秋の陽射し
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 頬に触れる空気が熱気を喪い、涼しさを感じるようになってきた季節。
 窓の外に見える光景も褐色へと変化していた。
 青々とした緑が色褪せていく様は、季節の移り変わりを感じさせると共にどこか物悲しさを思い起こさせる。
 人寂しく思うのは、こんな時だ。かつてのように、部員達を率いて前だけを真っ直ぐ見ていた頃は、そんな考えを持つ事もなかったというのに。
 気晴らしに、宍戸や忍足あたりに声をかけて何処かに行くのも良いのかもしれない。
 慈郎とゆっくり何をするでもなく時を過ごすのも良いのかもしれない。
 どちらの選択も、跡部が誘えば断られはしないだろう。けれどもそのどちらも選びはしなかった。
 
 会いたいと、思った顔があった。
 聞きたいと、思う声があった。
 あの静謐な空気に、触れたくなったのだ。
 
 授業終了のチャイムと共に、跡部は鞄を持って教室を出た。その背に、近頃の鬱屈を感じ取っていたらしい宍戸が「遊ばねぇ?」と声をかけてきたが、「用事がある。またな」と、手を振り背を向ければ、宍戸はそのまま見送った。背後で見ている視線に心配気な空気を感じはしたが、敢えて振向く事はしなかった。
 
 
 
 校門前で人待ち顔で待っていれば、顔見知りの数名が声をかけてくる。ほぼ全員が、跡部が誰に会いに来たかなど疑う事すらしないようで。それも間違いではないので否定する事もなかったが。
 呼んでこようか?と、人の良い笑顔で河村に問われたが、跡部はゆるりと首を横に振った。
 急用というわけではない。ただの思いつきだ。無理矢理引張ってこさせるのも迷惑だろうと思う。幸いにして、詰まった用事もない事であるし、気長に待つ気分になっていた。こんな風に待たされるのも悪くない・・・・そう思えたのだ。
 変われば変わるものだな、と自分の変化が少しばかりおかしくも思えるが、これも相手が手塚だからこそだろう。他の誰に対しても、こうして時間を潰す事を望む自分とも思えなかった。よくよく指摘される事ではあるが、手塚は特別なのだ。自分にとって。その特別に何らかの意味を持たせようとする奴も居るけれど、そこのあたりは理解できない。そもそも、男同士でどうこうなるとでも、そいつも本気で思っているわけではないだろう。所詮は遊びのネタにされているだけだ。
 ただ、同じような話題でネタにされているらしい手塚が、不思議とそれで怒ったところを見た事がない。あの生真面目な手塚がだ。ただ単に、青学という環境において慣れざるを得なかったのかもしれない。幾人かの顔を思い浮かべるだけでも、随分手こずっただろうなと思う。まぁ、手塚辺りからすれば氷帝も似たりよったりだというところなのかもしれないが。
 しばらく雑談を交わしていた相手も、一人、また一人と帰っていく。跡部を一人残していく事を気にしてくれたが、「心配ない」と手を振れば、未だ心を残すようだが帰る事にしたようだった。ただし、去り際に「――あと30分待っても来ないようだったら携帯に連絡した方が良いよ」などと忠告を残してくれたが。
 青春学園とは様々な因縁があったものだが、今となってはそれも間にあった壁を突き崩す素因となったような気がする。時折、彼等に氷帝の仲間達の影を見るような気がする。
 お人良しの集まりであるのか、面倒見が良いのか、それとも跡部を危なっかしいとでも思っているのだろうか。最後の一つに関しては納得し難いところであるが、普段の仲間達の扱いを省みるに否定しきれないところもあるのは認めるしかない。何かの面において、自分は確かに危なっかしいのだろう。
 
 結局、その後40分程待った。
 物思いに耽っていたらしい手塚は、目の前を気づかず通り過ぎるかと見えたが、真横を3歩程進んだところでぴたりと止まり、振り返った。
 
「―――跡部?」
「よぉ」
 驚いた顔が小気味良い。そんな顔が見れただけでも、待った甲斐があるというもの。
「どうかしたのか?」
「いや。秋だからな」
「・・・・・・確かに秋だが」
 
 夏が過ぎ、冬の訪れる前の季節であるから秋である。何を当たり前の事を言っているとばかりの視線に、自分でも意味のない言葉だと思うので肩を竦めた。
「この俺様も少しはセンチな気分になるらしい。人寂しく思ったんで、てめぇに会いに来た」
 くすりと笑いを含ませながら冗談のように言うと、手塚がぐらりと眩暈でも起こしたかのように、いきなりしゃがみこむ。慌てて駆け寄るが、手塚は蹲ったまま立ち上がろうとはしなかった。
 
「お、おい。どうしたんだよ」
「・・・・・・・・・・・か」
「は?」
「・・・・・・俺を・・・・殺す気か・・・・・・」
「はぁ?」
 
 疲れ果てたような手塚の呟きに、どう答えて良いのかまったくわからない。
 ただわかっているのは、もう人寂しさなど感じていないという事だけだった。
 
 柔らかく差し込む秋の陽差しが、二人の影を重ねていた。
 
 
 
 
 
 
 
 2007.05.01
 
 
 
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