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禁断 |
いつも寝てばかりいる癖に、放つ言葉は時折鋭い。
返す言葉もなく黙り込んでしまえば、「あは。ごめん」などと言って、その発言など無かったかのように再び眠り込む。次に目覚めた時にはそんな事など忘れてしまったかのように、態度の端にも乗せる事はなかった。
長い付き合いだから。それだけで済ませられる事なのだろうか。それとも自分がわかりやすいのだろうか。
その答えを尋ねた事はない。幼馴染であるジロー。宍戸。滝。彼等はいつでもさり気なく跡部を助けてくれる。宍戸あたりは時に恩着せがましく恩を売ろうとする事もあるが、それはあいつなりの照れ隠しだ。ジローの場合はやたらと甘え倒してくる。滝に至っては「いつも返して貰っているからいいんだよ」そう言って、柔らかに笑む。
そして――樺地。あいつはいつでもひっそりと、控えめに跡部に付き従う。余計な口を挟まず、静かにいつもそこに居る。
自分は恵まれているのだろう。つくづくそう思う。中等部に入ってから知己となった忍足や向日も、気の合う仲間だ。鳳や日吉といった後輩達も過分な程に自分を慕ってくれる。日吉の方は態度も言葉も素直ではないが、その視線の先はいつも純粋に跡部に向けられていた。
求めて得られる手。触れる温もり。温かな時間。それらはまやかしなどではけしてなかったというのに・・・・自分は一体何を求めているのだろうか。
「――手塚ってさ、跡部の・・・・何?」
「・・・・・・・・・・・」
今日の学食のメニューは何だろうねーなどという、気軽過ぎる口調で問われた言葉に跡部の思考は停止した。
言葉など、幾らでも言い尽くせるであろう舌が凍りついたように動かない。
テニスの実力は確かなものだ。けれども至上というわけではない。
全国大会レベルで最も名の上がる一人ではあるけれど、自分の認識上も他者から見ても、跡部が最も拘っているのが手塚という存在だ。実力的には幸村や真田といった者達も居る。それでも敢えて跡部が拘るのは手塚国光であるのだ。
あの、今なお鮮明に脳裏に焼きついた関東大会での試合。敗北を喫したという面から言えば、1年生である越前との試合の方が本来ならば印象深いのかもしれない。けれどもやはり跡部にとって目線の向く先は、手塚でしかなかった。
テニスを離れて、親しいという関係を築くようにもなった。自ら出向いて、家に泊り込むような相手など今までには居なかった。跡部の家にジローや宍戸が泊まりこむといった事は過去にはあったが、逆はない。その一歩を踏み出そうという気にはなれなかったのだ。
けれども現在はどうだろう。頻繁といって良い程に入り浸っている手塚宅。あの家の温もりに触れ、それは離れ難い吸引性を持っていた。
手塚の傍らの空気は心地良い。常に纏った殻を自然と脱ぎ捨てる事ができる。
ライバル?
友人?
それとも―――?
手塚国光とは、自分にとって一体何なのだろうか。
「・・・・ごめんね。俺、困らせちゃったC〜」
「別に、んなこたぁ・・・・・・ねぇよ」
「あとべ、泣きそうな顔してるよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
目の上に被せられた温かい手。
自然と閉じた瞳から、それでも涙など流れはしない。
泣きたいなどと、そんなわけがない。
ジローはからかっているのだ。
けれどもこの手は温かだから――――そのまま眠りに引きこまれそうになる。
然程の力を込めずに引かれた腕。
抵抗も何もしない跡部は引きこまれるようにジローとベッドの上に転がった。
そのまま柔らかな温もりに包まれたまま、眠りの中へと誘われていく。
ジローの、居眠り病に引かれたのだ。
「もう、聞かないから、あとべも忘れていいよ。ちょっとだけ、つまんなかっただけだC〜」
「・・・・・・・ジロー」
「天気もい〜C〜寝よっ!」
「・・・・・・・天気、かんけーねーだろ」
「へへっ!」
「・・・・・・・・・・」
小さな体に抱きこまれて、安らぎだけを感じる。幼い頃に戻ったかのようだ。
あいつは―――自分にとって、どういう存在なのか。
その答えは、まだ出す必要はない。
箱に詰めて鍵をかけ・・・・・・心の奥底に沈め込む。
深い、深い奥に沈めた禁断の箱。
それは、生涯開く事などないのかもしれない。
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