星屑
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 肯定と否定とまでいかなくとも、言葉には反する印象を受ける事がある。跡部の言いたかったはそういう事なのだろう。
 
「言葉の並びを変えただけで意味合いが随分違って聞こえてくるもんだよな」
「そういう場合も確かにある」
 跡部の言葉に俺は完全否定でもなく、完全肯定でもなく、曖昧に取れるような答えを返した。
 言葉通りに取れないのが跡部という男だ。
 軽口に紛れて深い意味が込められている事がある。逆に単にこちらをからかっているという場合もある。
 つくづく厄介な相手に関わってしまい、さらに厄介な特別な感情を抱いてしまった自分は自虐趣味なのかと思わなくもないが、跡部を知らずにいたら幸福であったかと言えばそうではない。空虚な人生を過ごしたであろう事は間違いないからだ。
 跡部だけが、知らぬ自分を、知らぬ感情を引き出すのだ。身を滅ぼしたとしても本望だ、と言い切れてしまう自分は大概終わっているのだろう。
 ・・・・・・・・まぁ母あたりは「その心意気よ!」と応援してくれるのかもしれないが。それもまた、心強いのか・・やるせなくもなるのか・・まぁ何というか微妙な所だが。
「例えば、どんな言葉において跡部はそう思うんだ?」
「俺様を試そうなんざ、いい度胸じゃねぇ?」
 探る視線は検分するかのようで。どんな反応を引き出したいのか。手塚としては、ただ単純に跡部の意見が聞きたかっただけなのだが。
「そんなつもりはない」
「まあいい。俺様は親切だからな、乗ってやるよ」
「・・・・・・・・・・」
 勝手に自己完結するなとも言いたいが、跡部の場合その脳内でさまざまな思考が巡りまわった故の結論なのだろう。
「星屑と屑星。意味合い的には一緒だよな」
「多分、な」
「単語をひっくり返しただけだ。それでいて、星屑はきらめかしい。いまだ才能が開化しない原石のような響きじゃねぇか?」
「・・・・・そうだな」
「だが、言葉を返して屑星とすると光る事もかなわない、取るに足りない存在のように聞こえる」
「誰かにそう言われてのか?」
「は、この俺様をか?ありえねぇだろ」
「確かにな」
 跡部は多才な方面において才気溢れる存在だ。ただ立っているだけでも周囲に発散される華やかなオーラ。容姿ばかりでなくその存在そのものが人を惹きつけて止まない。今でこそ氷帝学園内にのみその影響はとどまっているが、将来跡部がその気になった時、全てを飲み込むカリスマ性の影響力など計り知れない。
 ただ、跡部に対してそのような発言をする者は居なくとも、その周囲に向けて発せられた言葉なのかもしれない。一瞬だけ垣間見えた瞳の中の冷たい輝きは、ひやりとするものだった。手塚に対して怒りを抱いているというわけでないと、わかっていても。
 跡部は仲間を大事にしている。自分の事しか考えていないように見られがちだが、優れた指導者でもある。跡部の目には、あの多数の――200名もの氷帝部員達は、それこそ屑星などではなく、星屑として見えているのだろう。
「氷帝学園の跡部景吾と、跡部景吾の氷帝学園。こいつは違うかね?」
「どちらも代わりはしない。氷帝の顔は跡部であるし、跡部の後ろには常に氷帝がある。―――だが、俺はただの跡部が良い」
「は?」
「跡部一人がいればいいからな」
「・・・・・・・ばっかじゃねぇ?」
「自覚はないこともない」
 むっつりとした顔で言い切ると、跡部は「お前、本っ当馬鹿みてぇ」とからかうような口調で、軽やかな笑い声をたてた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 2006.11.16
 
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