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光る |
ポーン、と軽やかなブザー音と共にランプが光る。
重量オーバー。
非情かつ無情なる点灯である。
「・・・・・・跡部」
「んだよ」
溜め息も露な手塚を跡部が睨む。俺様が悪いんじゃねぇ、とばかりに何処か拗ねたような表情で。
いや実際、跡部が悪いわけではないのだ。
たまたま・・・・が、たまたまで、たまたま。たまたま、そういう巡り合わせが重なりに重なっただけである。
駅で自動改札を通ろうとすれば、キンコン鳴る音。ランプを光らせる改札を前に、立ち往生。
自販機で飲み物を買おうとすれば「釣り銭が足りません」と光るエラーのランプ。こんな場合、跡部としては業者を呼んで待つ手間暇かけるぐらいなら放置しておきたい所だったのだが、生憎手塚はそれを許さない。じりじりと日差しの照りつける中で、じっと耐え、待つ事となった。
量販店の電機屋にても、ぴんとくる品がなかったのでそのまま出ようとすれば、出口間際に警告音と警告ランプが光る。即座に警備員がかけつけてきて、危うく万引き扱いとなる所だった。
結局警報器の故障であったわけだが、その間大層不快な時間を過ごす事となったわけで。揚げ句の果てがこれである。
重量オーバーによるブザー音が虚しくも鳴り響く中、チカチカと光るエレベーターの液晶表示が恨めしい。
別段、跡部が重量級というわけではなく、重い荷物を持っているわけでもない。
乗っている人々が平均体重であっても、×人数でいけば何れは規定重量に達するのだ。だから非が跡部にあるわけではない。絶対にない。
だが、こう続いてくれるとなると・・・・手塚でなくともわざとか?と問いたくもなるというものだ。
「お前のせいではないとはわかっているが・・・・実は確信犯なのではないかと言いたい気分でもあるな」
「――――ざけんな。てめぇが降りた後に俺様が乗って、その後てめぇが乗っても結果は同じだろ?」
「それは、そうだろうが」
「だろうじゃなくて、そう、なんだよっ!」
「おいおい兄ちゃんら、結局どっちか乗るのかい?」
「いや。失礼した。行って下さい」
一人だけ乗って、今一人が取り残されても仕方がない為、手塚は小さく頭を下げると二人を待っていたエレベータに行って貰う。しかしながら間が悪いもので、一台見送った後に次が来るまでの間、かなりの時間を要する事となった。
その日はとにかくついていない事がその後も続くに続き・・・・何やらやたらと、標識やら警戒音にやら跡部がひっかかりまくってくれて、両名共にテニスで鍛えた身ではあるのだが、やたらと疲れた。多分に精神的な疲労からだろう。
表情の変わらぬ手塚の方も機嫌が絶好調とは言えない。手塚よりは感情の起伏を表に出す(半分以上は演技というか計算してのものであるが)跡部の方は、不機嫌たる様を隠そうともしない程に機嫌が低空飛行状態となっていた。
「・・・・・・跡部」
「・・・・・るせぇ。俺のせいだって言いてぇんだろ」
「・・・・・いや。こういう巡りあわせの日もあるものだろう。大体、お前は普段から恵まれているのだから、たまにはこういう風な目に合うのもつりあいが取れているのではないか?それに毎度付き合う気にもなれんが」
「ほーぉ。確かに今日の俺様は日が悪いったらなかったが・・・・実はてめぇが俺様の運を吸い取ってたりしねぇか?――ったく、やってられねぇ。今日はもう止めだ。てめーともここで別れる」
手塚の物言いが気に入らなかったのか、跡部は一方的に別れの宣言をするとさっさと手塚の前から離れていこうとした。すでに意識の方は手塚から離れているらしく、鞄の中から携帯電話を取り出して、操作しかけながら。
「―――跡部」
「アーン?まだいやがったのかよ、てめぇ」
「・・・・・・・誰を呼び出すつもりだ?」
「てめーにゃ関係ねぇだろ」
「一方的に約束を反故にされたんだ。充分問う理由はあると思うが?」
「ふん。千石だよ」
「千石、だと?」
「ああ。無駄にラッキーを振りかざすアイツだ。少しは俺様の運気も上昇するってもんだろ。少なくとも、てめぇの辛気臭ぇ面と付き合ってるよりはな」
そう言うと、跡部は手馴れた手つきで千石のアドレスを呼び出し、通話ボタンを押した。すぐさま、調子の良い千石の声が跡部の携帯越しに手塚の耳にも届く。
急な呼び出しに嫌がる風もなく、千石は即答でOKを出したようだ。跡部はふっと笑みを浮かべ、千石に待ち合わせ場所を伝えようとしている。
「・・・・・・・・・・・・」
これを、見送るという方がどうかしているというものだ。
「―――じゃぁな。30分後に駅前の―――っ?!」
「―――――」
喫茶店で・・・・といいかけた跡部の言葉は、千石には伝わらなかった。理由として、跡部の持っていた携帯電話は跡部の手の中に残っていないからである。
「・・・・・・その約束はキャンセルだ」
『―え?誰・・・・ってその声、手塚・・・・くん?』
「・・・・・・・・・・・」
戸惑う千石に答える事なく、手塚は通話ボタンをぶちりと切った。
「手塚ぁっ!てめぇっ、何てことしやがるっ!」
「―――今日は一日俺に付き合うという話だった」
「今日は終いだって言っただろ!」
「俺は了承していない」
「俺様が終わりだと言ったらそうなんだよ!」
「俺にその気はない」
常日頃、年相応には到底見えぬ落ち着きと大人びた態度を保つ二人であるのだが――――
この日は、子供の喧嘩よろしく天下の往来の真ん中で、ぎゃんぎゃんと――傍から見れば他愛ない――口論を延々と続けるのだった。
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