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ツザンメン |
合宿所に現れた手塚は相変わらず手塚だった。
言葉遊びのようだが、そうとしか言いようがない。表情変化に乏しい所も、むっつりとして不機嫌そうな所も、無駄に年寄り臭い所も、何処から何処までも手塚だった。
代理コーチとはいえ、教師連中と並んで違和感ないなんてありえねぇだろ、と笑いを誘われる事この上ないが、あれで意外に老けて見られる事を気にしているらしいと聞いているので、ひとまずその指摘はしないでおいた。
一応歓迎会など開いたりなどして。そこで数人で手塚の為に歌を歌ったりなどして。ドイツからの一時帰還を祝ったのだ。
宴もたけなわ、という所で夜も更けていき、翌日からの練習に支障があってはいけないという事で、ささやかな歓迎会はお開きという事になった。
飲食物を片付け、部屋の飾りは翌日で良いだろうという話になり、それぞれあてがわれた部屋へと帰っていく。何か用事があるらしい榊が手塚に話しかけているのを横目でちらりと見、気のない風で跡部もまた部屋を出て行った。
それからほんの三十分後。手塚の部屋の前で、跡部と手塚は再び向き合っていた。
「・・・・・・ずっと待っていたのか」
「いや?今来たところだ」
「・・・・・・それは見事なタイミングだな」
「別に嘘じゃねぇぜ?監督とは長い付き合いだ。話の上がるタイミングも大体把握している」
「―――そうか。中へ入るか?」
扉を開け、促す手塚に跡部は口元を「いいのかよ」とばかりに軽く緩める。
「臨時とはいえ、コーチとして特別扱いはすべきではないのだろうが、折角来てくれた訪問者を門前払いで帰すのはもっと忍びない」
「門じゃなく扉だろうがよ」
「まぁそうとも言うな」
軽口を叩きながら、跡部は素直に部屋の中へと入った。この二人の会話を、合宿所の他の面々が目にしたら驚きに目を見張った事だろう。
手塚と跡部の因縁は深い。元々は、跡部が手塚に一方的に突っかかり挑発している――そのように皆は見ていたが、関東大会を経てから二人の関係はある種の注目を集めている。何しろ手塚の肩を潰し、ドイツ送りにした張本人が跡部だ。今日の歓迎会においても、二人の間でなにらかの衝突が起きる事を期待していた目もあった。
その手の視線に跡部は早々に気づいたが、敢えて咎める事もしなかった。腹立たしさよりも、暇な奴等だぜ、と呆れる思いの方が強い。そもそも、そんな奴等には、手塚と跡部の心情など理解できないだろう。他人がどのような批判をしようと関係ない。あの時自分達は理解しあった。それだけで良い。跡部はそう思っていた。
「で、向こうはどうだったよ」
「まぁ、悪くはないな」
「何だよそれ」
味も素っ気もない口ぶりに、跡部がくっくと音を立てて笑う。その顔を手塚はじっと見ていた。
「楽しそうだな」
「まぁな。そこそこ楽しいぜ?それなりに歯応えのある奴等が揃ってるしよ。ついでにテメェも居る」
「ついでか。まぁ、それでもありがたく受取っておこう」
「・・・・・・・・ありがたがるところか?今の?」
「ところだ」
「ふ、ん?ま、いいけどな。てめぇの思考が突き抜けてんのは今に始まった事じゃねぇし。それより、ドイツ語の一つでも覚えてきたか?」
「日常会話程度はな。覚えないと不便で仕方が無い」
「ま、そりゃそうだな」
ご苦労さん、とばかりに軽く肩を竦める跡部は、海外からの客人をもてなす事もあるのと、必要にかられてという所と半ば趣味が重なり、幾つかの他国後使いこなせる。その中でも独語は得意な方だった。
「俺様が付いてきゃ、通訳に困らなかっただろうがな」などと跡部が軽口を放てば、「そうか。ならば向こうに戻る時には跡部を連れて行こうか」などと手塚も返してくる。跡部は、「ばーか。真顔で冗談抜かすんじゃねぇよ」と満更でもない風に返したが、手塚が小さく「・・・・冗談ではないのだがな」と返したのは聞こえなかったようだった。軽口を叩けるぐらいにリラックスしているんだな、と良い方向に誤解した跡部は、周囲の者が時折洩らすように、時折、ある方面において妙に鈍い部位があるのだった。
「それで?一番最初に覚えたのは何だ?」
「Spielen wir zusammen Tennis」
「――――へぇ」
手塚の言葉に跡部の顔からからかうような表情が消える。薄く開いた目は、手塚を隅から隅まで検分するように眺めていた。
「・・・・・悪かねぇな。手塚の口からその言葉が放たれるのはよ」
「今のは跡部に向けていった言葉ではないが・・・・・・完治したら真っ先に言わせて貰おう」
「そりゃ、楽しみにしておいてやるよ」
「損はさせない」
「は!てめぇで言うかよ?手塚ぁ、ドイツ行って図太くなったんじゃねぇ?」
呆れた表情を浮かべながらも、跡部は軽やかな笑い声を立てた。
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