面倒そうとは思っていないという事だ。それでも一応言葉通りに受けとったように見せる跡部は、不二に対して幾分下手な態度で応じる。頼む側としての礼儀だろう。 「そう言ってくれるなよ。そんなに時間は取らせねぇ」 実際それほど切羽詰った内容というわけでもない。電話で済ませる事もできたが、直接目の前で話をした方が相手の反応がつかみやすい。声のトーンだけで推察するのはそれなりに骨が折れるのだ。 不二の方が何故跡部の求めに応じたのかはわからないが、おおよそ好奇心が刺激されたという所か。手塚の肩の件を踏まえた上でも、不二は跡部に対して今まで通りの態度で接してくる。それは、好意に満ち溢れたものでなければ、敵愾心に満ちたものでもない。 「まぁいいか。青学に現れるっていう爆弾行為は控えてくれたみたいだし」 「合わせる顔がねぇだろ?」 「くす、君がそういうのを気にするとも思えないけどね。むしろ僕らの為だろう?」 鋭いな、と思いながらも表面的にはそれを悟らせない。 氷帝メンバーであれば問題ない。跡部の一喝があれば、跡部の制止があれば、彼らは必ず止まる。例えば跡部が目の前でナイフで刺されたとしても、跡部が動くなと言えば動かない。それが自分達の絆だ。 けれども青学の連中は、ここぞという所でこらえがきかない。今までは運良く問題を流してきたようだが、もし悪意ある者が陥れようとすれば、それは造作ない事だろう。 跡部が安易に顔を出せば、事この時期だとしても、殴りかかるなり何なりかして喧嘩を振っかけてくる奴がいるだろう。その直情さ、一本気さこそが、青学が勝ち進んできた原動力かもしれないが、危ういとしか言いようがない。所詮は他校の事。そこまで気遣う必要などないというものだが、乱闘騒ぎで出場停止権利を得る片棒を担ぐつもりはないのが正直な気持ちだ。 「さてな。ま、青学部長さんは好かれてるよな」 「君程じゃないけどね。それで?」 軽口に返される軽口。にこにこと楽しそうにしながら、その目が探るようにこちらを検分しているのがわかる。そういう勘の良さも、頭の良さも嫌いではない。色々と厄介な奴だとは思うが、そういう歯応えが良いと言えば良い。扱いが要注意な奴の相手は微妙な緊張感を孕むが、そこが楽しいと言えば楽しいとも言えるのだ。 「・・・・その、人気者の部長さんの件」 「やっぱりね。君が動くとすれば手塚絡む事ぐらいだと思った」 納得した風な物言いに少しばかりひっかかる。まるで自分が手塚にのみ執着しているかのようではないか。確かにそう評される事は少なくないが、跡部本人としてはこだわる相手は手塚に限らない。まぁ、手塚に対しての言動は、自分でも少しばかり直接的かもしれねぇな、とは思わないでもないが。しかしここでそれを認める気はない。妙な風に遊ばれるのは氷帝内で経験済だからだ。 「おいおい人聞きの悪い事抜かすんじゃねぇよ。それより、あいつって筆マメだったか?」 「どういう意味?」 軽く目を見張る不二の反応は、跡部の言葉が予測外のものだったからだろう。だが、跡部の今日の本題はこれだ。手塚の日常を知る者に聞く事で、現状の把握と今後の対応を考えるつもりだった。 「どうもこうもそのままだがな。生真面目で几帳面な奴だろうとは踏んでいたが」 「正解」 「ついでに前時代級の馬鹿がつくくらいの頑固者」 「それも正解」 「あとは脳内完結してんのか面倒なのかそれとも単に気が回らないかで筆無精の薄情者」 「全部正解。さすがは跡部だね。手塚の事をよくわかってる」 本気で感心している風な物言いに、それほどの事じゃねぇだろ、と言い返したくもなる。感情表現の薄い奴ではあるが、少し観察すればその程度の性質は見て取れる。あとは、良くも悪くも手塚の名は知れているわけで、どこまでが本物かどうかの見極めは聞く側で判断する事となるが、噂話には事欠かない。 「何がさすがだかわからねぇが、その程度見りゃわかんだろ。しかし‥・・だよなぁ」 「繋がりが全く思いつかないんだけどね。結局、どういう事?」 「いやちょっとした確認。その分だと向こうからの連絡も素っ気ないものなんだろ?」 「まあ手塚だからね。『油断せずに行こう』、それだけ」 「うわひでぇ。散々考えた末でそれなのか単なる思い付きなのか問い質してぇところだな」 さすがにそりゃねぇだろ、と不二の冗談かと思いもしたが、どうやら本気の話のようだ。仮にも部長不在のテニス部を率い、立派に勝ち進んだ仲間達に対して随分素っ気無いにも程がある。もう少し何とか――いや、やはりそれが手塚なのだろう。 「帰ってきたら聞いてみるよ。・・・・跡部?」 微妙に複雑そうな跡部の表情に、不二が気遣わしそうな視線を向けてくる。変に気を使わせてしまったらしい。跡部は早々に手持ちのカードを見せる事にした。 「いやだからよ。その無精者からメールが届くんだよな」 「―――へぇ」 「毎日」 「それは、それは」 「これってやっぱ嫌がらせか恨み言だよな?」 取り合えず跡部が導き出せた答えはそんな所だった。泣き言ならば、仲間内では最も親しいらしい大石あたりに送るだろうし、相談事ならそもそも論外だ。大体手塚との関係からして、親密とは到底言い難いわけで、跡部に連絡してくる理由など混乱の末でしかありえない。 「そういうせせこましい点があるとは思っていなかったけどね。まあ余程煮詰まっているのかもしれないけど。それで止めさせようと?」 「いや。どうせ奴の事だからてめぇらには弱みを見せようとしないんだろ?フォローしてやった方がいいんじゃねぇか?」 「親切だね」 「ふざけろよ。んなところで潰れてくれちゃ、俺様の方が困るんだよ」 「手塚の肩潰したくせに」 「それとこれとは別だ」 「まあ別だね」 自分が言った癖にあっさりその言葉を翻す不二は、もともと跡部に非難の意を向けるつもりはなかったのだろう。それは、最初から敵意の類を向けられなかった事でわかってはいた事だが。薄情だとか、手塚に対して何やら含みがあるとか、そういった理由からではなく、不二は恐らくあの試合を評価したのだろう。 「これがうちの部員だったら直に面見に行って、それなりの対処するところだがなぁ。他校の奴にそこまで世話やく気はねぇぜ?」 何か期待されているようなので、言葉に出される前に先手をうった。幾らなんでも此処で跡部が九州まで出向いて手塚の様子を見てくるというのはないだろう。それだけの行動力も、そしてそれを後押しする財力にも事欠かないわけではあるが、だからといって実際行動に移すかといえばまた別の話だ。不二に話を持ってきただけでも破格の扱いと言って良い。 「跡部は本当面倒見が良いよね。そのメールって見せて貰っていい?」 「まあいいんじゃねぇ?意味不明なところが多いがな。手塚相手でなけりゃ、詩人に目覚めたかというところだぜ?」 格別見られて困るような内容でもなかったので、無造作に不二へと携帯を差し出す。ピッピと不二の操作する電子音が妙に耳をついた。 「ふぅん。これって、確かに嫌がらせといえばある意味嫌がらせかな。迷惑だしね。だけど手塚がねぇ。そっか。ふふ面白くなってきたかな」 「おい一人で自己完結してんじゃねぇよ」 「ああごめん。だけど、気付かない?」 「何がだよ」 「あはは。跡部って存外鈍いよね。忍足にでも聞くといいんじゃない?」 「忍足ぃ?」 何故ここであの阿呆の名が出てくる?とばかりの声を上げる跡部に、不二が妙に居心地の悪い視線を向けてくる。ここで敢えて忍足の名を出したのは、それなりに意味があるという事だろう。そう考えて思考をめぐらしていくと・・・・引き出される答えは・・・・一つしかない。 「――って色ボケかよ?!」 「あ、気付いたんだ」 「だってよ、手塚だろ?!」 「ねぇ。まあ、でもこういうのってさ、理屈じゃないしね。手塚だって一応青春真っ盛りの健全な青少年なわけだし?時期はずれの青い春が訪れてもおかしくはないんじゃないかな?」 「うぁ激しく似合わねぇ。っかし、あの手塚が色恋沙汰ねぇ。今世紀最大級の見せ物だな。――って相手俺かよ?!」 思わず自分で突っ込んでしまう跡部は、それなりに動揺していたのかもしれない。 「跡部ってもしかしなくても相当鈍い?」 感心したような不二の言葉は、はっきり言って不名誉といって良い。「存外」から「相当」へとレベルアップしている。 「鈍かねぇよ。相手が手塚ってのが問題外なだけだ。しかし。何やってやがんだ?あいつはよ。んな場合じゃねぇだろうが」 「所かまわず腫れ物構わず好いた惚れたは時場所知らずってね」 「あ〜頭痛ぇ」 跡部はがしがしと頭を描掻く。こんな事なら不二に相談などせず、不可解メールと割り切り眺めて放置する方が良かったではないか。 「それでどうするの?」 「どうするって?」 「手塚のラブコールへの対応」 「どうもこうもねぇだろ。今まで通り無視するさ」 「今までって、もしかして返事出してないの?」 意外さの中に責めるような響きを感じ、多少気まずく思いながらも訂正する。最初から正しい答えを導き出していれば、また違った対応もしただろう。――いや、やはり下手に反応しない方がここは正解かもしれない。 「あの内容にどう返信しろってんだよ。着信拒否にしなかっただけでも感謝しやがれ」 「と、僕にいわれてもね。大体一言以上のメールを受けた事のない僕らからすればものすごく希少なんだけど。乾が居たら間違いなく保護かけて保存するだろうね」 「転送してやろうか?」 「してくれるの?」 「するわきゃねぇだろ」 「残念。乾がさぞかし喜んだろうにね」 「喜ばせてぇのか?」 「いや、全然」 「――そうかよ」 何かこいつの相手疲れるな、と自分の周囲の奴等も癖のある奴等ばかりだが、上には上が居るもんだと思う。まぁ、何しろ天才様だ。反応が斜め方向からというのもある意味当然か。こいつ相手じゃ、手塚の奴も相当苦労しているだろうな、と微妙に同情心が沸いてくる。どう考えても手の平で転がされているようにしか思えない。 「ま、大石あたりが知ったら胃痛どころか吐血しかねないしね」 「日頃の手塚の扱いが知れようってもんだな」 「手塚だからね。だけどあの手塚だからこそ、余程の思いの丈を送ってきているんじゃないかな」 突然話を戻されて、立て直すのに一瞬の時を要した。不二は手塚の味方という立ち位置を選んだという事だろうか。いや、友人としてならば、こういった時にはむしろ冷静になれと諌めるべきではないだろうか。 「・・・・今の奴は普通の状態じゃねぇ。混乱してんだろうよ。下手につつかねぇ方が正解だ」 「消極的対応だね」 「熱くなった奴は冷ますに限るだろ。肩を直して戻ってくるころにゃ熱も下がって気の迷いを後悔する事になるだろうぜ」 「それはどうかな」 含みを持たされた言葉に何やら脅しをかけられているような気がする。跡部は手塚の日常は知らない。実はかなり惚れっぽく、熱し易く冷め易いとかいうのならば楽だったのにな、という淡い期待を抱いていたのだが、どうも不二の反応を見る限りその線は可能性が低そうだ。 「――そういう事にしておけ」 「ああ、願望なのか。それじゃ戻ってきても熱冷めやらず、だったらどうする?」 「そん時はそん時だ」 「出たとこ勝負?」 「真摯に話は聞こう」 「あはは。あくまで言明を避けるね。何だか手塚が帰ってくるのが待ち遠しくなってきたよ」 「―――」 おい今までは待ってなかったのかよ、そう突っ込もうとして止めておく。不二相手では仕方ない。そう思う方が良さそうだった。 [ date 2007/01/21] |