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迷宮の中心 |
果断即決と、跡部の表面を見る者は感心と感嘆の目で見てくる。
何故そこまで自信に満ち溢れていられるのかと。
単なる思い上がりではない事は、跡部のこれまでの実績が物語っている。
才に溢れ、権と財に恵まれ、容姿も大層優れている跡部は無敵であると、羨望の眼差しが送られる。そんな跡部であるのだから、迷う必要もないのだろうと。
悩みなどというものは、皆無なのだろうと、羨ましい存在だとの声が聞こえてくる。
人というものは、見たい面しか見ないものなのだなと、跡部はその度に思った。
白鳥はその優美な外観に反し、水面下では必死に足を動かし水を掻いているという。その事を聞いた時、跡部は自分に近しいのかもしれないとも思った。最も、跡部は美しく見せる為に内部を覆い隠しているわけではない。結果を伴わなければ、努力も経緯も無駄となるのだと、そう思い切っているだけだ。
苦労話をして、同情を経て何になるのか。己の手で間に合わぬ範囲は他人の手も借りる。一人で全てを抱え込んでいるわけではない。時に仲間達に、「あまり無理をするな」との忠告を受ける事があるとしても。
父の望む自分。母の望む自分。祖父の望む自分。祖母の望む自分。
教師達の望む自分。監督の望む自分。部員達の望む自分。
期待に応える事が苦というわけではない。自分にはそれだけの能力があるとも自負している。
無理ではないのだ。こなせてしまう。だから、結果が付いてきていた。
望まれる自分を演出していく。それは幼い頃からの習いともなっている。
もっと我侭を言え。時には放り出しちまえ。
そう言ったのは誰かと言えば、口調からして一人ぐらいしか居ないけれど。怒鳴るように言ってきた癖に、何故だか涙を流しているのはそいつの方だった。
いつだって、どんな時でも、何があっても助けるから。俺達の事を忘れないで。
そう言ったのが誰かといえば、仲間内の中でもそんな丁寧な物言いをするのは一人ぐらいしかいない。時折、酷くこちらを痛ましそうな目で見ている。
あとべはあとべなんだから。笑ってないと嫌だ。
子供の駄々のようにそんな事を言う癖に。拗ねている本当の理由はこちらにあるというのに。あいつはいつだって先に「ごめん」と謝る。先手を切られてばかりだ。
しんどくないん?無理せん方がええで。
いつもは胡散臭い笑みばかり浮かべている癖に、酷く真摯な目を向けてそんな事を訴えてくる奴の眼鏡の奥の瞳に全てを見透かされそうになる。
なんで駄目なんだよっ!始める前から決めんなっ!
落ちつきの無い子供のように見られているアイツの言葉は、真っ直ぐ過ぎて時に痛い。
お前達にはわからない。
そう言い切る事ができれば、楽なのだろう。彼等が自分の事を思いやっているのはわかっている。充分に解り過ぎている。
けれども、その話は今更だ、との態度を崩せなかった。
仕方がない、事はあるのだ。
ずっとずっと、考えてきた。
駄目なのだろうか。望んではいけないのだろうか。願ってはいけないのだろうか。
けれどもいつだって導き出される答えは一緒だったのだ。
迷い、惑い、迷宮のような迷路の中で一人立ち尽くす。
触れる障害に閉じ込められているわけではない。ただ、避けて通れぬ障壁が、日に日に増えていくだけなのだ。
違うな。
一言の元に言い切った奴が居る。
お前は抜け出れる事を知っている。出口が見えているのに、そこを目指そうとしていないだけだ。
あまりにきっぱり言い切るそいつに、埋め立てた感情が膨れ上がる。お前にはわからない。誰にも言わなかった言葉が口をついた。
ああ、わからない。俺は俺で跡部は跡部でしかないのだから。だが、跡部、お前はいつだって・・・・最初から中心に居たんだ。迷宮の中心に。いや、そこは迷宮などではない。何の壁もない、何処でも選べる、何処にでも行ける場所であった筈だ。手を延ばす先すら見えぬ壁をついたてていき、迷宮を作り上げたのはお前自身だ。だからこそ、望めばお前はそこから出て行く事はできる。いつまで、そんな所に留まっているつもりなのか?
責めるでもなく、諭すでもなく、ただ淡々と綴られる奴の言葉。
いけ好かない。
何故今更そんな事を言うのか。
そんな事を気づかせるのか。
まるで、全てが砂のように解け崩れていきそうだ。
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