【死の章】3のお題
 
 
 
 
 
 
 拾い上げた子猫は、すぐに今の環境に慣れた。
 跡部の指示が徹底している為、リョーマの耳におかしな噂話が入る事もない。
 どう見ても義務教育中の子供が、学校にも行かずに跡部の家で過ごしている件、不思議に思っているであろうがそれを聞いてくる者も居ない。また、坊ちゃんの気紛れか・・・・程度には考えているかもしれないが。 開いた時間を使い、私設のテニスコートで打ち合っている様を見ているので、テニス絡みで引張ってきた・・・・それだけで理由になると思っているのかもしれない。
 自分が学校へ行っている間に遊ばせておくつもりもないので、家庭教師を手配した。逃げるだろう事は想定内なので、その手の事には容赦なく、また体力的にも充分対抗できる人物を手配した。まぁその・・・・自分も世話になった人であるので、逃げ切れるわけが無いと確信している。
 一応、帰宅してからその日に習った事を復唱させるのを日課とした。特殊な事情とはいえ、預かりものだ。リョーマがどう思っているかは別として、跡部としてはしっかり面倒を見るつもりではある。大体、アイツに貸しを作る機会など、そうそうあるものでもないだろう。
 例え、今はその存在すらも忘れているにしても。
 
 跡部なりに、今の状況を調べている。人一人の存在が忘れられるなど、尋常な事ではない。壮大なドッキリだとしたら質の悪い話だが、冗談事に乗りそうもない輩まで同じ反応を示すのだから、これはもう何かが働いているとしか思えない。
 この数日を使って、青春学園の何人かに接触を図った。さり気なく会話に紛らせて探ったが、誰であっても反応は同じ事で・・・・かなり親しくしていた様子の桃城ですら、全く記憶にとどめていないようだった。確か、竜崎先生の孫娘だかが越前に気のあるように見えたな・・・・と、ついでと思い声をかけたが、一緒に居たツインテールの小煩い女同様、『越前リョーマ』などという存在は見た事も聞いた事もない、そんな反応が返ってくるだけだった。
 強引に押し切って、テニス部の方へと押しかけて名簿に目を通した。すぐに取り上げられたが、目当てのものを見つける事はできた。そこに、リョーマの名は記載されていた。
 
 使用されていない下駄箱。無人の席。使用者のいないロッカー。
 誰もがそこに違和感を覚えていない。誰も、何も感じていないのだ。
 
 ある程度の結論が出るまで、リョーマに話をするつもりはなかった。小生意気で可愛げのないガキだが、不安に感じていないわけがない。跡部が帰ってくると、ほっとした表情を浮かべる。無意識の内に跡部の姿を探している事も、自分では気づいていないだろう。自分の存在を確かなものとしてくれるたった一人の存在に、縋らぬわけがない。自分が同じ状況に陥ったとしても、不安に思う事は間違いないからだ。
 しかしおかしなものだと思う。本来ならば、この役目は手塚こそ行うべきではないか?何を呑気にあっさり忘れて、人に押し付けていやがんだか。何れ、たっぷり返して貰うさ・・・と、思えば労苦も何という事はない。それに、だ。自分としても、あのクソガキの事は結構気に入っているのだ。
 
 越前家と、青春学園と。それから、報道関係に手を廻して幾つかの資料を集めた。
 正直なところ、自分を疑う面もあったのだ。自分1人が知る存在など、それこそ本物なのかと考えるのも当然の事だろう。
 鮮やか過ぎる記憶。これが作られたものだとは到底思えないが、自分を疑う・・・・まずはそこから始めようと思ったのだ。
 
 集めた資料の中には、記録映像や写真もあった。その中には確かに越前の姿が映されていて。
 憂慮する点の一つは消えたというわけだ。
 
 だが・・・・・・・・
 
 安心させる材料だった筈のこれが、厄介な代物となっていく。
 越前に見せて安心させてやろうと思いもした。お前は確かに存在していると、目に見える証拠を見せてやろうとも思っていたのだ。
 けれども、今これを見せる事は逆に不安材料となるだけだった。
 
 確かに写っていた姿が消えていく。
 まるでそこだけ抜け落ちたかのように、ぽっかりと空間の空いた写真。こんなものを見せれるわけがなかった。
 
 
 
 越前リョーマという存在が消えていく。
 消されていく。
 
 
「・・・・・・・・・・・ふざけるなよ」
 
 笑い合う青春学園の奴等の写真。越前の姿だけがぽっかりと消えている。
 跡部はそれをぐしゃりと握り潰すと、丸めてゴミ箱へと放った。
 
 
 
 
 
 
(曖昧になっていく いつか君が生きた証)
 
 
 
 
 
 
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