光る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「景吾様はお部屋でお待ちです」――と言い残し、部屋の前まで案内してきた跡部家の使用人は一礼するとそのまま下がっていった。
 
 
 いつも跡部は、手塚の訪問時間に合わせて入口で出迎えてくれる。突然の訪問以外でこのように人任せにするのは珍しかったが、恐らく何か手が放せない用事でもあるのだろう。
 己を過信しているというわけではないのだが、無茶をする所のある跡部であるので、体調を崩しているのでないといいが――とほんの少しの不安を抱きながら跡部の部屋の扉をノックした。
 
「開いてるぜ」と、扉ごしにもよく通る声は普通に元気そうで、手塚の心配は杞憂のようだ。いつも覇気ある跡部であるので、たまに弱った所など見てしまうと、大層落ち着かない思いをさせられる。なまじ外見が優美で整っているだけに、大人しくなると儚げにすら見えてしまうのだ。中身がアレだとわかっていても、だ。
 
「悪ぃな、迎えに出なくて」
「いや」
 首だけ巡らし、声をかけてきた跡部はパチリとウインクをしてみせた。そういう所作が妙に似合い決まる奴だ。
「ま、適当にかけてろよ」
「そうさせて貰う」
 
 勧めに従い、壁際に備えつけられた来客用のソファに腰掛ける。跡部はといえば、手塚の動向を気にせず、背を向けたままだった。何かの作業に気を取られているらしい。
 
「―――そろそろか」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 何だかわからぬ器具の前に立った跡部は、透明の液体を満たした容器を取り上げていた。何か実験でもしているのだろうか、と、尋ねるタイミングを逸しながら、手塚は跡部の動きを見守っていた。
「ふん、なるほどね」
「・・・・・・・・・・・」
 
 何を納得したのか、まじまじとその容器を見つめた跡部は満足そうだ。一体何の実験なのか、跡部の手の中の容器を満たしている液体は、きらきらと光る浮遊物を孕んでいる。
 その容器を手にしたまま、跡部は台の上に用意 されていた茶器へと注ごうとしていた。
 どうやら、容器の中は沸いた湯であるらしい。
 だが、しかし――――
 
「・・・・・・・・・跡部」
「ア?」
「それを、注ぐのか?」
「んだよ、俺様自ら茶を煎れてやろうってのに、不満だってか?」
 
 ティーポットに湯を注ごうとしていた跡部の手が止まる。本来、せっかくのもてなしを断るような手塚ではないのだが・・・・この時ばかりは制止せずにはいられなかったのだ。
 
「そういう事ではなく。それには何か、浮いてないか?」
「ああ、コレね。別に不純物じゃねぇよ。水の中に含まれる成分だ」
「だが浮いているぞ」
「だから、普通は溶け込んでんだけどよ、サイフォンで沸かしたからな、ミネラル分が結晶化したんだ。別に毒じゃねぇぜ?」
「――――」
 
 跡部の説明を聞きながら、じっと見つめる手の先は、やはりふよふよ何かが浮いた液体で。
 きらきら光る怪しげな浮遊物で。
 じぃと見つめる手塚の視線は、あからさまに不審物を見る目だった。
 
「・・・・・・・・・てめ―、人の言う事、信用してねーだろ?」
「いや」
 
 不機嫌さが滲み出ている跡部の声音に気づき、そんな事はないという態度で一応否定をする手塚だったが、跡部の方はそんな手塚の返事など曖昧な誤魔化しとしか取らず、眇めた視線をより一層細めるだけだった。これは、一つの危険信号である。
 
「顔がそうは言ってねーな」
「・・・・・・・・・・・」
「言っとくが、てめーの鉄面皮は俺様の前じゃ通用しねぇ」
「知っている」
「ふん。飲みたくないってなら、別に構わねぇけどよ」
 
 不機嫌な表情のままに、跡部が手塚の前に置いたカップを取り上げようとした。
 
「―――待て」
「んだよ」
「下げなくて良い」
「別に無理しなくていいってんだよ。俺様は心が広いからな、ちゃんと別の飲み物を用意してやるぜ?」
「大丈夫だ、跡部」
「アーン?」
「乾の特性ドリンクで鍛えられている身だ。問題ない。油断せずに行こう」
「・・・・・・・・・・・・てめぇっ!これっぽっちもまるっきり信用してねーじゃねーかっ!!」
 
 覚悟を決めた表情で、きっぱりと言い切った手塚には、当然の事ながら跡部の怒声が浴びせられるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 2006.05.22
 
 
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